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葬儀屋 03

夏だった。
地元在住の画家の葬儀だった。
知る人ぞ知るという画家だった。
それなりの有名人ではあるが、葬儀は特別大きなものではなかった。
親類も少なく、葬儀の受付を手伝っていた細野は、その少女をどこかで見た記憶があった。
最近の葬儀は、近親者のみが参列して、ほとんどの会葬者は、受付で香典を渡し、芳名帳に記帳を済ませると、焼香用の祭壇で焼香を済ませて帰っていく。
あるいは香典返しを受け取り芳名帳に記帳を済ませるとそのまま帰っていく人も少なくない。
黒い喪服姿がほとんどの中その「白ワンピの女の子」の姿を、その場にいた人々は皆じっと見つめていた。
ノースリーブの白いワンピースを着た女の子。片手には被ってきたのであろう、白いつばひろ帽を持っている。
女の子と呼んでしまうが、葬儀会場にひとりで現れたということはそれなりの年齢かもしれない。
でも「女の子」と呼びたくなる。そんな雰囲気だった。
葬儀が始まるのとほぼ同時に女の子は現れた。
場が一瞬の静寂が小さなどよめきに変わった。
受付をしていた細野も、最初いきなり真っ白なワンピースからやはり透明感ある白い腕が伸び香典袋を差し出した時は驚いた。
だけどそれを顔に出さず「こちらにお名前をお願いします」と芳名帳を指し、香典返しを後ろの箱から取り出した。女の子はすでに自分の名前を書き終えていた。香典返しを手渡しながら、「ご焼香はそちらにてお願いします」と言った。
女の子は微かに頷く。
細い長い髪がふわりと揺れて、女の子は細野に背を向けた。
女の子は焼香用の祭壇の方に歩いて行った。
細野は少しだけそれを視界の隅にとらえていた。が、別の会葬者が受付の前に立ち、細野の意識は業務へと戻っていった。
「シオンちゃん、来ていたんだ」
片付け作業をしていた細野はふと声の方を見た。
葬儀が終わった後、喪主である画家の妹が芳名帳をめくっていた。
「あのぅ」
細野は喪主に向かって話しかけた。
「白いワンピースを着た女の子、若い女性がみえられました」
喪主は「あぁ、やっぱり」と言った。
そして芳名帳を閉じると、「兄のモデルです。ここ2年ほどの」と言った。
今度は細野が「あぁ、やっぱり」と…口に出すことはなかったが、そう思った。
画家の描くシリーズ。パステルか何かで、モノトーンで描かれる「白ワンピの女の子」。細野が好きなシリーズだった。
顔はほとんど描かれない。白いワンピースを着た女の子がそのワンピースを裾を翻し、揺らしながら舞っている。色彩はほとんどないのに、描かれた女の子はとても生き生きと輝いていた。
女の子を見た時に感じた、どこかで見た記憶はそういうことだったのか。と細野は思った。
細野もかつては画家を目指した。
いや、今でもまだ諦めていない。
仕事から帰れば、絵を描いている。休みの日もほとんど絵を描くことに費やしている。
その細野が憧れている「白ワンピの女の子」が目の前に現れたのだ。
「学校、休んできてくれたんだ」と喪主は言う。
「え?今、夏休みですよ」細野が言う。
「あら。そうだわ。私てっきり…じゃあ、普通に葬儀に来てもらえばよかった」
喪主は肩を落とす。
「そうしたら兄さんも喜んだかもしれない」
細野は白いワンピースの裾を翻す彼女を思い出す。
「でも、もしも普通に参列するとなったらあの子も黒い喪服を着てきたと思うんです」細野は言った。
「白いワンピ姿見ることできて、お兄様も喜んでいらっしゃるんじゃないでしょうかね?」
それともあの子を見てもっと描きたかったと地団駄を踏んでいるだろうか?細野は思った。
画家の妹は「そうね」と呟いた。
「あんなに白いワンピースが似合う子はいないわ。兄さんもいつも言っていた」
夏の光そのままの白ワンピの女の子。
細野が思い出すのは、軽やかな長い髪とふわりと揺れたワンピースの裾。そして細く長い手脚。
おそらくもう会うことはないだろうその子を思い、細野は小さくため息をはいた。



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