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【探究学習】人が足りないから、AIが入ってくる——日本アニメは「労働集約産業」から変わるのか

先日、日本のアニメ制作業界について、興味深いニュースを読みました。
日本のアニメは世界的には非常に人気があり、市場も拡大しています。
ところが、その成長を阻害し始めているものがあるというのです。
それが、
「人が足りない」
という、極めて物理的な問題でした。
帝国データバンクによれば、2025年のアニメ制作市場は4065億円を超え、初めて4000億円を突破しました。
Netflixなど動画配信サービスからの需要も強く、劇場版やゲーム向けCGなどの案件も増えています。
つまり、
「アニメが売れなくなった」
わけではありません。
むしろ逆です。
世界中から日本アニメを作ってほしいという需要があるのに、作る人が足りない。
2026年には、そのことが原因の一つとなって、アニメ制作市場が5年ぶりに前年を下回る可能性まで指摘されています。
なんだか奇妙な話です。
人気がありすぎて、成長できないのです。


「仕事がない」のではなく「仕事を受けられない」
これまで私は、AIが産業に導入される場面について、
「人間の仕事をAIが奪う」
というイメージをなんとなく持っていました。
しかし、アニメ業界を見ていると、少し違った景色が見えてきます。
現在のアニメ制作現場では、アニメーター不足によって制作能力そのものが限界に近づき、一部では品質や労働環境を守るために、仕事を断らざるを得ない状況まで出ています。
つまり、
仕事がないから人間をAIに置き換えるのではありません。
仕事はあるのに、人間だけでは処理できないからAIが必要になる。
ここにはかなり大きな違いがあります。


これまでは「海外の人」に頼ってきた
日本のアニメ制作は、長い間、国内だけで完結していたわけではありません。
動画、仕上げ、背景など、さまざまな工程を中国や韓国など海外のスタジオへ発注することで、大量の作品を作ってきました。
国内で人が足りなければ、
海外の安い労働力を利用する。
製造業でもよく見られた方法です。
ところが、このモデルにも限界が見え始めています。
特に中国では、中国国内のアニメ産業そのものが成長し、アニメーターやCG人材の獲得競争が激しくなっています。
中国側の人件費や制作単価が上昇し、さらに円安まで加わりました。
帝国データバンクの調査でも、中国との取引割合は2023年をピークに低下しており、「低価格な下請先」としてのメリットが薄れていると分析されています。
つまり、
国内で人が足りない。

海外へ外注する。

海外の人件費も上がる。

円安によって、さらに高くなる。
というところまで来たわけです。
そうなると、次の選択肢が浮かび上がってきます。
「人を増やす」のではなく、「一人の人間ができる仕事量を増やす」ことです。
ここでAIが登場します。


すでに大手アニメ会社は動き始めている
これは単なる未来予測でもありません。
東映アニメーションは2025年、AI企業Preferred Networksに出資しました。
両社は、アニメ制作の業務効率化につながるAIソリューションの開発を進め、合弁会社の設立まで視野に入れています。
東映アニメーションは以前から、AIを使った背景美術制作の実験も行っています。
実験作品では、Preferred Networksが開発した技術を使い、アニメの背景制作を支援しました。
経済産業省の生成AI関連資料にも、アニメーションの「中割り」などへの生成AI活用が具体的な利用場面として登場しています。
つまり、
「生成AIでアニメ風の絵を描いてみました」
という趣味的な話とは、まったく違うところでAI導入が始まっています。
アニメ制作という巨大な生産工程の中に、AIが組み込まれようとしているのです。


AIは、アニメーターを消すのだろうか
もちろん、ここで気になるのは、
「それではアニメーターはいらなくなるのか」
という問題です。
ただ、少なくとも当面は、そう単純ではなさそうです。
例えば、
背景の補助。
中割りの候補。
彩色。
線の修正。
素材検索。
制作工程のチェック。
制作進行。
こうした大量に発生する仕事をAIが補助し、
人間は、
演技。
構図。
原画。
演出。
キャラクター表現。
最終的な判断。
といった部分へ集中する。
そんな分業が考えられます。
つまり、
100人のアニメーターを50人に減らすAI
というより、
100人しか集められない制作会社が、120人、150人分の制作能力を持つためのAI
として導入される可能性があります。
これはかなり重要な違いだと思います。
AIは必ずしも、人間が余っている場所から入ってくるわけではありません。
むしろ、
人間が足りない場所ほど、AI導入の経済合理性が大きい。
アニメ業界は、その非常に分かりやすい事例になるのかもしれません。


