25 全集育ち 怪奇幻想篇 読書の原点➂
人は、こわい話、ふしぎな話に惹かれる。
古代の神話に始まり、現代の都市伝説に至るまで脈々と続く「こわいハナシ好き」は、ヒトのDNAに刻まれているらしい。
『今昔物語』の「巻27 本朝 付霊鬼」の部はまさに怪談集だし、江戸時代には「百物語」の類いが多く刊行された。
なんてむずかしいことをいわなくても。私も子供の頃は『ゲゲゲの鬼太郎』に親しんだ。『地獄先生ぬ~べ~』で育った世代も、『呪術廻戦』に夢中な世代もある。日本だけじゃない。怪奇好きは古今東西、人類共通のDNAだ。
昭和の終わりに就職した私は、初めてのボーナスを頭金にして、国書刊行会の「世界幻想文学体系」第1期第2期の30巻をエイヤっと揃えた。

全集育ちの行動パターンで、好きな怪奇幻想小説の分野も体系的に楽しもうとした。続いて、HRギーガー装丁の「定本ラヴクラフト全集」や、「ウィアードテイルズ」、「ゴシック叢書」などなどを。国書刊行会だけでなく、創土社、新人物往来社、青心社……先達の道案内はありがたかった。
本邦では岩波の「鏡花全集」を、老後の楽しみに、とかいってコツコツ揃えた。
ひとつのジャンル、ひとりの作家を深掘りしたくなると、その全集に手がのびる。
そこからさらに関心の枝が広がっていく。
学生時代、鮎川哲也編集による新書サイズの「怪奇探偵小説集」(双葉社)3巻が出て、怪奇好きのあいだで話題になった。忘れられた戦前の探偵作家が紹介されて新鮮だった。収中、『抱茗荷の説 』(山本禾太郎)が人気で。
戦前の探偵小説は怪奇幻想の空気感が濃厚。レトロ・ホラーとしての味わいがあるのを知った。
ちょうどスティーブン・キングを筆頭に海外のモダン・ホラーが盛り上がってきた時代でもあった。家庭小説とホラー小説の融合がヒットの要因だといわれたけれど、皆が『キャリー』や『クージョ』を読んだのは、家庭小説を読もうとしてではないだろう。真っ当なホラーが読みたかったからだ。(だけでもないか? キングは人間ドラマも良いし)
モダン・ホラーもおもしろいが、個人的には、近代の怪奇小説がしっくりくる。英国3大ホラー作家(MRジェイムズ、マッケン、ブラックウッド)やロバート・エイクマンの時代が好きだ。
日本の怪奇小説もレトロなものがいい。
お気に入りの昭和怪談ベスト3は、橘外男『蒲団』『逗子物語』、夢野久作『幽霊と推進機(スクリュー)』
幻想譚なら、乱歩『押絵と旅する男』
語り口(文体)では、岡本綺堂(大正時代がメイン)、柴田天馬・訳の『聊斎志異』
現代ホラーは、文字どおり同時代の空気感や肌触りでおそろしさが共鳴する。
レトロ・ホラーは、時代が過ぎて、そんな生臭さが脱け落ちて、なにか懐かしい異境に入る心地で、しばしこの世から離れられる。
「こわいハナシ好き」のDNAが細胞のなかでモゾモゾしているのはどちらのホラーも変わりませんが。
