「読む前から、もう好きになってた。」
─「気になる一行」から始まる読書会「フラグフレーズ」
こんにちは。福島県田村市で「シェア型本屋」を
運営している吉田正之です。
今回は、私たちの本屋で開催している読書会ゲーム「フラグフレーズ」についてご紹介します。
このゲームは、
小説家の竹内真(たけうち・まこと)さんが考案されたものです。
竹内さんが以前から構想されていた読書会形式を、私たちが田村市で試験的に取り入れ、毎月定期的に開催するようになりました。
竹内さんとの出会いは、
田村市役所の前に来ていたキッチンカーのカレーがきっかけです。
カレー好きの竹内さんが那須から電車で、わざわざ田村まで来ていて、偶然シェア型本屋に立ち寄られたことが始まりでした。
店内での会話の中で、「本を最後まで読んでいなくても、「気になった一文」をきっかけに語り合える読書会ができたら」というアイデアをお聞きし、その面白さに共感して、すぐにやってみようという話になりました。
「フラグフレーズ」は、本を読み終える必要がない読書会です。
たとえば、本棚でパッと目に入った一文。
「今の気分に合ってる気がするな」「なんだか引っかかる」
――そんな一行を紹介役として選び、参加者みんなでその言葉について自由に話し、感想や連想をお喋りします。
最後には、その一行が載っていた本を紹介し、「今日のフラグ本」を投票で選びます。
竹内真さんは、小説『図書室のキリギリス』シリーズなど、図書室を舞台にした物語を多く執筆されている作家です。
また、彼の小説『カレーライフ』は、2002年にNHK-FMラジオドラマとして放送されました。本と人との間を近づけるような、やさしくてあたたかい視点が、このゲームにも込められています。
第1章|読んでなくても、誰でも参加できる
「読書会」と聞くと、「事前に本を読んでこないと…」と思う方も多いかもしれません。でもフラグフレーズでは、本を読むという“準備”は不要です。
たとえば、お店で何気なく開いた本の1ページに、妙に気になる言葉が目に入る。意味はよくわからないけれど、なんだか頭から離れない。
それだけで、もう参加資格は十分です。
紹介役として、その一行を提示してもらえればOKです。
「なんとなく好き」「ちょっと変だなと思った」
――そのままの感覚でいい。
だからこそ、読書が苦手だった人や、普段本を読まない人でも、入りやすい空気があります。
この読書会は、「言葉」をきっかけに、人と人とが緩やかにつながる場。
準備不要、正解不要。だからこそ、誰でも気軽に参加できます。
第2章|語ることで、言葉が動き出す
このゲームの醍醐味は、たった一行の言葉が、参加者それぞれの感性を引き出していくところです。
紹介された言葉を囲んで、みんなで思い思いに語り合う。
「これ、最近あった出来事を思い出した」
「高校のときにこんなこと言われた」など、
それぞれの経験や気持ちが少しずつ場に重なっていきます。
中には、「それ、全然違う解釈だと思ってた!」という驚きの声も出ます。
でも、それがこのゲームの面白さです。
たとえば、ある参加者が紹介した「静かに戦う」というフレーズ。
そこに「自己主張せずに頑張ってる人の姿が浮かぶ」という人もいれば、
「本音を飲み込む苦しさを感じる」という人もいました。
同じ言葉でも、こんなに見方が違うんだ、という気づきが広がっていきます。
本の中の静かな言葉が、会話の中で動き始め、全員の中を巡るように旅していく。言葉を読む、ではなく、“体験する”という感覚がこの場にはあります。
第3章|読むことのハードルを、ひらく
「活字を見ると眠くなる」
「最後まで読むのが苦手」
「難しそうで手が出ない」
――本に苦手意識を持っている人は、意外とたくさんいます。
それに加えて、わたしのように老眼で文字が読みにくいという声もよく聞きます(笑)。
でも、フラグフレーズは最初から最後まで読む必要がありません。
ページをめくる途中でふと目に入った一行
――それで十分です。
たとえば、「こんなセリフ、自分なら絶対書かないな」と笑いながら紹介した一行が、別の人には「実はすごくグッときた」と言われたりします。
実際に参加者からも、「立ち読みで見つけた一文だったんですけど」と紹介されることもあります。その一文が、思いがけず誰かの気持ちに強く残ることもある。
「読んでいない」ことが、むしろ自由な読み方を生む。
そんな経験が、この会ではたくさん起きています。
第4章|ことばが生む、小さなコミュニティ
フラグフレーズでは、紹介された一行について、誰かが話し始めると、
自然と周りに会話の輪が広がっていきます。
たとえば、
