ガバメントクラウドのFinOpsについて真剣に考えてみる(前編)
タイトルバナーはJ-LISフェア行きたかったなあという怨念が籠ったなにかです(´・ω・`)
1 ガバメントクラウドのFinOps
2025年6月13日、デジタル庁は「自治体情報システムの標準化・ガバメントクラウド移行後の運用経費に係る総合的な対策について」の資料を公表し、地方公共団体にも通知を行いました。運用経費抑制に関連した最新の資料となります。
本記事の読者には、システム標準化・ガバメントクラウド移行で運用経費が増加することが課題になっていることはあえて解説する必要はないと思いますので、そこの説明は割愛します。
特筆すべきは、今までデジタル庁は標準化・ガバクラ移行のコスト抑制・削減について、先行事業の中間報告関連を中心に様々な説明資料を出して来ていますが、今回初めてFinOpsという用語が登場したことです。
その直後、6月18日にはFinOpsをテーマとした国内イベントの「FinOps X Day Tokyo」にデジタル庁の楠統括官が登壇し、ガバメントクラウドにおけるFinOpsについて説明されました。
デジタル庁がガバメントクラウドのFinOpsに真剣に取り組みことを公式に内外に示した形になると思います。
また大きくぶち上げたなというのが個人的な感想です。それぐらいFinOpsとは一筋縄ではいかないものなのです。
2 FinOpsとは?
FinOpsという用語が耳慣れない方も多いと思いますので、簡単に説明します。
クラウドのコスト最適化の意味で使われることも多いのですが、それは正確ではありません。それはちょうど、単にデジタルツールを導入して「DXだ!」と主張するのと同じようなものです。
FinOpsというのはFinOps Foundationという団体(以下略して「F2」、現在はLinux Foundationの下部組織)が2019年に提唱した比較的新しい概念です。
クラウド用語で開発と運用を一体的に行うDevOpsという用語がありますが、それの財務版です。即ちFinancial Operationsです。
F2は、FinOpsを「各部門が連携して最大のビジネス価値を得られるようにするための、進化し続けるクラウド財務管理の規律および文化的な実践」と定義しています。
事業担当者やエンジニアがクラウドコストの最適化を行うのも構成要素の1つではありますが、それは極々一部の話でしかありません。
システムを利用している事業担当や情シス部門のみならず、幹部や財務担当者、会計担当者などを巻き込んで協力しあってビジネス価値を最大化する、そのための専任チーム(CCoE)を作って組織に取り組みの文化を根付かせる、そこまでやってFinOpsなのです。
デジタル庁が「やるぞ!」と言っているのはそういうシロモノなのです。
だから、財政担当が「こんな見積で予算はつけられない」とか、経理担当が「こんな内訳も無い請求書では支出などできない」とか、会計担当が「ペイジーなんか対応できるわけないだろ」とか言っている間はFinOpsの実践など夢のまた夢なわけですよ(´・ω・`)
3 FinOpsの実践
観念的な話が続きましたので、具体的にどうやるか、単なるクラウドコスト最適化とどう違うのかという説明をしたいと思います。
F2では、FinOps実践サイクルを「情報提供」「最適化」「オペレーション」と定義しています。
AWSにもFinOpsの考え方はあり、皆さんが良くご存じのWell-Architected Frameworkの中のコスト最適化の柱の中で、Cloud Financial Management、CFMフレームワークとして位置付けています。こちらのCFMでは構成要素を「可視化」「最適化」「予測・計画」としています。
言い方は違いますが、F2とAWSの要素はそれぞれ対応しており、中身は同じです。
個人的にAWS CFMの方に慣れていますので、本記事ではそちらの方を採用して説明していきます。

3-1 可視化
まず何はともあれ可視化です。クラウド利用料が具体的にどのようなものにどれだけかかっているかを明確にする必要があります。
これが無いと次のステップの最適化を効果的に行うことができません。デジタル庁はコスト最適化のためのチェックリストを作成していますが、それを闇雲に実行しようとして、例えば全体の1%しかないコストに対して頑張って最適化を行おうとしても非効率です。
まずは自団体の全体のコスト構造を把握し、どこから手を付けるのが効果的なのか調べるところがスタートラインです。
またクラウドコストは日々様々な要素によって変化していき、場合によっては意図しない望まぬ課金が突然発生することがありますので、事業者から提出される月次のレポートなどでは情報が古く、柔軟な分析も出来ないため不十分です。
「こういう切り口のレポートは無いのか」というと、事業者が持ち帰ってレポートを再作成することになりますよね。それでまた時間や工数がかかってしまいます。
