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人魚と人間の交換留学|掌編小説

波の音が聞こえてくる。
もうすぐ海が近いのだろう。

人間の世界に来てはや一年。
私たち人魚と人間の交換留学は終わりを告げようとしていた。

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人魚にとって、海はもう絶対安全の憩いの場ではなくなりつつあった。温暖化による水温の上昇、さらに近年では〝人魚狩り″などという物騒な事件も起こっていた。

そこで、人魚界によるサミットが開かれた。
どうしたら我々人魚が絶滅せずに生き永らえることができるのか。

繰り返し行われる討論の末、ならば人間の世界でも生きられるようにしよう、という結論に至った。

前例がない為、初めは多くの人魚がこれに反対した。魚を取って食う人間の世界で生きるなど言語道断だ、野蛮な人間の世界で生きるくらいなら、海と共に死んでやる!と豪語する者も。

そこで提案されたのが人魚と人間による交換留学だった。

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海の世界しか知らない私にとって、人間の世界はとても刺激的だった。

とりわけ私の興味を引いたのが、恋というものだった。
◯◯君がかっこいいとか、◯◯ちゃんと◯◯くんが付き合ったとかなんとか。毎回お昼の時間になるとこの話題で持ちきりだった。

正直、私には恋という感情がよく分からないのだが、みんなの話を聞いていると、まるでまあるい飴を口の中でコロコロ転がしているような、そんな気持ちになった。

ーーー

学校には部活動というものがあり、私は美術部に所属することにした。

部員は私含めて3名。一人は幽霊部員なので、実質2名だ。今私の隣で絵を描いているのが、学年が一つ上の先輩だ。

先輩は物静かな性格で、普段滅多に話すことはなく、ずっとキャンバスに向かって静かに筆をとっている。

干渉されないし、何も聞いてこない。この静かな空間が心地よかった。

ーーー

「君の絵を描かせてくれないか」

季節が巡り、冬のある日。いつも通り部室の扉を開くと、先輩が開口一番言った。

私は先輩の真正面に座った。
絵のモデルなんて初めてで、どこを見ていいのか分からず、そわそわした。

先輩は鉛筆を取ると、デッサンを始めた。
時折、熱く真剣な眼差しを向けられ、私の心臓はまるで何か別の生き物になったかのように、ドクンドクンと鳴り響いていた。

窓の外をちらっと見ると雪が降っていた。

ーーー

ついに交換留学の最後の日を迎えた。
長いようであっという間の一年だった。

何故か目からも鼻からも海みたいなしょっぱい水があとからあとから溢れてきて、私は何か病気にでもなってしまったのかと慌てた。

「寂しい時や悲しい時、涙というものが出るのよ。もちろん嬉しい時にもね。」

そう先生が教えてくれたが、よく分からなかった。

「一年間お世話になりました。」
そう言い残し、私は教室を去った。

ーーー

美術室に行くと、先輩は居なかった。

なんとなく心がざわざわしたが、もう行かなきゃと出ようとした時、一枚の絵がキャンバスに立て掛けられているのが目に入った。

1人の女の子がこちらに微笑んでいる。
目の色は、エメラルド色と瑠璃色が混じったような、まるで海みみたいな澄んだ色だった。

「やっと完成したんだ。」

声がする方に体を向けると、先輩がそこに立っていた。

「もう、海に帰る時間だろ?送るよ」

私は先輩の自転車の後ろに座った。危ないから捕まっててと、先輩の腰に手を回した。

潮の香りと、ザザーッと波の音が聞こえてくる。

私はまた心がざわざわして、先輩のシャツをキュッと掴んだ。

ーーー

自転車から降りてしばらく、穏やかに行ったり来たりする波を2人で見つめていた。

ふと、先輩の手が私の手に触れ、そして、柔らかい唇が私の唇に優しく重なった。先輩の目から流れる水のせいか、しょっぱい味がした。

この時間が、これからも続いていけばいいのに。
そう思った。

じゃあ私いくねと言うと、
「俺、来年の交換留学の試験受けるから。」と先輩が言った。

それがどういう意味なのか、私には分からなかった。でも、きっと素敵なことに違いないと思えた。

うん、と言って私は先輩に背を向け、海に飛び込んだ。

唇にはまだ、先輩の柔らかな温もりとしょっぱい味がほんのり残っていた。



シロクマ文芸部のお題「波の音」で書きました!
ありがとうございます!
なんだか長くなっちゃって500字くらい削りました...💦

人魚が人間の世界でどうやってと思うかもなので一応補足なのですが、現地のものを食べるとその地に対応できるという設定です。
ここらへんの説明も書いてたのですが省きました。

よろしくお願いします!

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