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明るうす

明るうす あかるうす


形容詞「明るい」の連用形「明るく」のウ音便形「明るう」が「する(為る)」の文語形「す」に接続して「明るうす」となります。明るくするという意味です。
ウ音便は、「ありがとう(ありがたく)」のように標準語に定着したものもあれば、「寒うて(寒くて)」「早う(早く)」などの方言として残っているものもあります。「明るうす」は文語の「す」を使っていますから、方言というよりは文語表現と捉えたほうがよいでしょう。
同じ表現に飯田蛇笏の<芋の露連山影を正しうす>があります。この「正しうす」も「正しく」のウ音便「正しう」に文語動詞の「す」が接続したものです。「正しくす」だとどこか報告の域を出ないような気がしますが、「正しうす」とすると、読みが「ただしゅうす」と字面から変化するところも魔術的で、なんだか呪文のような特別な表現に思えてきます。「明るうす」にも同様の効果があるのでしょう。


薔薇一輪九尺二間を明るうす  森井敏行
「九尺二間」は間口9尺(約2.7メートル)奥行2間(約3.6メートル)。六畳一間程度の広さで、江戸時代の長屋はこの広さだったそうです。台所込みですから、人が「食う寝る」ところは四畳半程度で、かなり狭い居住空間ですね。転じて、粗末な家、貧しくみすばらしい住居を指すようになりました。そんな狭い我が家を一輪のバラが明るくしてくれたのです。花の形も美しく香りよく気品のあるバラならば、そんな魔法のような効果もあるのでしょう。
この俳句は、テレビのNHK俳句で「薔薇」の兼題で特選第一席なったもの。選者の高野ムツオ先生は、「住まいを卑下しているのではなく薔薇の力を讃えているのだ。一、九、二の数字が効果的」と評しています。

三尺の庭石蕗の花明るうす  稲畑廣太郎
こちらは、狭庭をツワブキの花が明るくしてくれました。この三尺も90センチ四方のということではなく、狭さを強調したものでしょう。<つはぶきはだんまりの花嫌ひな花>と鷹女には嫌われてしまいましたが、日陰でもよく育ち、初冬の寒くなっていく時期に落ち着いた黄を開くツワブキの花には健気な印象があります。薔薇とはちがったほんのりとした明るさでしょうか。

暗い、狭い、みすぼらしいなど、ネガティブな状況に「明るうす」は一筋の光を投じます。まだまだ他にも例句がありそうです。

◎引用出典
・芋の露連山影を正しうす  飯田蛇笏/『現代の俳句』(講談社学術文庫)
・薔薇一輪九尺二間を明るうす  森井敏行/NHK俳句2026524日放送」
・三尺の庭石蕗の花明るうす  稲畑廣太郎/「ホトトギス 2001年11月号」
・つはぶきはだんまりの花嫌ひな花 三橋鷹女/『現代の俳句』(講談社学術文庫)

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