研究室の引越し記録:関東の大学(私大)から関西の大学(国立)へ

はじめに:研究室移転という一大プロジェクト

所属機関を移ることはあまり考えていなかった。新しい環境に飛び込むのはとても勇気のいることだし、新しい人間関係を築くのもかんたんなことではない。引越しだってめんどうだ。けれども、漠然とではあるが、いつかここではないどこかに暮らしてみたいとも思っていた。

前任校の研究室(8Fだった)からの眺め、好きだった。

そのくわしい経緯は割愛するが、あれよあれよと、千葉の小さな私大から大阪の大きな国立大学に移籍することが本決まりとなった。この文章を書いているちょうど1年前、2024年11月のことだった。
(実際のところ、10月には内々定が出ていて、内定が出るまでのひと月ほどは、夢か現か分からないようなふわふわした気持ちで過ごしていた)

日本有数のド平野の出身なので、山が見える風景に憧れを抱いてきた。新天地はこの通り。

所属機関を移るとなると何が必要か。そう「研究室の引越し」である。
個人の家の引越しであれば経験のある人も多いだろうが、研究室となると勝手が違う。本だ。本の量が違う。多くの研究者はきっとそうだろう。人によってはこれに机や椅子、ちょっとした家電などの研究室備品が加わるだろう。これらをどう運び、どう新天地へ着地させたらよいのだろうか。
経験者の立場から述べる。研究室移転、それは一大プロジェクトである。計画的にやらねばならぬ。計画的にだ。

なお、この書き手であるわたしは人文社会系の研究者で、移籍が決まった当時は博士号取得から4年目(在宅ポスドク2年、専任教員歴は2年目)だった。蔵書はそこまで多くないほう。3月31日付退職、4月1日付着任だった。

身近に移籍経験者がいる場合は聞いてみよう

似たようなルートで移籍を経験した人が身近にいる場合は、引越し事情について聞いてみるのが手っ取り早い。わたしも身の回りで何人か顔が浮かぶ方がいたので、いろいろと教えていただいた。大いに助けられた。その節はありがとうございました。

ありし日のわが研究室vol.1。ターコイズブルーの床と備え付けの木の本棚がおしゃれだった。

今年は逆に移籍が決まった人から相談を受ける側になった。 そこで、記憶が鮮明なうちに、そして誰かの役に立つかもしれないという期待を込めて、わたしの研究室引越しのログを残しておこうと思う。


業者に見積もりをとる前にやるべきこと

「さあ、見積もりだ!」と電話をかけるその前に、確認しておいたほうがよい重要なポイントがいくつかある。これらが決まっていないと、業者も見積もりの出しようがないからだ。

搬入可能日の確認
移籍先の研究室にはいつから荷物を入れられるのか。これは死活問題だ。多くの場合、辞令交付日(例:4月1日や10月1日)以降でないと研究室の鍵はもらえないことが多い。しかし、大学や部局によっては着任の数日前に荷物だけは搬入できることもあると聞く。
問題は、荷物の搬入が辞令交付日以降のみ可能な場合だ。タイミングをうまく合わせないと、旧研究室から搬出した荷物が宙に浮くことになる。 わたしの場合は、旧研究室は3月31日までに出ればよかったが、移籍先の研究室の鍵の受け取り&搬入可能になるのは辞令交付日(4月1日)以降であった。
移籍先の事務にあらかじめ相談し(1月ごろ)、研究棟内の一角(教員交流室!)にしばらく荷物を置かせてもらえることになった。

2025年3月24日、教員交流室に置かれる旧研究室の荷物たち。4月1日の辞令交付日を待っていた。

退去期限の確認
現任校の研究室はいつまでに明け渡す必要があるのか。清掃を入れる場合は、退職の半月前(例:3月中旬〜下旬)には明け渡さないといけないこともあると聞く。また、次にその研究室に入る人が決まっている場合も退去が急がれるだろう。

