夜店の先に【シロクマ文芸部】
夜店から連れて来られた家には、子どもが2人いた。
少し大きな女の子と、小さな男の子。
小さな男の子は、僕の赤い尾ひれがヒラヒラと舞うのを、目をキラキラと輝かせて見ていた。
夜店に来ていたのは、父親と女の子の2人だ。
朝顔模様の可愛らしい浴衣に身を包んだ女の子が、あの赤いのが欲しいと父親におねだりしたのだ。
父親が追いかけるのを、僕は必死で逃げた。
弟や妹達も逃げた。
「ほら、逃げるな。いいとこに連れて行ってもらえ。」
夜店のおじさんは言う。
でも、ここじゃないどこかに行くのは怖かった。
少なくともここには、弟や妹達がいる。
何本目かのポイが破れて、ひと息ついた時、僕は宙を舞っていた。
女の子の顔が間近に見えた。
女の子は、大喜びで僕が小さな袋に入れられるのを待って、そうっとぶら下げた。
何度も何度も僕を見ながら、そろりそろりと歩く女の子。
この子のところならいいかもな、そう思った。
女の子は、すぐに飽きて、僕に近付かなくなった。
しばらくは、男の子が僕を見に来ていたが、それも長くは続かなかった。
だんだん景色がぼやけていく。
小さな鉢は、すぐに汚れてしまう。
ふと、夜店に残してきた妹や弟達を思い出す。
元気にやっているだろうか。
ある日、僕は小さなバケツに入れられて、外に連れ出された。
母親が持つバケツを、時折女の子がそわそわして覗き込む。
しばらく空を眺めていると、大きな建物に入って行った。
女の子と同じくらいの子どもがたくさんいる。
母親と誰かの話し声がした後、僕は大きな水槽に入れられた。
夜店の水槽よりは小さいけれど、水が綺麗で、泳ぐことができる広さがあった。
ぷかぷか浮いているだけの鉢よりもずっといい。
ふと、僕に近付いてくるものがいた。
見覚えのある小さな尾ひれ。
夜店の懐かしい光景が浮かんだ。
涙は水に溶けていく。
水槽の外では大人達が話している。
「最近、水槽の金魚増えましたね。」
「あぁ、こないだのお祭りで夜店が出ていましたからね。何人か持ってくる生徒がいたんですよ。」
教室の片隅の水槽には、今日も子ども達が集まっている。
「この2匹、仲良しだね。」
「兄弟みたい。」
「この子は、うちからきたんだよ。」
女の子は少し得意げに笑った。
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