しかし、もっと重要なのは「誰がAIを持てるか」
ここまで考えて、もう一つ気になることが出てきました。
AIを導入すれば、すべてのアニメ制作会社が楽になるのか。
どうも、そうではなさそうです。
帝国データバンクは現在のアニメ業界について、自社IPを持つ企業と、制作請負を中心とする会社との格差が広がっていると指摘しています。
例えば、大手企業なら、
人気作品のIPを持っています。
配信収入があります。
グッズがあります。
映画があります。
ゲーム化があります。
海外ライセンスがあります。
そこで得た利益を使って、
AIへ投資する。
社員を育成する。
給料を上げる。
優秀なクリエーターを囲い込む。
小さな制作会社を買収する。
ということができます。
すると、
IPを持つ会社
→ 利益が増える
→ AIへ投資できる
→ 生産性が上がる
→ 優秀な人材が集まる
→ さらに作品を作れる
という循環が生まれます。
一方、自社IPをほとんど持たず、受託制作だけを行っているスタジオでは、
仕事を受ける。

人が足りない。

外注する。

外注費が上がる。

円安でさらに高くなる。

しかし発注元には十分価格転嫁できない。
ということになりかねません。
実際、専門スタジオでは2025年に赤字企業が4割を超えています。
ここにAIへの投資能力の差まで加わると、
AIが業界格差を縮めるどころか、逆に広げる可能性もあります。


「アニメを作る会社」より「アニメの権利を持つ会社」が強くなる
こうして考えていくと、アニメ業界の本当の問題は、
「AIで絵を描けるか」
ではありません。
もっと大きな、
産業構造の問題
なのだと思えてきます。
アニメ制作そのものは非常に手間がかかります。
何千枚、何万枚という絵を描き、彩色し、撮影し、編集する。
典型的な労働集約産業です。
ところが、最も大きな利益を生みやすいのは、
作品を一度作ったあと、
世界へ配信する。
映画化する。
ゲームにする。
グッズにする。
キャラクターを貸す。
といったIPビジネスです。
制作する人間は忙しい。
しかし必ずしも、そこに最も利益が残るわけではありません。
だからこそ、現在のアニメ業界では「利益なき繁忙」という状況が起きています。
AIが導入されることで、この構造がさらに鮮明になる可能性があります。


アニメは「労働集約産業」ではなくなるのか
これまで日本のアニメ産業を支えてきたのは、
低賃金でも描き続ける国内クリエーター。
フリーランス。
小さな制作会社。
中国、韓国、東南アジアなどの海外スタジオ。
そうした大量の「人間」をつないだ制作ネットワークでした。
しかし、そのモデルがいよいよ限界に来ているのかもしれません。
これからは、
少数の熟練クリエーター
+若手社員
+デジタル作画
+3DCG
+海外人材
+スタジオ専用AI
という形へ変わっていく可能性があります。
特に面白いと思ったのが、
「スタジオ専用AI」
という考え方です。
歴史の長いアニメ会社には、何十年分もの原画、背景、美術設定、キャラクターデザイン、色指定、制作ノウハウがあります。
もちろん著作権や契約関係をきちんと整理する必要がありますが、自社で適法に利用できる制作データをAIに活用できるとしたら、それは巨大な資産になります。
これまで倉庫やサーバーに眠っていた過去の制作素材が、
AI時代には「生産設備」になる
可能性があるわけです。
工場を持つ製造業が機械設備を資産として持つように、
アニメ会社は、
IP
+制作データ
+クリエーター
+AI
を持つ会社になっていく。
そう考えると、かなり違った産業に見えてきます。


AIは「人間が余った産業」ではなく「人間が足りない産業」から入る
今回アニメ業界について調べながら、もっと広いことを考えました。
日本では今後、
建設。
介護。
物流。
農業。
製造業。
そしてコンテンツ制作。
さまざまなところで人手不足が深刻になっていきます。
そこでAIやロボットが導入される理由は、
「人間よりAIの方が優秀だから」
とは限りません。
もっと身も蓋もない理由かもしれません。
そもそも人間がいない。
だから機械にやってもらう。
日本はこれから、人口減少によって、否応なくそうした社会へ進んでいくのではないでしょうか。
日本のアニメ産業は、世界的な需要を持ちながら、人間の供給能力によって成長を止められようとしています。
だからこそ、
「人間+AI」で、一人あたりの生産能力を上げる
という方向へ進まざるを得ない。
これは単なるアニメ業界の話ではなく、
人口が減っていく日本社会全体が、これから経験する未来を少し先に見せている
ようにも感じます。
AIが人間の仕事を奪うのか。
それとも、人間が足りなくなった社会をAIが支えるのか。
おそらく現実には、その両方が同時に起こるのでしょう。
そして日本のアニメ業界は、その答えを比較的早い時期に見せてくれる産業の一つなのかもしれません。

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