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自分のパンツは自分で洗え〜8、婚活で運命とか言われても⑦


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 6月はなぜ予定が合わないのか。それには二つの理由があった。

 ひとつめは仕事の繁忙期。毎年6月までピークが続くが、当時はスタッフの増員もなく、私と甲斐さんのふたりだけでまわしていた。つまりシフトの早番・遅番という概念もなく、朝8時から22時半までぶっ通しで働くのが当たり前。土曜は昼休憩もとれないまま16時まで働いた。

 平日でも休憩がとれないのは日常茶飯事。返上した休憩時間を残業として計上できるのがまだまともな世界だった。22時を過ぎると深夜残業となり割増しとなるが、給料が増えるよりも一分一秒でも早く帰りたいというのが本音だった。

 さらに私は、6月末に本命の新人賞を控えていた。まともに帰ることもできない生活、睡眠時間を削り原稿を書く時間を捻り出す。会社員と小説家の二足の草鞋を履く以上、スケジュール管理が何よりも大切だ。

 5月はGWのおかげでまだ余裕があったが、6月は祝日もなにもない。土曜はフル出勤、まともに休めるのは日曜日だけ。その生活ゆえに、6月は予定が合わないとはっきり伝えていた。

 にもかかわらず。

『こんにちは。今月また札幌に行くことになりました。忙しいとは思いますが、よろしければランチなどいかがでしょうか?』

 角田さんからのLINEに、昼休み返上で働いていた私は思わずため息をついていた。

 もともと、角田さんも6月は札幌に帰省する予定がないと言っていたはずだ。6月中は無理ですが7月なら大丈夫ですよと、一ヶ月は自由にしてほしい旨を私はしっかりと伝えていた。

 彼に小説家の話はしていない。しかし、OL業のほかに副業をしていると伝えた。フリーランスの仕事をしているとつたえると、角田さんは『フリーランスですか!?』と異様に驚き、またしても自分の許容できない世界に戸惑っていたのが記憶に残っている。

 LINEのやり取りはしていたが、帰宅が22時を過ぎると力尽きて返事をする余裕もない。それが彼にはそっけない態度に映ってしまったのだろうか。

 本当に札幌に来る用事があるのかもしれない。しかし、LINEの文面から、私にはそれがお誘いの口実に見えた。

『すみませんが、以前お話しした通り6月は忙しくて予定を合わせるのが難しいです』

 とはいえ、本当に札幌に来るのかもしれないし……それなら、婚活パーティーでカップリングした人と会うなり、またパーティーに参加するなり、彼も新しい出会いを広げたほうがいいのではないかと思う。

『せっかく札幌にいらっしゃるなら、私だけでなく、ほかの人との出会いも広げてみてはいかがですか? 複数同時進行が苦手だというお話は聞いていましたけど』

 あくまでも私たちは婚活パーティーを機に出会ったお友達だ。本人も決まって「深い意味はないんですが……」と枕詞をつけていたではないか。

 深い意味がないと前置きして人を誘い、自分にないものを持っている人が良いと発言し、あくまで私に好意はないですよとアピールしていたと思っていたのだが。

『ぐは、クリティカルヒットです』

 LINEの雰囲気が突然変わる。

『わかりました……今までいろいろとありがとうございました』

 角田さんはそう返した。

 ……ん?

 なんだこの反応??

『婚活でいろんな方とやり取りをするのは悪いことではないと思いますよ』

 30代の婚活は時間勝負でもある。マッチングアプリや婚活パーティーなど、すぐに関係が切れがちな浅い関係にひとつひとつ時間をかけていては効率が悪いだろう。

 きっぱりと断ったわけではない。繁忙期が終われば私にも余裕が戻ってくる。LINEでそのあたりをやんわり伝えたのだが、その後、角田さんから返信が来ることはなかった。

 ……んん?

 なんか、私がフったことになってる??

 既読で終わったトーク画面を見て、私は首をかしげるばかりだった。

 やっぱりこれ、帰省するのは口実だったよね? でも、6月は忙しいって伝えていたから断るのも仕方ないじゃない……もしまた友達と会うならGWみたいに婚活パーティーに行くのも良いのではと思ったけど……

 なんだこの終わり方。

 向こうが勝手に暴走してひとりで終わった感が否めないのだけど。

 え? でも、これで私からまたフォローのメッセージを送るの……?

 そこまでしてこの人にまた会いたいと思うのか自分……??