「風が吹いても、心までは揺れない」
というフレーズを紹介したときのことです。
「受験期に不安だった自分を思い出した」という声や、
「家族の病気を乗り越えたときの気持ちに似ている」といった話が
次々と出てきました。
わたし自身も、
「誰かの声が、まだ胸に残っている」という一行を
紹介したことがあります。
そのとき、初対面の方が
「今は会えない人の声が、ふとしたときに聞こえる気がして」
と話してくれました。
その言葉に、わたしの胸もいっぱいになりました。
本の内容を詳しく知らなくても、たった一行のことばが、
その人の人生の場面や感情を引き出すことがあります。
読書というと、静かに一人で本を読む印象があるかもしれません。
この読書会ゲーム「フラグフレーズ」では、
本を通して他の人の考え方や感じ方に触れられます。
「そんなふうに読む人もいるんだ」と驚いたり、
共感したりする機会がたくさんあります。
気づけば、初めて出会った人とでも、
本の話から日常のことまで話せるようになっていることもあります。
仕事の話や、最近あった出来事の話にまで広がることもあります。
「本がきっかけで、人と話せるようになる場所」。
そんなコミュニティが、ここには生まれています。
第5章|今日の「フラグ本」が、あなたの一冊になる
フラグフレーズでは、
最後に「どの一行が心に残ったか」をみんなで投票します。
たとえば、
ある回では「泣きたいときは、空を見ろ」が最多票を集めました。
「ちょうどつらいことがあって、この言葉に救われた気がする」と、
涙を浮かべた方もいました。
別の回では、
「すべては、あなたの歩幅でいい」という一行が印象的でした。
その日、仕事の悩みを抱えていた参加者が、
「この言葉に背中を押された気がした」と話してくれました。
選ばれた一行の出典となった本は、
「今日のフラグ本」として紹介されます。
中には、
紹介した本人も「この本にそんな力があったとは」と驚くこともあります。
何気なく選んだ一文が、他の誰かの背中を押す言葉になっていた。
会場が静かに温かくなるのを感じる、そんな瞬間もあります。
その本を手に取った方が、
後日「読んでよかった」と報告してくれることもあります。
読む前から好きになっていた本に出会える。
そんな読書の形が、ここにはあります。
おわりに|ことばを遊ぶ、という新しい日常へ
読書というと、「ひとりで静かに本を読むもの」と思われがちです。
読書会ゲーム「フラグフレーズ」は、
言葉をきっかけに誰かとつながることができます。
気づきを分かち合う“遊びの場”でもあります。
たとえば、「今の自分にはこの言葉がしっくりきた」と話す人がいれば、
「前の自分だったらその言葉、避けてたかもしれない」と語る人もいます。
私も一行を紹介したあと、
「実はこの言葉を、自分に向けて言いたかったのかもしれません」
と思わず本音が出たことがありました。
そのとき、誰かが「わかります」とうなずいてくれて、安心感に包まれたことをよく覚えています。
読む前から、すでに心が動かされている。
そんな言葉の出会いを、みんなで感じ合える空間です。
本を読んでいなくても大丈夫。
言葉の意味がすぐにわからなくても構いません。
うまく話せなくても、誰かが聞いてくれます。
この場所にいるだけで、誰かと“ことばの旅”に出かけることができます。
それが、シェア型本屋アルマティエで毎月開かれている
読書会ゲーム「フラグフレーズ」です。
ぜひ気軽に参加してみてください。
あなたの「気になる一行」が、誰かの心に残る言葉になるかもしれません。
📖 『三田文學』2025年冬季号(No.160)掲載情報
随筆タイトル:「フラグフレーズ奮闘記!――書店文化とシェア型本屋」
執筆者:竹内真(小説家)
掲載誌:『三田文學』2025年冬季号(No.160)
発売日:2025年1月29日
出版社:慶應義塾大学出版会
この随筆では、竹内氏が考案した読書会ゲーム「フラグフレーズ」の誕生背景や、シェア型本屋「アルマティエ」での実践について詳述されています。
📰 『財界ふくしま』2025年5月号掲載情報
記事タイトル:「マチの息吹を取り戻す よりどころとなるために」
掲載誌:『財界ふくしま』2025年5月号
発行日:2024年4月10日
掲載ページ:58〜61ページ
出典URL:https://note.com/tamura8/n/na90c14c71484
この記事では、アルマティエで開催された読書会ゲーム「フラグフレーズ」を詳しく紹介されています。
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