音楽が繋いだ物語 1
1-週末のライブ
冷たい風が街のオアシスの公園に吹き渡る。街はクリスマスのキラキラとしたイルミネーションが光の海となって輝いている。空気は澄み、冷たい空気がイルミネーションのきらめきを加速させていく。
太陽が明日への挨拶をして去っていく頃。ビルの合間にある、少し大きな公園の噴水前の広場で翔太は歌を歌っていた。毎週末、ギターを弾きながら、好きな70年代や80年代の曲のカバーや、時折オリジナルソングを加えてここで歌っていた。
今の時期は放課後の学生や仕事帰りの人々のにぎわう街角のイルミネーションが、ちょっとしたステージ照明のように翔太を照らしていた。
毎週欠かさず来てくれる観客のうち二人の男の子たち。眼鏡をかけた制服姿の学生と、金髪に派手な私服を身に着けている子。二人ともいつも
「翔太さんさいこー。」
「ギターに、歌にしびれるー。」
と、肩を並べて楽しそうに聞いている。地べたに座る前に小さなクッションをお尻下に敷き、いつも水を用意して、リズムに合わせ体を揺らしている。
「いつもありがとう。」
「今日も、来てくれて感謝しているよ。」
ギターを弾きながら笑顔で返す翔太に、
「惚れてまうやろー。」
「翔太さーん。もっと聞かせてー。」
二人の掛け声に、周りの観客と一緒に笑い合うのだった。
あとは仕事帰りの数人のサラリーマンやOLさん達が、
「懐かしーねー。」
「あー、お父さんがカラオケで歌ってるよー。この曲。」
と、そのまま座り込んでコーヒーなんか飲みながら、
「じゃあさ、あの、なんて言ったっけ?あの曲歌える?」
「え、じゃあ、次はあのCMの歌うたってよ。」
なんて言いながらリクエストしてくれる。
「いいですよ。これですよね?歌えますよ。」
お客のリクエストもギター鳴らして♫~ららららら~♫メロディーを歌う。少しイントロやサビの部分の音をなぞり、
「じゃあ、リクエストにお応えして。『魚さんの恋歌』です。」
ギターの音色がビルの谷間に吸い込まれていく。翔太の唄声がイルミネーションのきらめきに重なっていく。そんな週末をここで過ごしていた。
今日もここで歌っていた。イルミネーションのきらめきの温かな光に包まれながら、翔太は歌っていた。冷たい空気が鼻やのどを刺激する。指はかじかむが関係なかった。
寒い中、高校生たちは楽しげに笑いながら揺れている。サラリーマンも一緒に歌いながら聞いてくれる。この空間が翔太は大切だった。「聞いてくれる人がいる。」そう思うと、毎週末を楽しみに日々のタスクをこなせるのだ。
風が少し強くなってきたころ、向かいの暗いベンチに一人の女性が座っているのに気がついた。周りの人たちは小走りに駅へと向かっていく。その奥のベンチに彼女が座っていた。
この公園は駅からもすぐ近くなので、多くの人がいつも行き交っている。昼間はランチ休憩で木陰のベンチに座っている人も多いが、暗くなってくると木側のベンチではなく、明るい噴水側のベンチに腰かけている人が多いのに、奥の暗いベンチに一人座っていた。
他の公園からしたら明るいだろうし、この街自体、治安はいいほうだが絶対という保証はない。彼女に気が付いた翔太は、「暗いところになんでいるのだろう。」と、思いながら歌っていた。
暗い場所、距離も少しあるから顔もわからないが、なぜか、翔太には彼女が泣いているように見えたのだった。まるで、迷子の子猫のように。
冷たい夜風が頬をなでていく。「こっちに来たらいいのになぁ。」翔太は心でそう思いながら、一生懸命に聞いてくれる人たちと歌を歌うのだった。
