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おいしいりんごの作り方 | 童話

このお話は、高校生の時に書いた童話です。
帰省した際に見つけ、久しぶりに読み返しました。

当時、りんごを題材にした童話の公募に応募するために書いたもので、私にとっては、初めてひとつの物語として書き上げた作品でもあります。
結果は落選でしたが、私の中では、ずっと大切な童話でした。

いつか書き直したいと思っていましたが、大人になってからあらためて読むと、あの頃の感性が、思っていた以上に輝いて見えました。
表現や内容は稚拙で、落選したのも納得の作品です。
けれど、少しだけ大きくなった子どもが、
もっと小さな子どものために書いたような、
そんな温かい感情に包まれた物語でもありました。

今回は、その気持ちごと、当時のまま残したいと思います。

それでは、りんごと幸せのお話を。



「おいしい、りんごの作り方」

ねえ、知ってる?
生まれたばかりのりんごの実には、小さなようせいが住んでいるんだって。
子どものころに、ママのひざの上で聞いたおとぎ話。
信じていれば、いつか会えるよ、とママは言いました。

「ようせいさん、ようせいさん。」
小さな男の子が、ほっぺたをまっかにして、りんごのたくさんつまった段ボール箱の前で、しゃがみこんで言いました。

「ようせいさん、ようせいさん。ねえ、ようせいさんってば。」
男の子がいくら呼んでも、なんの返事もありません。
りんごは、だまって箱の中で、お行儀よく並んでいます。

「ママ、ママ。このりんごさんたち、生まれたばっかりなんでしょ。
ようせいさん、出てこないよ。どうして?」

ママは、エプロンで手をふきながら台所から出てきました。
「そうねえ。おばあちゃんが、とってすぐ送ってくれたって言ってたわよ。
ようせいさん、おねんねしちゃったんじゃないかしら。」
「おねんね?
ようせいさん、おねんねしちゃったの?」
「そうよ。だから、かずくんも、もうおねんねしましょう。」

ママは、かずくんの頭をやさしくなでて言いました。
かずくんは、ちょっとさびしそうにりんごの箱を見てから、うなずきました。
「おやすみなさい。ようせいさん。」
ママは、りんごをひとつ手にとって、まくらのよこに置いてくれました。
「おやすみなさい、ママ。」
「おやすみ。」
ママは、かずくんのおでこに、やさしくキスをしました。
かずくんは、にっこり笑うと、目を閉じて、すぐにかわいい寝息を立てはじめました。


「かずくん、かずくん。ねえ、起きてってば。」
どこからか、声がしました。
かずくんは、ねむい目をこすりながら起き上がりました。
きょろきょろと、まわりを見回しましたが、だれもいません。
かずくんは、小さくあくびをすると、またふとんに入ろうとしました。

「かずくん、かずくん。ここ、ここだよ。」
また、声がしました。
今度は、ちゃんと目を開けて、しっかりと見回しました。
すると、いました。いました。
ふとんの上に、ちょこんと座って、くりくりとした大きな目で、かずくんの顔を見上げていました。
かずくんの親指ぐらいの、小さな小さな男の子です。
「あ、りんごのようせいさんだ。」
かずくんが、にっこり笑って言うと、小さな男の子は、ぷうっとほっぺたをふくらまして言いました。
「ようせいさんじゃないよ。
ぼくの名前は、チップだよ。」
「チップ?
チップは、りんごのようせいさんなんでしょ?」

かずくんが、男の子の顔をのぞきこむと、今度は、かずくんの肩にぴょこんと飛びのって言いました。
「ちがうよ、チップだよ。
ねえ、そんなことより、行こうよ。朝が来てしまうよ。」
「え?
どこに行くの?」
「“幸せ”をさがしに行くんだよ。」
そう言いながら、チップは、もう空を飛んでいました。
かずくんも、あわてて追いかけました。

待って〜


「ねえ、“幸せ”って、なあに?」
かずくんとチップは、お星さまでいっぱいの空を、ぐんぐん飛んでいきました。
「わかんない。
でも、お母さんが言ってた。
“幸せ”を見つけないと、おいしいりんごになれないんだって。」
「ふうん。りんごさんも、大変なんだね。」
「そうさ。きみたちみたいな子どもとは、わけがちがうのさ。」
チップが、ふり返って胸を張ってそう言うと、かずくんは口をとがらせて言いました。
「ふんだ。
“幸せ”がなんなのか、わかんないくせに……」
今度は、チップが口をとがらせて言いました。
「だから、さがしに行くんじゃないか。」

「……」
「……」
「あははは。」
「あははは。」
二人は、口をとがらせたまま、ちょっぴりにらみ合ったあと、いっしょに笑いだしました。

「ねえ、“幸せ”って、どんなもの?
おいしいの? かっこいいの?」
「うれしくて、楽しくて、あったかいものだって。」
かずくんは、首をかしげました。
「よくわかんないや……こたつかなあ。」
「ん〜、なんかちがう気がする。」
二人は、星にかこまれたまま、うんうん、うなりました。

すると、だれかが二人をひっぱって言いました。
「ねえ、二人でうんうん言ってないで、いっしょに遊ぼうよ。」
「そうだよ、遊ぼうよ。」
二人がびっくりして見回すと、たくさんの星たちが集まってきていました。
「ねえ、遊ぼうよ。」
かずくんが、目をかがやかせてチップを見ると、チップも同じ顔で、かずくんを見ていました。
「あそぼっか。」
「うん!」
星たちは、よろこんで、二人のまわりをぐるぐる飛び回りました。


