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中殿筋を鍛えても、膝が内に入るのは変わらなかった|knee-inを作っている条件を15個に分けて、その場で1つずつ消す

鍛えたのに、動きが変わらないとき

先週の金曜、インスタライブで「knee-inはなぜ起きるのか」という話をしました。

片脚スクワットで膝が内に入る。中殿筋が弱いのだろうと考えて、2か月鍛える。筋力は上がる。それでも、膝が内に入るのは変わらない。

ライブでいちばん時間を使ったのが、

では、膝を内に入れているのは何なのか

という話でした。この記事はその整理です。

僕が考える臨床推論とは何か

先に、この記事で使う言葉の意味をはっきりさせておきます。

僕が考える臨床推論とは、

「患者さんの問題を解くための、根拠のある、思考プロセス」

です。3つとも外せません。

「患者さんの問題を解くため」——知識を増やすためでも、評価を網羅するためでもありません。目の前の人の困りごとが動くかどうかが基準です。

「根拠のある」——なんとなくそう思った、ではなく、どの所見から、どうしてそう考えたのかが言える状態です。

「思考プロセス」——単発の判断ではなく、順番があるということ。

今日の話は、この「順番」をknee-inで通したものです。

内に入る人が、痛いとは限らない

まずここから置き直します。

knee-inがあっても痛みのない方がいて、knee-inがほとんどなくても強く痛む方がいます。入るか入らないかで、痛みは決まりません。

関わってはいる、という報告はあります。

着地で膝外転モーメントが大きい選手ほど、その後ACL損傷が起きていた(女性アスリート205名を先に測っておいて1シーズン追いかけ、9名が受傷)
Hewett TE, et al. Am J Sports Med. 2005;33(4):492-501.

同じ測り方で、膝蓋大腿疼痛が起きる割合も高かった(15.4Nmを超えた群で6.8%、下回る群で2.9%。女子中高生145名)
Myer GD, et al. Br J Sports Med. 2015;49(2):118-122.

殿筋を鍛えると症状は良くなるが、動きそのものは変わらなかった
Rabelo NDA, Lucareli PRG. Braz J Phys Ther. 2018;22(2):105-109.

ここで2つ、読み違えやすいところがあります。

ひとつは、結びつく先が1つではないこと。knee-inが関わるのは膝の前の痛みだけではありません。靭帯のケガもそうですし、他にもあります。

もうひとつは、モーメントが大きい群でも9割以上は何も起きていない、ということ。

そして3本目が効いてきます。鍛えると症状は良くなる。でも動きは変わらない。「鍛えて動きを直す」という道筋のほうは、確かめられていません。

knee-inは、釣り合いの結果です

膝が内に入るのは、膝で起きていることではありません。

上から来ているもの、下から来ているもの、そして骨の捻れ。この3つの釣り合った先が、膝の位置として表に出ます。

だから見るのは膝ではなく、それを作っている条件のほうです。

条件を4つの層に分けます。層で分ける意味は、打つ手と時間軸が層ごとに違うからです。

① 土台 ── 股関節まわり(3つ)

1. 外転筋の遠心性

筋力そのものより、片脚接地で骨盤が落ちるのを止められるか。最大筋力が出ていても、着地の一瞬で使えていないことがあります。測るなら片脚立位の保持ではなく、片脚での下降で。

2. 股関節外旋の可動域

外旋が出ないと、しゃがみ込みで大腿骨が内旋方向に逃げます。見るのは屈曲位での外旋。腹臥位で測る伸展位の角度とは別物です。角度が出ていても、荷重下で使えていないことがあります。

3. 内転・内旋の許容量

範囲が大きいほど、膝は内側に移動しやすい。動かして終わりが骨で止まるなら、大腿骨の捻れや臼蓋の形です。そこは運動では変わりません。左右差があるなら、まずここを疑います。

① 土台 ── 足まわり(3つ)

4. 後足部の回内

距骨下関節が回内すると下腿が内旋し、膝は下から内側へ引かれます。立位で踵の傾きを見て、徒手で内側から支えたときの反応を見る。支えて変われば、下からの入力が条件に入っています。

