【探究学習】ホテルのリスクを誰が背負うのか
大家さんと、店を経営する人
星野リゾート・リートは、要するに大家さんです。ホテルの建物を持っていて、星野リゾートに10年契約で貸してる。お客さんが来ても来なくても、契約期間中は決まった家賃(分配金)が入ってきます。台風が来ようがインバウンドが減ろうが、そう簡単には揺らがない。安定重視の資産です。
一方、同じホテル業界でも藤田観光(9722)は自分で店をやってる人です。ホテル椿山荘東京を自分で運営して、お客さんが増えれば儲かるし、改装費がかさめば利益が減る。儲けも損も全部自分で受け止めます。ROEは約30%と高くて、これは「自分で稼ぐ力」の強さの表れでもあります。
同じホテルという土俵に立っていても、収益の設計次第でリスクとリターンの性格がまるで違う。ここまではよくある話です。
フロント企業みたいだと思った
ここで自分の口から、ちょっと物騒な言葉が出ました。「フロント企業の資金の流れを調べてるみたいな気持ちになった」と。
我ながら大概な例えですが、やってることは近い気がします。お金がどこから発生して、誰の手を経由して、最終的に誰の懐に入るのか。それを追いかける作業だからです。合法か非合法かの違いはあっても、本質は同じでした。上場企業の場合は、この流れが決算資料として合法的に開示されている。フロント企業の資金洗浄捜査が難しいのは、その開示がわざと隠されているからなんですよね。
リスクの押し付け方が、権力の中身
そこから話は一気に抽象化していきました。
大家(リート)は取り分が少ない代わりにリスクも小さい。事業会社は取り分が大きい可能性がある代わりに、失敗すれば損失も丸ごと被る。フランチャイズ本部にいたっては、ブランドと仕組みだけを貸して、現場のリスクは加盟店側に負わせます。
権力構造の力の源泉は、儲けの大きさそのものじゃなくて、「リスクを人に押し付けて、儲けだけ受け取れる位置に立てるかどうか」という設計の巧拙にあるんじゃないか。資本主義というゲームの本質を一言で言うなら、「誰が価値を生み出すか」より「誰がリスクの配分を設計できる立場にいるか」の方が、権力の源泉に近いのかもしれない、という話になりました。
自分は動かず、他人の結果だけ受け取る
これを突き詰めると、行き着くのは「自分は動かず、他人の労働・資本・リスクテイクの結果だけを享受できる位置に立つ」という話でした。
これは株の話に限りません。
サブスクは、一度コンテンツや設備を作れば、あとは会員が使っても使わなくても課金され続けます。プラットフォーム企業は在庫も車両も持たず、出品者や配達員に労働とリスクを負わせて、手数料だけ受け取ります。保険会社は多くの人からリスクの対価を集めて、実際に払い戻す額は集めた額より少なく設計されています。不動産や株式配当は、資本を持っているというだけで、他人の労働の成果を分け前として受け取れる仕組みです。
面白いのは、これが「悪」とは言い切れないところです。資本や信用を出す側にも、貸し倒れや株価下落といったリスクはちゃんとある。ただ、うまく設計された仕組みほど、そのリスクを他の誰か(労働者、加盟店、契約相手)に薄く広く転嫁できている、という傾向は確かにありそうです。
世界の解像度が、また少し上がった
「なるたけリスクを少なく、利益を多く得るための営みが、資本主義の最終形」という見方もできます。ただ、この欲望の追求自体は資本主義に限らず、人間や生物一般に見られる合理的な生存戦略でもあります。資本主義に特徴的な部分があるとすれば、そのゲインの追求を「株式」「契約」「REIT」みたいな抽象化された仕組みに落とし込んで、他人の資本・労働・信用まで動員できるようにした点にあるんだと思います。
投資先を見るときも、業績が良いかどうかだけじゃなくて、「この会社は誰のリスクの上に、どういう手数料・利益構造で成り立っているのか」を意識すると、数字だけでは見えてこないその会社の本質が見えてくる気がします。
分配金利回りを調べるつもりが、気づけば資本主義という装置の骨格を覗き込んでいました。世界の解像度が、また少し上がった夜でした。
