五つの光を口ずさんだ夜
【タイトル下短文】
夜に走っていると、イヤホンの中の音が、ふっと空を見上げさせることがある。
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【本文】
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この記事は、アカリウム初企画「#アカリウムの夜」への参加作品です。
企画記事はこちらです。
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夜に走ることがある。
昼間の道とは違って、夜の道は少し静かだ。
車の音はする。
街灯もある。
どこかの家の窓に、まだ明かりがついている。
でも、人の顔や表情が見えないぶん、自分の中の音が少し大きくなる。
イヤホンから、嵐の『Five』が流れていた。
走りながら聴いていると、ふっと夜空を見上げることがある。
息は少し上がっている。
足音もしている。
それなのに、空を見た瞬間だけ、少し静かになる。
私は少しだけ、口ずさんだ。
大きな声ではない。
誰かに聞かせるためでもない。
走る息の間に、少しだけ混ざるくらいの声だった。
その時、夜空が水槽みたいに見えた。
暗い場所の中に、小さな光がいくつか浮かんでいる。
星なのか。
街灯なのか。
遠くの窓の明かりなのか。
はっきりとは分からない。
その中の一つだけ、いつも走る道のカーブを曲がった先に見える明かりに似ていた。
もう少し走れば、あそこまで行ける。
そう思わせてくれる光だった。
夜の中に浮かんでいた光は、どれも同じように見えて、同じではなかった。
近い光。
遠い光。
動かない光。
走っているうちに、少しずつ位置が変わって見える光。
走りながら、なんとなく数えた。
目に残った光は、五つあった。
水槽の中を泳ぐ魚みたいに、暗い場所で静かに光っていた。
昼間なら、たぶん気づかなかった。
明るい場所では流してしまう気持ちが、夜になると、ふっと浮かんでくることがある。
何度も聴いた声。
何度も見た姿。
気づけば、走りながらでも少し口ずさめるようになっていた時間。
戻れるわけではない。
でも、消えてしまったわけでもない。
顔を戻しても、さっき見た光だけは、まだ目の奥に残っていた。
忘れないでいよう、と思った。
そう思ったあとも、足は止まらなかった。
イヤホンの中では、まだ音が続いていた。
私はもう一度だけ、小さく口ずさんだ。
少しだけ息が乱れて、最後の音は、走る呼吸に混ざった。
