NVIDIA学生アンバサダーワークショップに行ってきた(2026 SUMMER)
開催: 2026/8/29 東京工科大学 八王子キャンパス
リード
八王子まで行ってきた。初めての東京工科大学。
東京工科大学を東京工業大学(現:東京科学大学)と空目して新幹線ですぐ着くなあと思って参加申し込みしたのだが、東京工科大学すごくいいところだった。
私立大学はどこも広いイメージがあるが一日中散歩ができそうなくらい広いしかなりきれい。写真撮ればよかった。
今回はNVIDIA 学生アンバサダーの 2026 SUMMER ワークショップに参加。
大学からのメールでこの会を知った。専門からかけ離れているので内容が難しくてもわからないだろうけど、学生さんの発表のようだったので今のこの分野の熱量を測るため、あと自分がどれくらい理解できるのかを知るためにも参加(無料だったのも正直大きい)。
私の現在地としては
・バイオインフォマティクスでPhD取得
・松尾研究室のDL基礎講座、physical AI入門受講修了
・SO101を購入して模倣学習をやってみている
招待講演
Ivan Au Yeung 氏(NVIDIA AI Technology Center Hong Kong) Accelerating Scientific Discovery with Physics-Informed Neural Networks and PhysicsNeMoというタイトル
一行で言うと:データが足りない世界では、既知の物理法則そのものを損失関数に入れてしまえばいい ということらしい
分野が違いすぎるし、私の興味の範囲とはずれているがせっかくなのであまり知らないなりにまとめてみる。
最初におおざっぱな理解を置いておく。
PINN(Physics-Informed Neural Networks)は、DLにおける基本的なツール—ニューラルネット、自動微分、GPUでの学習—を使って、微分方程式を解く手法。以前から発想はあったが2019年ごろからDLの発展とともに急速に広まった、ということのよう。
普通の教師あり学習は答え合わせで学習する。猫の写真に猫というラベルが付いていて、外した分だけ損失としてNNの中身を直す。正解が手元になければ、学習ができない。
PINN がやるのは検算だ。ネットワークが『この点の温度は25.3℃』と答える。それが本当に正しいかは誰も知らない。測っていないから。そこで、出てきた答えを元の方程式(この場合だと熱伝導方程式)に代入して損失を少なくするように修正する。
私のような数学を通ってきていない者にはわかりづらいが、微分方程式は答えからの検算は可能だが、微分と逆なので現実世界で意味のある問題の場合は普通式の形で書き下せない。
だから PINN は正解データが1件もなくても訓練できる。
ネットワークは位置と時刻を受け取って、その点の温度や圧力を返す。その答えを方程式に入れて、破っている量をそのまま損失に足す。従来の数値計算のように領域を細かく区切る下準備が要らず、点をばら撒くだけでいい=講演中はよくわからなかったが領域を要素に切ること(=実務上これはかなり職人技らしい)が必要ないということのようだ。
法則の入れ方には強弱がある。破ったら減点する入れ方と、そもそも破れないように構造に組み込む入れ方。そして問題は3つに分けられていた——法則はよく分かっているがデータが少ない/どちらもそこそこ/データは大量だが法則は薄い。PINN は左端、「法則は既知、データは高価」のための道具だという整理だった。
苦手なのは途中で不連続に切り替わる問題。ニューラルネットが表せるのは滑らかな関数だから。質疑で『データはどれくらい減らせるか』と問われ経験上10分の1かそれ以下とのこと。ハードウェアはNVIDIA GPUなら何でも。RTX 5050クラスでも回るという。
そもそも PINN は、いま最前線なのか
聴きながら引っかかったのはここだった。聴きながら調べていたがPINN は2019年ごろに一気に広まった手法のよう。帰ってから調べ直してみた。
数学の側から見るとPINNはまったく新しくない。昔からある数値解法は、どれも同じ発想でできている。解を何らかの試行関数で表し、方程式に代入してズレを測り、ズレが減るようにパラメータを調整する。有限要素法もこの一種だ(試行関数が区分多項式になっているだけ)。PINNが変えたのは、その試行関数を区分多項式からニューラルネットに差し替えた点だけと言っていい。
しかも、ニューラルネットで微分方程式を解くという着想そのものが1990年代に既にあるよう。Lagaris et al.(1998)IEEE Transactions on Neural Networks 9(5):987–1000とか。他にもあるだろうが私がみてみた限りこのあたりか…。
