人は、なぜこんなことで疲れるのか──身体はまだ森の中にいる
私は、
間近で観察されるのがだいぶ苦手だ。
鍼を打っているときに
すぐ横で大きな声が出るのも苦手だ。
苦手というよりも、
空気を読まずに音を強められると、
つい警戒してしまう。
私は、
刺激に敏感だ。
昔はそれを
性格だと思っていた。
けれど今は、
反応の仕組みだと思っている。
出来事そのものよりも、
それをどう感じたかのほうが
身体を動かすことがある。
よく分からない羽音も
「未納料金があります」と書かれた通知も
誰かの引き笑いも
どれも命の危険ではない。
それでも身体は、
少しだけ構える。
理屈より先に、
身体が動く。
その奥で、
小さな部分が反応している。
昔から危険を見張ってきた場所。
それが、扁桃体と呼ばれる場所だ。
本当に危ないときだけでなく、
「少し怪しい」くらいでも反応する。
そのたびに、
内側がわずかに緊張する。
心臓が少し速くなり、
呼吸が浅くなり、
筋肉が固くなる。
本当の危険は、ほとんどない。
それでも、
扁桃体は日常の中で何度も動く。
問題はそこにある。
私は荷物の宅配便を待つのが、得意ではない。
仕事場に持って来てもらうのなら、まだ耐えられる。
だが、こと自宅となると、
身構えて待つことになる。
いつ来るのだろう、と身体が準備してしまうのだ。
朝ならば顔も不用意に洗えないし、
トイレに入る時も周りの気配を探ってから入る。
すぐに動けない状況は、
なるべく作らないようになる。
だから、
ジャングルで用を足すとか、
目もくらむような高い場所で催すなど、
考えただけで、疲弊してしまう。
誤解を招かないように加えて置くと、
これは私の臆病さが悪いのであって、
配達の人は悪くはない。
配達の荷物は大変有り難く、よく利用する。
ただいつも受け取るのは、自分の仕事場だ。
どういうときに、扁桃体が動くのか。
観察してみると、四つに分かれる。
強度
(大きい・濃い・強い)
・会議で一人だけ声量が段違いに大きい
・何度も同じ話をされる
・しつこく構われる
・「至急・最優先」が連続する
・長文のメッセージが何度も届く
・店員の接客が異様にテンション高い
→ 扁桃体:覚醒を上げる
(注意が一気にそこへ向く)
急変
(流れが急に変わる)
・雑談が急に数字の話へ
・予定が直前で方向転換
・話題が次々と変わる
・さっきまで笑っていたのに急に無表情
・評価基準が急に変わる
→ 扁桃体:警報を鳴らす
(予測が崩れ、身体が構える)
差異
(いつもと違う)
・自分だけCCに入っていない
・自分宛だけ敬称が外れている
・挨拶の返事がない
・いつも来る確認が今回は来ない
・周囲が笑っているのに説明を受けていない
→ 扁桃体:監視モードに入る
(状況スキャンが強まる)
生物
(目・顔・視線・存在)
・複数人の視線が一瞬自分に集まる
・目を合わせず会話が進む
・理由の分からない笑み
・名指しで呼ばれる
・グループの中心に立たされる
→ 扁桃体:先に動く
(意味づけよりも前に)
人は理性で生きているつもりでも、
扁桃体は昔のままだ。
森の中で音がしたときと、
後ろから自転車の錆びたブレーキ音がしたとき。
身体は同じように反応する。
動いている回路は、
たぶん同じだ。
身体はまだ、
森の中にいる。
ストレスは弱さではなく、
身体の反応に近い。
けれど、
この仕組みはいつも同じ強さではない。
脳には、
そんな敏感に反応する扁桃体を抑える役目の場所もある。
前頭前野だ。
ここがブレーキになる。
前頭前野(ブレーキ役)が弱くなりやすい要因
・睡眠不足(徹夜・断続的睡眠)
・慢性的ストレス(コルチゾール高止まり)
・強い疲労(認知疲労・決断疲れ)
・低血糖/脱水
・アルコール
・強い感情直後(怒り・恐怖のピーク)
・マルチタスク過多
・痛み・体調不良
余談だが、
先程の表にあったコルチゾールというのは、
腎臓の上に帽子のように乗っている副腎の皮質から出るホルモンで、
糖質コルチコイドと言ったりもする。
いわゆるステロイドで、
アトピーの薬と思っても良い。
身体は、
危険だと思うと
ちゃんと反応する。
だから、私は違和感を感じたら席を離れる。
無理して感情を否定したりはしない。
表に出さないだけだ。
嫌味を言われても、笑ってはいるが、
心の中では、コノヤロウと思っていたりする。
その感情を否定したり、
克服しようとしたりはしない。
社会生活として、
外に出さなければ良いだけだと思っている。
それは弱さではなく、
ただの仕組みだ。
身体はまだ、
森の中にいる。
緊張は、肩や首に出ることが多いです。
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