見出し画像

【夜店から】#シロクマ文芸部

夜店から集めてきた…シンジはそう言って、さまざまな食べ物をテーブルに並べた。
焼きそば、たこ焼き、フランクフルト、鯛焼き…たいして広くないテーブルはあっという間に食べ物で埋まった。
「こんなに?気をつかうなって」
「別に買ってきたわけじゃないよ。売れ残りだ」
シンジは笑った。
シンジは今仕事でこの町に戻って来ていた。
シンジは祭りやイベントに店を出すために一年中旅暮らしをしている。
ここにある食べ物は、一緒に夜店を出していた仲間から貰ってきたものだと言う。
本当のところはわからないが、シンジがそう言うのだから、そういうことにしておく。
毎年、いくつかの祭りに店を出すために、町に来る。
特に町で一番大きい八幡様のお祭りには毎年来ていたが、去年は来なかった。
「盲腸入院した」と電話があった。
それが本当のことかなど確認していない。
オフシーズンがないのかわからないがなかなか町に帰って来ることはない。
仕事で来るだけだ。
「シュンも来れるって」
「やった」
シンジは嬉しそうに言った。
「会うのは高校卒業以来になるなぁ」
「マジ?」
「連絡は割と取っているんだけどね」
春に大学院を終えたシュンがこの町に帰ってきた。
それまでも学校の休みには町に戻ってきていたし、隣市は車で30分程度のところだから、自分は頻繁ではなかったがシュンとは会っていた。
だが、旅暮らしのシンジと3人で会うということはなかった。
自分とシンジとシュンは小学生から中学生にかけて時々同じクラスになったり、シンジとは小学生の頃は同じ部活に入っていた。陸上部だった。
自分は父と母と3歳年上の姉との4人暮らしだが、シュンもシンジも家族構成が少し特殊な家だった。
シュンには母親がなく、父親とシュンと一回り以上歳の違う兄、そしてその奥さんの4人暮らしだった。
シンジは父方の祖父母と祖父の甥という人との4人暮らし。
片親というのもさほど珍しくない世代だが、シンジの家庭の事情は、センセーショナルに語られたことがあった。
シンジは一家無理心中の生き残りだった。
シンジが5歳の年に、事業に失敗しただか、精神的に病んでいただかしたシンジの父親が妻とふたりの子ども(シンジと2歳上の姉)を刺し、自分も首をかっ切った。
たまたま、祭りで夜店を出すためにその町に来ていたシンジの祖父が息子の家を訪ねて、息子一家が倒れているのを発見した。
子どもふたりはまだ生きていた。
警察と救急車を呼んだ。
だが、上の子は病院に着いて間もなく亡くなった。
警察は状況から無理心中と結論した。
親を失ったシンジは祖父に引き取られ、この町に来た。
テレビのニュースでも取り上げられた事件だから、知っている人もいたかもしれない。
それでもシンジがこの町に来たのは事件から半年以上も経ってからのことだったのもあり、当時は誰もシンジの身の上に起きたことなど詮索しなかった。
それは中学に上がる年だった。
公立の小学校から中学校に進むのがほとんどの自分たちは、バレンタインイベントの方に気がむいていた頃、一家惨殺事件の犯人として捕まった男が7年前にも同じように人を殺したと警察で自供した。
「あの時のように、今回も警察が無理心中にしてくれるかと思っていた」
警察が、シンジや第一発見者であるシンジの祖父を訪ねてこの町に来た。
町に来たのは警察だけではなかった。マスコミも大勢やってきた。
町は大騒ぎになった。
それまでシンジの祖母だと思っていた人が、シンジの祖父の妹だと知った。シンジの祖母はシンジの父が子どもの頃亡くなったとのことだった。
その時、一緒に住んでいた祖父の甥…タカシさんがシンジを連れ出した。
仕事とは関係のない旅だった。
2週間ほど経って、帰ってきたシンジは少し大人びて感じた。
町はまだシンジの家族の事件のことを知りたがっていた。
だけどシンジに聞いても皆が満足する答えは返ってこないということも知っていた。
クラスの連中の中には親に話を訊くよう言われている、という者もいた。
中にはマスコミにも同じように頼まれた、という者もいた。
「5歳なんてほとんど記憶ねぇよ、って言ってやってる」
確かにそうだ、と自分は思った。
高校はシンジと自分は一緒の学校だった。
だけど一度も同じクラスにならなかった。
それでも時々シンジとシュンと3人で会うことがあった。
大抵はシュンの家に集まっていた。
シュンご自慢の料理上手なお義姉さんの手作りのおやつに感動したり、映画のDVDを観たりした。
ずっとそういう時間が続くと思っていた。
だけど、高校卒業後、自分たちはバラバラになった。
自分は地元の大学に進んだ。
親が学生のうちは家を出る必要などないといい、大学は地元を譲らなかった。
特にやりたいことも決まっていなかったし、学費も親が出すのだからと、自分はそれに従った。
その時、ふとシンジのことを考えた。
シンジは自ら進んで旅暮らしを始めたのだろうか?
「うーん。その時はね。じいちゃんに恩返しのつもりだったんだけど、いざ始めたら、案外性に合ってたっていうか、いろんなところ行くの楽しいし、いろんな人に会うのも苦じゃないし、新しい商品考えるのも楽しくってね」
シンジは「シュンが来てから」と言ってパッケージを開けていない鯛焼きを指差した。
「でも、そろそろ町に戻ろうかと思っているんだ」シンジは言う。
「じいちゃんも歳だし、ばあちゃんだって今まで通りひとりで大丈夫ってわけにもいかない。タカシさんだって心配だろうし」
「なるほどね」
そう言いながらも、シンジはそれらの理由を納得しているのだろうか?それとも、旅暮らしをやめる口実を並べているのだろうか?などと勘繰っている自分に気づいた。
「ちょっとね。これで勝負してみようかな?って思ってさ」
先程指差した鯛焼きのパックを手に取った。
「何?普通の鯛焼きじゃないんだ」
シンジはフフンと笑った。
「舌の肥えてる君たちの忌憚のない意見を聞きたいんだ」
「意見?」
自分が聞き返したそのタイミングでインターホンが鳴った。
「シュンかな?」
立ち上がった自分の後ろをシンジがついてきた。
その仕草は学生の頃と変わらない。
「遅くなってごめーん」
スピーカーの向こうからシュンの声がした。



いいなと思ったら応援しよう!