荷物量の把握
これは立会い見積もりの場合は業者さんに任せてもよい。いずれにしても、本は段ボール何箱分(大まかに)になりそうか。そのほか、自前の家具や家電はあるのか。ざっくりとでも把握しておくとよい。

これらをクリアにしてから、いよいよ業者選定に入る。

どの引越し業者を使うか問題

結論から言うと、わたしはアート引越センターの「わたしの引越し」を利用した。 これは専用ボックス(カゴ台車のようなもの)単位で料金が決まる単身パックのようなサービスだ。ネットで見積もりが完結するのがありがたい。

3人組の男性があっと言う間に研究室の荷物を運んでいった。

ただ、これはわたしがまだキャリアが浅く、蔵書がまだ多くなかったからこそ使えた手段かもしれない(なお、わたしですら椅子だけは別送扱いで+αになった)。もしあなたが重厚な全集やバックナンバーを大量に抱えるベテラン研究者であれば、このプランでは収まりきらない可能性が高い。

その場合は、日本通運の「オフィス移転サービスが良いと、複数の移籍経験者から聞いている。こちらは問い合わせフォームから詳細を伝えると数日で返答があるタイプで、大量の文献輸送(のみならず機器などの輸送)にも慣れているそうだ。

スケジュールと費用のリアル

わたしの場合、家の引越しと研究室の引越しは時期は大きくずらした。3月は出勤しないとできない仕事がほとんどなかったことが幸いであった。

  • 家の引越し: 3月1日搬出 → 3月3日搬入

  • 研究室の引越し: 3月17日搬出 → (1週間預かり) → 3月24日搬入

ちょうど3月15〜16日にかけて学会で東京にいたので、抱き合わせで3月17日に研究室の荷物を搬出するスケジュールを立てた。
移籍先の研究棟(教員交流室)にはいつでも荷物を置いておいてよいと言われていたけれど、場所の特性上、ずっと大量の段ボールを山積みにしておくのも申し訳なく思い、荷物は1週間ほど業者さんに預かってもらった。移籍先には3月24日(搬入日)〜31日(着任前日)まで荷物を置かせてもらうことにした。

自律精神の塊みたいな人間なので、移籍が決まってから1日1箱の荷造りに励んだ。2月半ばにはこのとおり。

気になる費用だが、研究室の引越し(千葉→大阪)自体は最終的に10万円ほどで収まった。もちろん、距離や荷物量によるが、一つの目安にはなるだろう。
なお、自宅のほうは30万円ほどだった(サカイ引越センター)。抱き合わせで家電の大部分を処分&買い替えたので合計50万円ほど。着任手当(千葉→大阪)は20万円弱だった。表面的には大赤字である。

わたしは強力な雨雪女なので、もちろん移動日も千葉から大阪までずっと雨だった。

ちなみに、愛車の移動については陸送を頼まず、千葉から大阪まで自走した。 業者に頼むコストを浮かせたかったのもあるが、ウーパールーパーや金魚を積んで移動する必要があったというのが大きい。東名・新東名をひた走る約500km超のロングドライブは、関東を離れる寂しさと新天地への期待を整理する、良い儀式にもなった気がする。

段ボールは「取っ手付き」を買おう

さて、ここからは地味だが重要なTIPSを。 段ボールは、スーパーでもらってくるのではなく、同じサイズのものをまとめて購入することを強くお勧めする。積み上げた時の安定感が違う。

そして何より重要なのは、「取っ手(持ち手の穴)」がついているものを選ぶこと。Amazonなどで購入可能だ。本を入れた段ボールは凶器のごとく重い。取っ手があるだけで腰への負担が劇的に変わる。(↑上記のものを4セット購入した)

