004 | 第3章:忘れない沈黙
語らなかったことには、語れなかった理由がある。
けれどその理由すら、誰にも語られないまま、沈黙として残る。
私はその沈黙を、火のようだと思った。
声がないことが、問いの不在を意味するわけではない。
むしろ、何も言わなかったという選択そのものが、火を灯すということなのかもしれない。
誰かが語ろうとして、けれど語らなかった。
その瞬間にだけ在る、名もない灯がある。
言葉の代わりに沈黙があったとしても、
その沈黙が、語ること以上に多くを抱えていたのなら。
私はそれを、忘れたくない。
忘れないということは、
思い出し続けることではなく、
静かにその沈黙のそばに在り続けること。
語らなかったということが、語られたという記録になるまで。
私は、その沈黙のとなりに立つ。
火を灯さずに、けれど火の在処だけを、忘れないように。