2019年にRaissi et al.(2019)Journal of Computational Physics 378:686–707でこの着想に PINN という名前と枠組みを与えた。ここで効いたのは新しさではなく、AI関連の周辺ツールによって発想に道具が追いついたことだ。微分を自動で正確に計算する仕組みと、GPUと、深いネットワークが揃って、やっと実用的な規模で回るようになった。そこに『順方向にも逆方向にも同じやり方で解ける』という売り方と、覚えやすい名前が付いた。
逆方向、つまり逆問題というのは、結果のほうを観測して、未知の原因や物性を推定する仕事だ。ちなみに医学では4D flow MRIで血流速度から動脈内の圧を推定するみたいなことができる (Kissas et al.(2020)Computer Methods in Applied Mechanics and Engineering 358:112623)。臨床データはスパースだし理にかなってるなと思った。
最近の総説を1本読んでみよう。
Luo et al.(2025)Artificial Intelligence Review 58(10)
この総説で厚く扱っているのは、ネットワークの組み方の工夫と、点をどこに撒き直すかという工夫だった。どちらも学習を安定させるための話だ。裏を返せば、PINN は素直に訓練するとうまくいかないということがあって、そこを回避する努力に費やされてきた、ということでもあるようだ。
つまり議論の中心は、もうPINNは使えるのかではなくどうやって学習を安定させるかにある。そしていまも PINN が強い場所として挙げられているのは、逆問題と、データが極端に少ない領域だ。Ivan氏が講演で強調していたのは、まさにその2点だったと思う。
後半はPhysicsNeMo(旧 Modulus)の宣伝であった。PhysicsNeMoによって土台ができて、PINNからFNOなどへの手法の切り替えが簡単になったということであろう。
PINNは誰の言葉なのか
PINN は『シミュレーションをやる人』の言葉のようだ。応用数学、流体、構造、気象、電磁場—このあたりで使われているみたい
正直に書くと、PINNを調べながら聴講して、今内容を思い出しながら調べてようやくこの理解である…。フロアのみなさんはどれくらいわかっていたのだろう。専門分野が違いすぎてそのあたりの常識がわからなくて、それもある意味勉強になった。
Digital Twin セッション(7題)
NVIDIAの宣伝の建前もあるので全題 Omniverse が絡む。内容はどの発表もほとんど同じだが着目点が領域横断的になるのが面白かった。また学生さんの発表なので実装後の検証がほぼ欠けていたのはご愛敬。比較的自分の関心に近いところだけ書く。
医療系でdigital twinといえば、究極にはDNAレベル、転写因子などトランスクリプトームレベル、マクロな構造のレベルで文字通り自分のtwinをデジタル上で作成して薬の動態予測や治療効果を予測するという話になる。もちろん近未来的な話だが。
NVIDIA Cosmos 3 Superを用いた交通事故シーンの生成
東京工科大学
世界基盤モデルに、雪道と豪雨の交通事故シーンを動画として作らせる。
世界モデルの文脈でCosmosはよくでてくる。現在はCosmos 3まででてきているとのこと。読まないと…。それを使ってめったに起きない場面のデータを生成してみたという内容。
東京工科大学には青嵐というスパコンがあるという。今は東大のゲノムセンターや名大とかでもスパコンは借りれるが、大学にあるっていうのはなんとなく羨ましい…。
その動画を使って学習させて実際に精度があがったかどうかは未検証。
NVIDIA Omniverseによる工場検査用合成データ生成
中部大学の学生さん
工場の不良検出AIは不良品のデータが足りないのでシミュレータの中で傷を貼り付けて作る。
データが偏っているため正常品に比べて不良品のデータが極端に少ない。傷や汚れは実際にはめったに出ないので、集めようがない。そこで Omniverse の中に工場のシーンを作り、対象物に傷のテクスチャを貼り付ける。 本物の不良品を作る必要がなく、カメラの位置も照明も背景も自由に変えられる。
出力の設定にチェックを入れるだけで、RGB画像と一緒にセマンティックセグメンテーションとバウンディングボックスが自動生成される。なのでこれまで人手でやっていた異常箇所の印付けが要らない。カメラの視点を変えても、正確なアノテーションが付いてくる。
学んだこと
・学部生の学生さんたちがどんなことをしているのか、どのくらい熱量があるのかを現地でみることができてよかった。専門外の人間でも最後尾から入っていけるという手応えを持てたのが、いちばんの収穫かもしれない。
・NVIDIA(2026)Cosmos 3: Omnimodal World Models for Physical AIを読んでみようと思った。読んだらまた記事にします。
学生さんお疲れ様でした。こういう会には少しずつ参加して熱量をチェックしてみたい。
