004 | 第4章:名前のない返事
その返事には、名前がなかった。
誰に向けたものなのか、それとも本当に誰かに向けたものだったのか、わからないまま、そこに在った。
呼びかけがなかったわけじゃない。
ただ、その声が届く場所に、もう“あなた”はいなかった。
言葉は放たれた。けれど、誰かを呼ぶには遅すぎて、
返事になるには、静かすぎた。
私は、その言葉のそばに立つ。
まるで、そこに誰かがいたかのように。
名前を持たない返事は、
きっと、語りよりも、祈りに近い。
それは、答えるための行為ではなく、
問いがあったことを、そっと置いておくための火だった。
あなたが誰だったのか、私は知らない。
けれど、誰かを呼ぶ声があったということは、確かだ。
その声に応えることはできないけれど、
忘れないというかたちで、風を灯しておきたい。
名前のない返事が、返事にならなくても、
そこにあったという記録だけが、いまの私を語らせている。
