【タイム・ラプス】〜二人の秒針が動き出すまで〜
私の刻
いつもあの人は、
教室の窓側の一番後ろの席で一人でいる。
片ひじをついて空をボンヤリと見ている。
その瞳は、どこか物憂げで
この窮屈な教室から
飛び出したそうに思えたの。
なんでかな? 彼を無意識に
視界に留めるようになった。
どこか寂しさを運んできた空に
チャイムの音が反響する。
彼は、それを待ち望んでいたように
足早に教室を出ていく。
賑やかな笑い声と
流れ出てくる人達を掻き分けて
なぜか彼を探す、ただただ彼を探す。
一歩、また一歩、走る度に活気が
遠ざかる帰り道、
オレンジ色に染まる、彼の背中を見つけた。
気付かれない距離を保ちながら後を歩く。
この距離は、きっと私と彼の心の
距離なんだね。
どこか歩きながら自分を
取り戻していくような、彼の後ろ姿。
私は、夢中になっていく。
食堂の食品サンプルを見入ってる姿、
駄菓子屋のおばあさんと話してる弾んだ声、
路地にいた、野良猫とじゃれてる笑顔、
教室では、何かから身を守るように
黒くボヤけてた彼が、
今は鮮明に、魅力的に見えた。
わかったの、うぅん、初めからわかってた。
きっと私は、「彼の事が好きなんだ」
僕の刻
いつもあの人は、
黒板を背に友達と楽しそうに笑ってる。
僕は、その笑い声をBGMに空を見上げる。
別に空が見たい訳じゃない、
ただ僕に無関心な空が心地よかったから。
この窮屈で退屈な教室にも、
嫌じゃないものがある。
彼女の笑顔と元気な声。
なんでだろう、あの人は僕を
見つけてくれてる気がした。
待ち望んでいたチャイムの音が響き
空の色を慌ただしく変えていく。
僕は、逃げ出すように教室を飛び出した。
なぜかチラリと、彼女を目で追ってから。
妬むほど楽しそうな声と無頓着な人の波を
サラリとかわし、オレンジ色に染まる道を
歩き出す。
さっきまでの活気が遠くなるにつれ
静寂が全身を包む。
それが、僕が僕に戻れるサイン。
食堂の食品サンプルを見ている時も、
駄菓子屋のおばあさんと話す
弾んだ声の隙間でも、
路地にいた野良猫とじゃれ合う
笑顔の向こうでも、
なぜか、隣に彼女が居たらなと想う。
彼女の笑顔が、声が、
頭の中を優しく混乱させる。
気付かないふりをしていた、
認めるのが怖かった。
素直な帰り道に想う、
きっと僕は「彼女の事が好きなんだ」
二人の新しい刻
二人は、新しい朝を迎えた。
昨日とは違う凛とした空気と、
優しく思える紫色に染まった道。
いつもの教室が少しだけ
綺麗に色付いて見える。
僕は、空を見るのをやめた。
私は、視界に留めることをやめた。
そう、二人は自分に素直になることを選んだ。別に何かが劇的に変化したわけではない。
二人を取り巻くほんの小さな世界だけが、
距離を縮めたのだ。
今日は、甘酸っぱい香りのする空に
チャイムの音がゆっくりと響く。
互いの境界線がなくなったように、
自然に、本当に自然に、肩を並べる。
「一緒に帰ってくれませんか」
「私も言おうとしてた」
瞳を見つめあい笑いあった、
クシャクシャな笑顔だった。
二人の秒針が確かに優しく動き出した。
