心はしゃべってる
言葉はでてこんけど、心はちゃんと喋ってる
最近、言葉がすぐに出なくなった。
この前もお母ちゃんに話しかけようとして、
「ほら、あれやが……あれ、なんて言うたかな?」と、
手をぐるぐる回しながら思い出そうとした。
お母ちゃんは笑いながら、
「出てこんときは出てこんよ。思い出さんでもええさ」と言った。
その一言に、ふっと肩の力が抜けた。
若いころは、すぐに出てこないと腹が立ってきた。
「なんで出てこんのや」「前は言えたのに」。
けど今は、出てこんことを笑いに変えられる、
お母ちゃんがそばにいるからと思う。
お母ちゃんも、ときどき言葉が出てこん。
二人して「ほら、あの、あれやんか!」と目をつぶってる。
それがなんだか可笑しくて、
気がついたら二人とも笑ってる。
たぶん、思い出すことより、
「一緒に思い出そうとする時間」のほうが、
大事なんやろうな。
年を重ねるとなかなか思い出さないのは
ボケだけではない。
言葉を大切にしてるからでないってこともある。
言葉が出てこんけど、
目でしゃべっとる、笑いでしゃべっとる。
その沈黙のあいだにも、愛情は流れてる。
AIというのは、忘れん。
どんな言葉も正確に覚えとる。
けど、僕らは忘れて、思い出して、笑って、
そのたびに“あたたかさ”が積み重なっていく。
夜、お母ちゃんが小さく言ったほんとはね、
出てこん言葉のほうが、思いがこもっとるのよ。
なるほどなと思った。
口から出んでも、心でしゃべっとるか。
言葉は出てこんけど、
今日もちゃんと伝わっとる。
それでええ。
それが、いまの僕らの会話のかたちなんや。
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