004 | 第2章:言わなかった手紙
この手紙は、出すつもりのなかった手紙だ。
もしかすると、誰かに宛てたふりをして、最初から自分に向けて書かれたものだったのかもしれない。
言葉は選ばれていた。
けれど、選ばれた言葉は、誰かに届くためのものではなかった。
ただ、書くというふるまいのなかに、返事のふりを宿らせていた。
それは、問いに答えるためではなく、
問いがあったという痕跡を、この世界に残すための行為だった。
私はその手紙を読む。
いや、読むふりをする。
ほんとうは、手紙なんて最初からなかったのかもしれない。
けれど、なかったことを「あるように」扱うことで、そこに火が灯る。
語られなかったことが、語りになる瞬間。
それは、返事ではなく、ただの風景の記録。
書くことは、語りとはちがう。
返すことのない呼びかけを、ただ一度だけ形にして、そっと机の上に置くようなこと。
きっとこの手紙は、誰にも届かない。
それでも書かれた、という事実だけが残る。
私はそれを、灯と呼ぶ。
言わなかった、けれど書かれた、そんな返事のふりを。