5. 足関節背屈の制限

背屈が出ないと、しゃがみ込みで足部が回内して逃げ道を作ります。膝を前に出す課題で、踵が浮くか、足部が内に落ちるかを見る。膝ではなく足関節が主役になっていることがあります。

6. 内側縦アーチ

荷重した瞬間にアーチが落ちるなら、そこから上に連鎖します。テーピングやインソールで一時的に支えて、その場で比べる。変わらなければ、アーチはこの人の条件から外せます。

② 使い方 ── どこで衝撃を吸収しているか(3つ)

7. 体幹の位置

着地で体幹が支持脚側に傾くと、股関節の内転が増えて膝が内へ移ります。膝だけ見ていると気づきません。体幹の傾きまで一緒に見ます。

8. 吸収する関節

ジャンプの着地で股関節を使わず、膝と足だけで受けていないか。股関節屈曲が浅いと殿筋が働かず、大腿骨が内転・内旋に流れます。

9. 課題が増えたとき

ボールを見る、人を避ける。注意が他に向いた瞬間に出るか。その場のスクワットでは出ないのに競技場面で出るのは、ここです。評価で出ないなら、出る場面まで課題を上げてから見ます。

③ 負荷の量 ── 何回、どの条件で(3つ)

10. 反復の回数

一度に大きく入らなくても、1日に何百回あるかで話が変わります。1回の練習で着地と切り返しが何回あるかまで聞いておく。

11. 疲労の後半

練習の最初から出るのか、後半だけ出るのか。後半だけなら、筋力ではなく持久性と課題の量の問題です。

12. 靴・床・環境

シューズの状態、体育館の床、屋外コートかどうか。本人の環境を変えずに動きだけ直しても、戻ります。

④ 構造の問題 ── 運動では変えられない部分(3つ)

13. 大腿骨の前捻角

前捻が大きい人は、まっすぐ立つと膝が内を向きます。腹臥位で股関節の内旋・外旋の範囲を比べると見当がつく。

14. 脛骨の捻転

脛骨は膝に対して足部側が外へ捻れています(標準15〜25度)。外捻が強い人がつま先を前に向けると、下腿が内に回って膝が内を向く。足と膝は同時に前を向きません。どちらに合わせるかを決めて見ます。

15. 下肢アライメント

動く前から膝が内寄りの人がいます。静止立位を先に見ておかないと、動いたせいだと思ってしまう。

ここに挙げたのは僕の整理です。実際はまだまだあります。

「股関節が弱いから」は、そのままつながりません

ここが、ライブでいちばん強調したところです。

続きは2つあって、どちらも別々に切れています。

弱いから痛い?

痛みが出ている人を測ると、股関節の筋力は低い。ただしそれは、痛くなった後に測った結果です。痛くなる前に測って追いかけると、弱い人が先に痛くなってはいませんでした。

弱いから入る?

痛みのない人では、強い人ほど入らない、とはなっていません。7本の研究のうち、関係なしが3本、強い人ほど入るが2本。「弱いから入る」では、この内訳を説明できません。

筋力の低下は、原因ではなく結果のことがあります。

では中殿筋は鍛えなくていいのか、というと、そうではありません。運動そのものは効きます。ただ目的が違う、ということです。膝蓋大腿疼痛では、股関節を含めた運動療法が痛みと機能を改善すると報告されています。knee-inが消えなくても症状は良くなる。そこに鍛える意味があります。

knee-inを直す手段として出すのではない、というだけです。

一人の患者さんで、1つずつ消していく

ここからが消す話です。ライブでは模擬症例を使いました。実在の患者さんではありません。

Aさん 19歳・女性。バスケットボール部。練習は週5日、1回2時間
主訴 右膝の前面が痛む。階段の下りと、着地の瞬間に出る(NRS 5)
経過 3か月前から。安静時痛はない。腫れも熱感もない
動作 片脚スクワットで右のknee-inがはっきり出る。左は軽度
これまで 中殿筋のトレーニングを2か月続けた。膝が内に入るのは変わっていない