「おにごっこしようよ。」
星のひとりが言うと、みんな賛成しました。
じゃんけんをして、かずくんが、おにになりました。
チップも、星たちも、すぐに逃げ出しました。
「まってよ〜!」
かずくんも、あわてて追いかけました。

「ああ、つかれた〜。
ぼく、もうだめ〜。」
「ぼくも〜。」
みんなで、いっぱい走り回って、かずくんとチップは、くたくたになってしまいました。
星たちは、元気に飛び回りながら、くすくすと笑って、口々に言いました。
「もう、つかれちゃったの?」
「だめだなぁ。」
かずくんとチップは、そろって口をとがらせました。
「だってぇ。」
星のひとりが、近づいてきました。
「じゃあ、お月さまのシーソーしようよ。」
「お月さまのシーソー?」
かずくんの目は、ぱっとかがやきました。
「そう。お月さまのシーソー!」
みんなでふり返ると、お月さまも、にこにこと笑って迎えてくれました。
「さあ、おいで。
わたしのはじとはじに、乗ってごらん。」
かずくんとチップは、顔を見合わせてから、そっとお月さまに乗ってみました。

「わあ、すごいね。
下のほうにも、お星さまがいっぱいだ。」
「はっはっはっ。
あれは、星じゃないよ。
かずくんのおうちさ。」
かずくんは、目をまんまるくして、おどろきました。
「ぼくのおうち?」
「そうさ。
かずくんのおうちや、おともだちのおうちが、たくさん集まって、星のように見えるんだよ。」
「へえ、すごいや。」
チップも、いっしょになって乗り出して、ながめました。
「さあさあ、シーソーをはじめるよ。」
お月さまは、そう言って、ゆらゆらと、ゆれはじめました。
「すごいや!」
「ぼくたち、お月さまに乗っているんだね。」
お月さまは、何も言わずに、にこにこと笑っていました。

二人は、ゆらゆらゆれているうちに、だんだん眠たくなってきて、
そのうち、すやすやと寝息を立てて、眠ってしまいました。
「おやおや、二人とも、眠ってしまったよ。」
お月さまが、そう言うと、星たちは集まってきて、ささやき合いました。
「今日は、楽しかったね。」
「楽しかったね。」


「起きて、起きて。」
「かずくん、チップ、起きて、起きて。」
「朝になっちゃうよ。起きて、起きて。」
「おひさまが、やってくるよ。起きて、起きて。」
星たちの声がして、二人は目を覚ましました。
空は、うっすらと明るくなっていました。

「さあ、二人とも。
わたしたちは、帰らなければならないんだ。
朝が来るからね。おひさまと交代するんだよ。」
「え、朝が来るの?」
お月さまの言葉に、チップは、びっくりしてそうさけぶと、泣き出してしまいました。
「どうしたんだい、チップ。
何が、かなしいんだい?」
お月さまは、やさしく言いました。
「だって、だって……」
みんなが、心配そうに、チップの顔をのぞきこみました。
「だって……、
朝までに“幸せ”を見つけないと、
おいしいりんごに、なれないんだもん。」


「そうだ!
うれしくて、楽しくて、あったかいもの!」
かずくんも、思い出しました。
「はっはっはっは。」
お月さまは、笑い出しました。
チップは、泣き止んで、首をかしげました。
「ねえ、チップ。
おともだちが、たくさんできて、うれしくないかい?」
「うれしい……」
ふしぎそうに、お月さまを見ながら、答えました。
「みんなで遊んで、楽しくなかったかい?」
「楽しかった……」
星たちは、みんな、にっこりしました。
かずくんとチップだけ、まだ、ふしぎそうな顔をしていました。
「胸に手を当ててごらん。
ほら、心が、あったかいだろう。」
そう言って、お月さまが、にっこりほほえむと、チップは元気に答えました。
「うん!」
そして、かずくんを見て言いました。
「ぼくたち、もう“幸せ”を見つけていたんだね。」
「うん!」
かずくんも、元気に答えました。

「さあ、もう時間だ。
おひさまが、出てこれなくて、困っているよ。」
「うん。ありがとう。
ぼくたちも、帰らないと。」
かずくんとチップは、みんなにお別れを言うと、町へとおりていきました。
「さようなら。」
「さようなら、チップ。」

「かずくん、起きなさい。朝よ。」
かずくんは、お母さんの声で、目を覚ましました。
なんだか、とても疲れたような気がしました。
「ゆめを見たの。」
ねむい目をこすりながら、言いました。
「まあ、どんな夢?」
「えっとね、
すごく、うれしくて、楽しくて、それから……
あったかい夢!」
お母さんは、ふしぎそうな顔をして、聞きました。
「なんの夢を見たの?」
「えっと……」
かずくんは、考えこんでしまいました。
どうしても、思い出せないのです。
「わかんないや。」
「まあ。」
「でもね、なんだか、すごく、りんごが食べたいよ。」
「まあまあ。
いったい、どんな夢を見たんでしょうね。
朝ごはんが終わったら、むいてあげましょうね。」
お母さんは、そう言って、
かずくんのまくらもとに置いてあった、りんごを持って、台所へ入っていきました。

朝ごはんが終わると、お母さんは、約束どおり、りんごをむいてくれました。
それは、みつがいっぱい入っていて、
今までに食べたことがないくらい、おいしいりんごでした。

「おいしいだろ、かずくん。」
「え? なにか言った?」
「ううん。何も言ってないよ、ママ。」

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