その分岐点の先で|映画『Perfume“コールドスリープ” 25 years Document』
駅を降りて神田川沿いの道を急ぐ。空からは小雨が降り出している。
映画の試写会に行くのは、一体いつぶりだろう。
前職時代に2007年頃から15年くらい関わってきたPerfume、その活動休止の裏側を追った映画『Perfume“コールドスリープ” 25 years Document』。
芸能界から少し離れたところに転職してもう4年ほどが経つ。それでも節目のタイミングでは声をかけてくれるPerfumeチームには感謝しかない。
スクリーンに映っていたのは、僕らがいつも見ていた、メンバーとMIKIKO先生とスタッフの会話の感じそのままだった。あのミーティングの独特の、少しピリッとしていて、でも温かい空気感に、懐かしさを覚えた。
これは僕の個人的な印象なのだけれど、彼女たちは何か意思決定をする時に「Perfumeとしてどうか」「ファンがどう感じるか」という2つの視点に基づいて決断をする。この2つの視点が、チーム全体のOSのように共通認識としてもの凄い精度と深さで研ぎ澄まされている。
変な言い方かもしれないが、彼女たちのミーティングに「個人としての私」という視点が出てくることはあまりない。というか、かなり長いこと近くで見てきたけれど、ほとんど記憶にない。むしろキャリアを重ねるにつれて、そこに「スタッフにとって」という視点も大きくなっていったように思う。
関わる人たちの生活まで含めて背負おうとするその背中は、まるで地方巡業を支える劇団の座長のようだなと思っていた。
きっとそれが、彼女たちがそのキャリアの中で見出したプロフェッショナリズムなのだと思う。個人である前にPerfumeであるということ。その責任と背負っているものの重さ。
だからこそ、今回の映画のあるシーンで、「個人として」の視点が思いがけない形で立ち現れた瞬間に、僕は鼓動が早くなるくらいの緊張感を覚えた。そして同時に、「Perfumeがこれまで、どれだけPerfumeであり続けてきたのか」という事実と対峙させられたのだ。
半年くらい前だったと思う。
スタッフから「過去の素材を集めるのを手伝ってほしい」という相談の連絡があった。すぐに昔の同僚に連絡をして、僕が退職時に事務所の倉庫に送った過去素材がぎっしり入ったダンボールたちを引っ張り出す手配をしてもらい、仕事終わりの足で表参道の事務所に向かった。
ダンボールの中には、デビュー当時の小さなライブハウスの対バンやインストア、ストリートライブなどの記録映像が、当時のセットリストの紙に包まれて大切に保管されている。(これらは僕の先輩のある女性スタッフの方が、VX2000と三脚を担いであらゆる現場へ赴き、撮り溜めてきた賜物だ)
そこに入っていたテープはPerfumeだけではない。
当時、ユニットとして一緒に活動していた「BEE-HIVE」メンバーのグループ名が書かれたテープも、同じようにセットリストの紙と共に綺麗に保管されている。僕はそのMiniDVの山の中から、「Perfume」と書かれた素材だけを選んで、丁寧に抜き取っていく。
思えば、まだブレイク前のアーティストを撮影するたびに、「この映像がいつかお宝映像になるかもね」なんて会話を、僕らは冗談めかしてよくしてきた気がする。ただ、それが現実になることは本当に稀だ。大半の映像は、誰に知られることもなく倉庫で眠り続けるか、場合によっては破棄される。決して残酷なことではない。エンターテインメントの世界は、これまでもこれからも、そうやって静かに回っていく。
今こうして自身の足跡が映画化されているPerfumeと、別々の道に進んだ沢山のガールズグループ。それを偶然という人もいれば、必然という人もいる。そこに一体何の差があったのか?と聞かれても僕にはわからない。
いずれにしても、時代はこの中からPerfumeを選んだ。
僕らが生きている「現在」は、様々な分岐点の果てでたまたま選ばれたものに過ぎない。どこか別の世界線で僕はPerfumeではなく、BOYSTYLEやBuzyの素材を、同じように愛おしく引っ張り出しているのかも知れない。
だからこそ、選ばれたものにはその価値と同じくらいの責任がある。
そしてPerfumeは、そのことを誰よりも自覚しているグループなのだと思う。
彼女たちの活動全体に通底している狂気的なまでの責任感と、「コールドスリープ」という個人としての選択。この映画を観て僕は、3人が結成から現在まで背負ってきたすべてが、そこで一度美しく精算されたように見えて、なんだか安心した。
試写が終わって会場を出る。帰り際にマネージャーから「エンドロール千葉さんの名前も入れときましたよ」と言われ、改めて僕からも感謝を返す。過去の素材を引っ張り出す作業を手伝っただけなのに。(しかも聞けば半分くらいのテープは劣化してほぼ見られなかったらしい)申し訳ないが、ありがたい。自分にとって大切な映画が増えることはこの上なく幸せなことだ。
外は、まだ雨が止んでいなかった。 傘を持っていない僕は、また駅に向かって少しだけ走り出す。神田川のあちこちに、小さな雨粒が丸い模様を作ってはすぐに消えていた。
これから先、メンバーがどういう人生を歩むのかはわからない。映画を見る限り、戻ってくる気満々のように見えたけれど、それがどんな形になるのか想像もつかない。ただ、それぞれの人生の、自由で、軽やかな選択の先で。 また何かの形で再会できる日が来るといいなと思う。
それまで、メンバーも、スタッフも、ファンのみんなも、どうか健康で。
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