そのため、各リソースに多角的な分析が出来るようにタグ付けを行い、なるべくリアルタイムに近い形でコスト状況を参照できるダッシュボードを備えるのが理想的です。
この考え方はデジタル庁のGCASガイドにおいても「データの可視化」として記述されています。
3-2 最適化
次に、可視化を前提として最適化を実施します。
最適化には様々な手法がありますが、可視化によりコスト構造を把握し、効果が高いものを優先的に実施していきます。
まず短期的にとりあえず実施するのがクイックウィン最適化です。明らかな余剰リソースを特定して削減の検討をするものです。
AWSではクイックウィン最適化を実施するためのマネージドサービスが幾つかあります。
最初にCost Optimization Hubで勘所を把握し、Trusted AdvisorとCost Explorerで未使用リソースを特定、Compute Optimizerでインスタンスサイズを調整し、どうにも削減できないものにはリザーブドインスタンスやセービングプランの適用を検討します。
ここで重要なのは、ただコストを減らせば良いというものでは無く、可用性などの非機能要件は必要な水準を確保する必要があるということです。共創PFでも「Multi-AZは本当に必要なのか」みたいな論争が時々起こりますが、ここを見極めるのは結構大変です。
またマネージドサービスも機械的にはじき出すだけなので、短期的には不要でも長期的に見ると必要みたいなケースもあります。
そうしてクイックウィン最適化を実施した後は2周目以降の中長期的な施策として、アーキテクチャの見直しがあります。
分かりやすいものはモダン化ですが、新規のマネージドサービスへの置き換えなども含まれます。
自分が毎日未明のAWSアップデートをすべてチェックしているのはこのためです。
気が付かれたかも知れませんが、最初に手掛けるクイックウィン最適化であっても、適切に実施するためにはそれなりのクラウド知識が必要になります。アーキテクチャ見直しは言うまでも無いですよね。
自力での実施が難しければ、AWSのコンサルティングサービスを利用したり、デジタル庁の支援を受けるのも手だと思います。
3-3 計画・予測
その次が計画と予測です。ここがかなりの難関です。
レガシーなオンプレミスの話をしましょう。
従来はデータセンターにリースで調達したサーバを設置し、その上にシステムを構築していました。
サーバは5年リースです。5年後の状況を見据えたうえで性能や容量を決めます。果たしてそれが妥当だったのかは5年後しかわかりません。しかし、その結果をフィードバックしようにも、5年間も経ってしまうとデジタル技術やサーバの性能も大きく変わってしまっています。5年前の内容を検証して知見として活かそうにも、それは出来ないのです。
だから我々はデジタルに投資するコストを検証せず、フィードバックせず、ただ場当たり的に適切かどうかも分からない経費を支払い続けてきたわけです。
ですが、クラウドを利用し、そのコストを可視化して最適化により贅肉を落とした後であれば違います。今まで5年間かかっていたサイクルが1か月もしくはそれより短いスパンとなり、検証ができます。またクラウドのマネージドサービスにより予測も可能であり、軌道修正も可能です。
言い換えればデータやエビデンスに基づいた意思決定が出来るようになります。文字通りEBPMの実践が可能になるわけです。
とはいえ、今までこれらの取り組みをやって来なかったわけですから、これは大変な事です。
クラウド運用と財務管理は今までに無い要素がたくさんあります。従来は定められたリース費用を定額で払い続けていれば良かったのが、クラウドコストは状況により変動します。為替の影響も受けます。
だから、財務部門や会計部門と協力して、新しいルールや仕組みを作らねばなりません。そして、その意義や価値を幹部に説明し、理解いただく必要があります。
3-4 FinOps実践
最後のFinOps実践は、この「可視化」「最適化」「計画・予測」のサイクルを、暫定的なものでは無く継続的・持続的な取り組みとして実施できるように仕組みを整備し、組織に文化として根付かせることです。
そのためにはクラウド運用を行う専任組織、CCoEを設置してクラウド専門人材を集約・育成し、関係所属との連携を深めていく必要があります。
情シス部門がアーキテクチャのモダン化を提案し、非機能要件面から問題が無いか事業部門が検証、財務部門が費用対効果を検証し、幹部が提示されたデータに基づいて意思決定をする、そうした取り組みを組織横断的に関係者が協力し合いながら継続的に実践してビジネス価値、公共であれば住民サービスの最大化に寄与する、そういう組織に生まれ変わるのがFinOpsの目的なのです。
デジタル庁が「ガバメントクラウドでFinOpsやるぞ!」と宣言した言葉の重みが感じられたでしょうか?
長くなりますので今回はここで切って、後編ではガバメントクラウドで本当にFinOpsが可能なのか?また公共SaaSは銀の弾丸足りうるか、ということを検証していきたいと思います。
