『柳は萌ゆる』 平谷美樹
ひとり遅れの読書みち 第79号
物語は幕末の盛岡藩が舞台。一揆を起こす百姓たちにも「同じ血」が流れていると見る若き藩士・楢山茂太(後の佐渡)が主人公だ。
改革を夢見て家老となった楢山は、新しい世の実現を目指すものの、時代は激動のとき。ペリー来航以来、江戸や京から遠く離れた東北の地も、佐幕派と勤王派との対立の渦に巻き込まれていく。幕府を支持するか新政府につくかの決断を迫られる東北諸藩。楢山は、新政府軍の傍若無人と思われる行動に苛立ちや不満を抱き、幕府支持へとカジを切る。隣接する藩との戦いが始まるが、背後の新政府軍の武器・兵器の威力の前に敗退する。
物語の冒頭、5歳のときの楢山が、川を流れゆく裸の赤子を救おうとした場面が描かれる。助けようとしたが、その赤子はすでに息が切れていた。その場で出会った百姓から、武士でも百姓でも「切れば赤い血が出る」ことに変わりはないと教えられる。貧困と重税に苦しむ百姓は、「己が作った米を食えず、生まれた子供を捨てなければならぬ」と言われ、強烈な衝撃を受ける。「百姓と侍の間にある川に橋をかける」ことを心に誓った楢山だった。
盛岡藩では、百姓が頻繁に一揆を起こす。藩の重臣たちは百姓の要求をのんで一揆をおさめるものの、簡単に約束を反故にする。「百姓による世直し」を夢見て家老となった楢山は、新しい世にふさわしい政治の実現を目指す。藩主や重臣たちとの争い、跡目相続の問題などが絡む。他藩にまで訴え、江戸幕府へと要求を突きつけようとする一揆の動向、それに対応を迫られる重臣たちの様子を、物語は細かく描いていく。
しかし、時代は藩内の事情だけにかかわることを許さなかった。薩摩や長州を中心とする倒幕の動きが強まり、幕府は倒れ、明治政府が誕生する。新政府軍が会津や庄内へ攻め込む。そして盛岡藩など東北の諸藩も、幕府か新政府かどちらにつくのか態度を決めなければならなかった。友好的な隣の藩とも干戈を交えねばならない。会津や庄内が降伏しても戦いは続いていた。江戸から遠く離れた人々の苦しみや悲しみが伝わる。
花は咲く 柳は萌ゆる春の夜に
うつらぬものは武士(もののふ)の道
楢山の辞世の句だ。本書の題名となった。
なお、大正6年(1917年)9月8日、楢山が最期を迎えた報恩寺において、旧南部藩士戊辰殉難者50年祭が行なわれたとき、原敬の祭文が読み上げられた。
「戊辰戦争は政見の異同のみ。当時勝てば官軍負くれば賊軍との俗謡あり。その真相を語るものなり」
この翌年首相となる原敬は、楢山を実の叔父のように慕っていたとのことだ。
(メモ)
柳は萌ゆる
平谷美樹
2018年11月30日 第1刷発行
実業之日本社