 ……ま、いっか。


 角田さんとの関係はこうして終わった。



 繁忙期が終わり余裕を取り戻した7月から、私はちょこちょこマッチングアプリを利用するようになっていた。

 メッセージのやり取りをし、その後食事に行った人もいる。アプリのやりとりでは私のことを気に入ってくれたが、実際に会うなり「久深さんってマスク美人なんですね」と言われたこともある。何度か続けて食事をする人もいたが、あと一押しという決め手がなく自然消滅的に終わったこともあった。

 そして私は、街中で占い師を見つけるたびに相談を続けていた。

 これからの人生がどうなるか知りたい。婚活はうまくいくのか、結婚相談所に入会したほうがいいのか。残業ばかりの仕事が辛い、小説を書く時間を削られる仕事を続けるくらいなら、派遣やパートに転職したほうがいいのだろうか、しかし次の出版予定も決まっていないのに仕事を辞めるのはリスクが高すぎる。

 様々な占い師が様々なアドバイスをした。『結婚相談所に入会すれば、自分が納得しなくても周囲がお膳立てしてくれるだろう』『OLの仕事よりも小説の道を選んだほうがいい』『仕事を続けながらやると遠回りになる』『いまやりとりしている仕事相手とは結果が出ないだろう』

 新人賞の結果が奮わず、気付けば34歳の誕生日が近づいていた。

 占いの世界では、誕生日を境に運気が変わるとされている。節分を節目に一年と考える場合もあるが、そのタイミングで私は次の一年を占ってもらうようにしていた。

 33歳の一年、様々な占いで『今年は我慢』と言われていた。そもそも30代はずっと『我慢』『辛抱』と言われていたが、34歳になればまだ変わるのだろうか。そう一縷の望みをかけて足を運ぶと、以前、私の異動を当てた占い師が出店していた。

 この人の占いは当たる。今日はタイミングの良い日なんだ。喜び勇んで占いを申し込み、女性の占い師に以前もお願いしたことを伝えると彼女は記憶をたどるように視線を投げた。

「小説家……金平糖をテーマに書いていたんだっけ?」

「……それは私じゃないですね」

 金平糖をテーマにしたことなど一度もない。占い師は私のことを覚えていないようだった。

 彼女は生年月日をもとに、マヤ歴やタロットを使う占いを得意としていた。次の一年の運勢が知りたいと伝えると、マヤ歴の本やタブレットをもとにさらさらと運勢を導き出す。

「……次の一年も、あまり良い運気ではなさそうね」

 その言葉に、私は身体の力が抜けるのを感じた。

「小説のほうも結果が出なかったっていうけど、それはあなたの努力が足りなかったんじゃない?」

 占いで、頑張れば結果が出てくると言われ、とにかく頑張ったはずなのだが。

「あるいは、努力の方向が間違っていたのかしらね。来年もあまり良さそうではないし、我慢していくしかないかしら」

 33歳はずっと辛かったけど、これが34歳になっても続くの?

 ずっと我慢して頑張っていたのに、まだ我慢し続けなければならないの?

 いつになったらこの苦しさから解放されるの……?

 気づけば、私の目から涙がこぼれていた。

 占い師が焦るのが伝わる。街角の占いコーナーで、突然涙を流されても困るだけだろう。慌てたようにタロットカードを取り出し、泣かせたおわびにと時間をサービスして占ってくれたが、私はその内容を半分も覚えていない。

 だめだ自分、占いの結果に振り回されるようになっている。

 自分の未来の道しるべを知るために利用していたはずの占い。しかし、その占いの言う通りに動いても良いことなんて何も起きないではないか。

 自分の人生は自分でつかみ取らなければならないのだ。

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 結婚相談所の入会に関して、私は占いのアドバイスを求めなかった。

 一年間で使ったお金は5万円くらいだろうか、固定の占い師にのめり込まなかったのが幸いだった。しかし、街角の占い師でも一度に3~4千円はかかる。そのお金を旅行に使うべきだったと思うが、それも良い勉強代と自分を納得させた。

 何より今は、結婚相談所の出費のほうが大きい。

 月々1万5千円の会費が、活動中に値上がりした。活動も半年を過ぎ、入会金や写真代を含めると軽く20万円は飛んでいる。年収300万にも満たない稼ぎの中、目減りしていく貯金に精神的な負担も大きかった。

 5月から6月にかけて、お見合いがまともに成立せず、私は本気で退会を考えるようになっていた。

 仮交際に進んでもすぐに交際終了になるか、あるいは『今週もお仕事頑張りましょうbot』と化している人が残っているか。珍しくお見合いが成立したかと思うと、転勤族の男性はいつの間にか四国に引っ越していた。それでも桜田さんはお見合いをするよう、仮交際をするよう勧めるが、北海道~四国の遠距離がどうしても想像できなかった。

 繁忙期で心も体も疲弊しているところに、さらに婚活でまで追い詰められたくない。相談所に登録する男性が求める女性像に、私が当てはまらないのも嫌というほどわかった。休会するにもお金がかかるため、結婚相談所に見 切りをつける良い機会だと思っていた。

 退会について話す私を、桜田さんは何度も引き留めた。

『相談所での活動で、心が折れてしまいそうになる人は多いです。でもみなさん、運命のお相手を見つけるために頑張っていますよ。田丸さんももう少し頑張ってみませんか?』

 運命の相手。その言葉に、私の心がぴくりとも動かない。

 結婚相談所という、条件ありきで選ぶ打算だらけの現実的な世界。そこで見つけ出すのは、運命ではなく計算ずくの相手ではないだろうか。




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