箱には数箇所に何が入っているか大まかに書いておこう。
研究室付アシスタントのオオサンショウウオたちも共に移籍した。

あと、ガムテープとマーカー(箱に内容物を書く用)は、「多すぎるかな?」と思うくらい買っておいて損はない。引越し前夜にガムテープが切れる絶望だけは避けてほしい。

立つ鳥跡を濁さず!を目指そう

意外と盲点なのが、退去時の掃除だ。 国立大学の場合は、研究室の入居・退去時に業者の清掃が入らないことがほとんどだと聞く。つまり、基本的に自分で掃除する必要がある。 積年のホコリが溜まった本棚や床を、最後は自分自身の手で磨き上げる。これも引越しの工程(そしてスケジュール)に含めて考えておいたほうがいい。あとにその研究室に入る人がいるならなおさらのこと。

急きょきれいなほうの空き研究室に入ったので、ネームプレートも自分で入れた。ちょっと嬉しかった。

ちなみに移籍先の研究室では3月31日まで前のヌシ(掃除という概念をもたない)が荷造りしていたので、尻を叩きに行った。結局のところ、あまりに汚れがひどいのでプロによる清掃が必要と判断され、わたしは急きょ別の空いている研究室(こちらの前のヌシはきれい好きだった)に入ることになった。重いアレルギー体質なので、結果的にこれは正解だった。

なお、「宙に浮いた研究室問題」の断片は時々ツイッターで漏れ出ていた。もう呟かないとやっていられない状態だったのだ。

現在のわが研究室vol.2は絨毯を敷いておしゃれに。
パーテーションの向こう側にわたしのデスクがある。

さいごに:何事も計画的に

諸々の手配や荷造りは計画的に。早すぎることはない。3月は有休消化もしつつ(ちなみに私学⇄国立への移籍だと、有休や退職金などの引き継ぎがないためしっかり休んでおこう)、着実にひとつずつ進めていこう。まるっきり新しく担当する科目ばかりになる場合は、授業準備も計画的に!

新しい研究室で、最初の段ボールを開ける瞬間。あの独特な静けさとワクワク感は、この面倒な作業を乗り越えたあとにやってくる。 これから移籍されるみなさまの引越しが、どうかスムーズにいきますように。

研究室引越し・時系列チェックリスト

あくまでわたしの場合(3月退職・4月着任)のスケジュールですが、目安としてどうぞ。

11月〜12月:内定&始動

  • 移籍の確定・意思表示:所属先への退職届提出など、事務手続きを確認。

  • 荷物の把握:蔵書量(段ボール何箱分か)、家電の有無をざっくりリスト化。

  • 業者選定・見積もり:12月中には連絡。繁忙期の枠を早めに押さえる。

  • 資材調達:ブラックフライデーのセールなどで「取っ手付き」段ボール、ガムテープ、マーカーをまとめ買い。

  • 「1日1箱」作戦開始:普段使わない文献から少しずつ箱詰めを始める。

1月〜2月:調整

  • 新旧事務方との連携:

    • 旧所属:いつまでに鍵を返却すべきか、清掃有無の確認。

    • 新所属:いつから荷物を搬入できるか(4/1前でも倉庫等が使えるか)交渉。

  • スケジュールの確定:搬出日と搬入日を決定。必要なら「荷物預かり」の手配。

  • 宿泊・移動の手配:自分自身の移動手段(新幹線、ホテル等)の予約。自走の場合はルート確認。

  • 廃棄・売却::新天地に持っていかない本や家具を処分。

3月:実行

  • ラストスパート:ひと通りの学務終了後)一気に箱詰め。

  • データのバックアップ:PCやHDDなど、手持ちで運ぶ重要データの保全。

  • 大掃除::立つ鳥跡を濁さず。お世話になった研究室を清掃。

  • 搬出・移動:業者対応と、自分(+愛車)の移動。

  • 搬入:4月1日、新研究室での荷ほどき開始!


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タタ村さん Рәхмәт сезгә! ここまで読んでいただきありがとうございました!いただいたサポートは私の研究生活になくてはならないチョコレートとグミ、コーヒーの購入費に充てたいと思います。