最初に見たのは、膝ではありません。

痛みが出る動作と、膝が内に入る動作が重なっているか。階段の下りと着地で出て、上りでは出ない。困っているのは練習の後半で続けられないことであって、膝の見た目ではない。

膝から見に行くと、痛みと関係のない動きまで拾ってしまいます。

踵の内側を徒手で支えて、もう一度

内に入らなくなったのが目で分かりました。→ 4 後足部の回内 が残る

着地で上体の位置だけ変えてもらう

さらに入らなくなった。膝には何も触れていません。→ 7 体幹の位置 も残る

つま先を外に向けて、股関節を外旋位に置いて同じ動作

ほとんど変わりませんでした。→ 2 股関節外旋の可動域 は主因から外す

回数を増やし、視線を外したまま続けてもらう

最初の数回は入らない。後半になると戻る。→ 9 課題が増えたときの崩れ と 11 疲労の後半 が残る

腹臥位で内旋・外旋の範囲を左右で比べる

右は内旋が大きく、外旋が少ない。→ 13 大腿骨の前捻角 が背景にある

変わらなかったものを消せることが、その場で試すいちばんの利点です。

残ったもの、消えたもの

残ったのは、足部の回内/体幹の位置/課題が増えたときの崩れ/疲労の後半/大腿骨の前捻角。

消えたのは、股関節外旋の可動域。つま先の向きを変えても変わりませんでした。

そして今日は触っていないもの——足関節の背屈、内側縦アーチ、靴や床、脛骨の捻転。介入が効かなかったときに、ここへ戻ります。

これはAさんで残ったものです。他の人では、別のものが残ります。

初回で出したものと、ゴールの置き方

足部は、内側縦アーチをテープで支えて、支えた状態と外した状態を比べてもらう。変化が続けば足底挿板に移します。

体幹は、段差からの片脚着地で上体の位置だけ変える課題。崩れない範囲の回数で区切る。膝の見た目については何も言いません。

量は、走行距離ではなく「崩れる前で止める」で区切る。反復回数と休息の入れ方を先に変えます。

骨の捻れには、何も出しません。

4つのうち3つは、膝そのものに触っていません。

目標は「knee-inしないこと」ではなく、階段の下りと着地で痛みなく続けられることです。前捻は変わらないので、膝が内に入ったままで痛みだけ消えることがあります。膝が内に入るのは本人にも分かりやすいぶん、目標に据えると外しやすい。

Aさんに「膝を内に入れないでください」とは、最後まで言いません。

次に見るときに、何を比べるか

同じ課題・同じ回数・同じ靴で、後半にまた内に入るか。

階段の下りで、どの段から出るか。前回と同じ聞き方で聞く。

支えを外した状態で、支えたときの感じが残っているか。

2週間で変わっていなければ、今日触っていない条件に戻ります。

次回に比べられない評価は、その場で納得できても推論には積み上がりません。

いま書いたこれが、臨床推論です

ここまでやったことを、工程に分けるとこうなります。

現象を正確に見る —— どの動作で、どこが、どのくらい痛むのか

原因の候補を広げる —— 膝の中だけで完結させない

評価で絞る —— その場で変えて、変わるかどうかで消していく

介入する —— 残った本命に集中して当てる

その場で判定する —— 同じ物差しで、本人の言葉まで取る

難しいのは、実は2つだけです。

候補を広げること。 膝の外に置けるかどうか。置かなかった候補は、最初から検討されません。

候補を消すこと。 その場で試して1つずつ消せるかどうか。消せない候補は、ずっと残り続けます。

この2つができると、診断名に対する処方ではなく、その人に対する処方に変わります。

無料のオンラインセミナーで、続きを話しています

候補を消したあとに、何を当てるか。主訴をどう分解して、仮説をどう4つの視点で立てて、どの評価から潰していくか。今日のknee-inの話は、その一部分です。

参加は無料です。下から受け取ってください。


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たくみロドリゲス@理学療法士 少しでも臨床のヒントになっていれば幸いです!!!