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三盥到来

三盥到来


読み方 みたらいとうらい

意味 期待をもてること



タカシは玄関に走っていく。「おとっさん!ほんとかい!」「あぁ、おったさんは…んとんとぉ、手に入れってぁさぁ~」「おっとさん…ありごとう、ありごとう」タカシはおっとさんの手から、袋を受け取り、広間にもっていく。「うわぁ~きったで!スイッチング2でゃ!!」「うだ。うだ。」おっとさんは息子の歓喜を喜んでみていた。「どっしたでぇ、タカシ!騒がしな、騒がしな…。」おねっさんが台所の方からやってくる。「どっしだでぁ。」「おねっさん、おねっさん!みたらいとうらいじゃ!これやスイッチング2でゃ」「うな…。っをっ!よかったんな~!みたらいとうらいじゃな!」「うんだ。三盥到来じゃっ!」おっとさんもおねっさんと顔を合わせてにこやかに微笑んでいた。


これは僕が小さいころの話だ。まだ都会に出ることになるのは当分先で、父がスイッチング2を買ってきてくれたことを、心の底から喜んでいた。あの時の興奮を超えるほどの興奮…これ以来もてていない…からかもしれない、僕は三盥到来(みたらいとうらい)という言葉をとても大切にしている。これはその時はまだ生存していた、祖母が僕に話してくれた、田所家に受け継がれてきた言葉だった。

「ねぇ、おっばちゃん。どして”らでぃお”がな、こなところにかざってあるってぇなぁ。」「うんだ。そっすぅのはなぁ。おっばさんがまだなぁ、戦争中のな、川に洗濯んにいってきぃどすたぁ、、んときんのはな話になるじゃなぁ。」「うんだ。そっぇで」「うだぁ。川で洗濯をっしってるとな、うんぇの方から”たらい”がながれってくるでぇなえかな。すんこぃし大きめのな。おっばちゃんはコーフンっしったよ。うぅちのたらいときっちゃさぁ、ふんとうぅにちっちゃかったかぁらなぁ。」「うぅんだっ。ちぃっちゃかったんだぁな。おいらん知ってるのはぁ外のあぁんのおおぉきなっのしかしれねぇさぁんが…」「あぁ、そうっちゃ。それがあぁんのぉときぃのたらいっちゃな…でぇな、そぉんのたらいっをさなぁ、おっばさんは”おてんとさんのおくりもん”っておぉもぉったんだぁな。そんときぃなぁ、おっじさんは山へしっばかりにいってぇたぁで、おっばさんよさぁ、ひとおぉりい…きぃんめんたぁんよ。おうちにさぁ、たらいっちゃぉさ、もってくぅぅってなぁ。」「うんでぃ、どうして”らでぃお”が、ここぃらぁになぁ、かざってあるんだぁさ。」「うんぁだ。たらいん中にはなぁ、みぃっつはいっていたなぁ、そのひとぅつさ。」「うぅん…。”らでぃお”が”たらい”にへ~ってたぁってぇなぁ…うぉらっん…」「うぅんだ。らでぃおがたらいん中にへ~っていたぁ…となぁ。うんだぁ。」

祖母は皺だらけの顔を余計にシワシワにして、当時の僕に楽しそうに笑顔で話してくれた。僕はその後で母からラジオについて聞いた。田所家はこのラジオのおかげで戦争を乗り切ることができたらしく、今でもこのラジオは田所家の守神のように大切に保管されている。以来、祖母を始め、田所家では何かいいものが手に入ることがあると”三盥到来”というようになったらしい。…僕が生まれた時も、田所家では「三盥到来じゃっ!」と大騒ぎになったらしい…。盥の中に入っていたのはラジオ…ということしか僕は“正確“には知らない。あと2つ入っていたのか、例えば、それが目に見えないもの…”安心”や”平和”、“希望“の類いだったのか…はたまた、桃太郎みたいに赤子が入っていたのかはわからない。祖母はもう随分前に亡くなり、母も父もその辺りについては、しっかりとは僕に話をしてくれない。ただ、いつか何かのタイミングでそれらについての話をしてくれるのかもしれない。


僕はある日、息子の平太を連れて、帰郷した。平太は今年で5歳になる。「お父さん、この機械なに。」「あぁ、これね。これはラジオってのさ。」僕は電源を入れてみるが、ランプは点灯しない。「今は電池がないらしいね。もしかしたら、電池をいれたら使えるかもね。」「ほんとっ!電池どこ、電池どこ!」「あっ、ちょっと待ちな…」僕は実家の電池がありそうなところを片っ端から探すが、見つからなかった。「このタイプの電池はなかなかないな…」「え~…電池ないのぉ。」平太は残念そうな顔をしている。「あっそうだ。もしかしたら…。」僕は昔、母が使っていた、洋服の紐を切る電動の機械を思いつく。「おっかさん、あの洋服の繊維というか、紐を切るみたいなの、まだある…」「うんさ。あるぅよ。化粧台のぉ、どっかさんになぁ、あぁるなぁ。ちょっと待ぁってぇなぁ…。」しばらくすると、母は手のひらに乗る電動の機械を持ってやってきた。僕は蓋をとり、中から1本の電池を取り出す。うん、これだ。ラジオに電池を入れる。「お父さん、どう!?」「あぁ、今電池をいれるよ…と、これでどうかな…と」僕は電源を入れた。一瞬ランプが赤く点灯した気がした…ものの、ランプは再点灯しなかった。「お父さん、どう!?」平太は目を大きくして、期待していた。「平太…、どうやら、電池がなかったのか、もしかしたら、もう壊れてしまっているのかもしれない。」「えぇ~!!!ヤダヤダヤダ!!」平太はしばらく嫌々がおさまらなかった。こうなってしまっては、もう手がつけられない。”やれやれ”と僕は庭に逃げることにした。


ある日曜日の夕方。田所家のラジオ。


ランプに微かな灯りが灯る。


「ザザ…ザザ。…ザザ、ザザ…」

「ザザ…日よう…たそがれ…どき…。あべ…れ…いじ……。」


「やって…ミタライィ!! トォ〜ライ!!」


「ザザザザ…ザザ。…プゥゥン。」


ランプの微かな灯りが消える。



#青ブラ四字熟語

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