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企業が売っているものと、顧客が買っているものは同じか|ValuesとValueが重なるところ

企業は、自分たちが何を売っているかを知っています。

魚屋なら魚を売る。メーカーならProductを売る。コンサルティング会社なら知識や支援を提供する。事業として考える以上、何を提供し、その対価としていくら受け取るのかを明確にしなければなりません。

ただ、顧客が買っているものまで、本当に企業はわかっているでしょうか。

同じProductを買ったとしても、顧客が手に入れようとしているものは、そのProductそのものとは限りません。

この差分を見ていくと、「提供価値」という言葉が少し違って見えてきます。


Priceは企業が提示できる。でもValueはその先にある

投資家のWarren Buffettが、師であるBenjamin Grahamから学んだ言葉として繰り返し紹介している有名な表現があります。

“Price is what you pay; value is what you get.”

Priceは支払うもの、Valueは受け取るもの。

投資の文脈から出た言葉ですが、マーケティングへ引き寄せて考えても示唆があります。

企業はPriceを提示できます。Productも用意できる。何をBenefitとして提供したいのかを考え、競合との違いを設計することもできます。

一方で、顧客がその交換を通じて何をValueとして受け取るかは、企業側で完全には決められません。

たとえば魚の刺身にお金を払った顧客が、実際には「夕食の準備が楽になること」や「家族が美味しそうに食べる時間」を手に入れていることがあります。

企業が売っているのは刺身です。

でも、顧客の生活の中で生まれているValueは、それより少し先にある。

ここに、企業側の認識と顧客側の実感の差分があります。

そして、その差分にはインサイトがあります。

「提供価値」は、企業が置く仮説として考える

提供価値を考えるとき、私は一つの補助線として、

提供価値 ≒ 顧客にとっての便益 + 独自性

と置くことがあります。

もちろん、Valueを本当にこの式だけで説明できるわけではありません。

ただ、何が顧客にとって良いのかという便益と、似た選択肢がある中で、なぜ自分たちから選ぶ意味があるのかを分けて考えると、企業側の議論は整理しやすくなります。

時間を短縮できる。手間を減らせる。安心して使える。こうした便益があります。

そこに、目利き、技術、長年の関係、店頭での仕事、購入後のサポートなど、その企業だからこそ生まれやすい独自性が重なる。

企業は、ここまではかなり設計できます。

しかし、「この便益と独自性を組み合わせたものが、顧客にとってのValueです」と決めたところで、まだ仮説です。

そのProductやServiceが顧客の生活へ入り、実際に何が起きたのかを見る必要があります。

Three Plus Sixで「価値は、つくっただけでは価値にならない」と考えてきたのは、このためです。顧客に届き、使われ、意味を持ったときに初めて価値になる。

差分だけでなく、「重なり」にもインサイトがある

企業が考えた提供価値と、顧客が実際に受け取ったValueがずれているとき、その差分には重要な示唆があります。

企業は「効率」を売っているつもりなのに、顧客は「安心」を買っているかもしれない。

企業は「高い技術力」を独自性だと考えていても、長く付き合っている顧客にとっては「困ったときに相談できる人がいること」の方が、選び続ける理由になっていることもあります。

こうした差分を観察すると、自分たちがまだ理解していなかった顧客価値が見えてきます。

ただ、最近もう一つ面白いと思っているのが、差分ではなく重なりです。

企業が「お客様を笑顔にしたい」と本気で商い、その考え方がProductの選び方や接客、店頭での仕事に現れている。

そして、そのProductを手にした顧客の食卓に本当に笑顔が生まれている。

企業が信じていることと、顧客が受け取ったValueがExperienceの中で重なっています。

この一致には、差分とは別のインサイトがあります。

企業が自分たちの存在理由として掲げている言葉が、顧客の現実の中でも本当に起きているということだからです。

“Marketing is about values” を、ここから読み直す

Steve Jobsの有名な言葉、

“To me, marketing is about values.”

について、私は以前から何度か考えてきました。

Jobsが1997年のApple社内スピーチで語っていた「values」は、顧客が受け取る便益としてのValueではありません。

Appleとは何者なのか。何を信じているのか。今でいうMVVのValuesに近い、企業の価値観です。

私がLAのTBWA\Chiat\Dayにいた頃、AppleチームとBrandについて意見交換をした経験からも、この言葉を単なる「価値訴求」として受け取ってはいません。

企業が何を信じているかは、広告の言葉だけではなく、日々の行動に現れます。

どんなProductをつくるのか。何を削り、何を残すのか。どんなPriceをつけ、顧客にどう接するのか。

Valuesは、企業の行動様式に近いものです。

では、そのValuesと、顧客にとってのValueはどこでつながるのでしょうか。

おそらくExperienceです。

企業の価値観が具体的な行動となり、その行動を顧客がExperienceし、自分にとってのValueを受け取る。

企業のValuesと顧客のValueは同じものではありません。でも、商いがうまく機能しているとき、この二つはどこかで重なっているように見えます。

Valuesが、便益の届け方を変える

同じ便益を提供する企業はいくつもあります。

美味しい魚を売る店も、便利なソフトウェアをつくる企業も、業務を支援する会社も一社だけではありません。

そこで独自性が必要になります。

以前の記事では、競合との「違い」から、「このBrandらしい」という独自性、さらに「ここから選びたい」というOnlynessまで考えました。

企業のValuesは、その独自性の源泉の一つになり得ます。

顧客を笑顔にしたいと本当に考えている会社なら、仕入れにも、調理にも、接客にも、その考え方が出るでしょう。

顧客の時間を大切にすると信じている企業なら、Productの使いやすさだけではなく、問い合わせ方法や契約手続きにもその思想が現れるはずです。

Valuesは、便益そのものではありません。

しかし、その便益をどんな方法で、どんな態度で届けるのかを変えます。

そして、その違いを顧客がExperienceしたときに、企業側では言葉にしていなかった独自性が見えてくることがあります。

企業が売るものと、顧客が買うものの間を見る

企業が売っているものと、顧客が買っているものが完全に一致する必要はないと思います。

むしろ、少し違っている方が自然です。

Productは企業側の具体です。

Valueは、それが顧客の現実に入ったあとに生まれるものだからです。

重要なのは、その差分を放置しないことです。

顧客が何をValueとして受け取っているのかを観察すれば、Productの見方が変わるかもしれない。Pricingの理由が見えることもあります。Promotionで伝えるべきことも変わるでしょう。

そして企業のValuesと顧客のValueが重なる場所が見つかれば、それはBrandにとってかなり重要な意味を持ちます。

企業が信じていることが、顧客の生活の中で本当に価値になっているからです。

Brandこそ企業だけではつくれない、と以前書きました。

その理由も、ここにあります。

企業はValuesを持ち、Productや行動をつくれます。

顧客はそれをExperienceし、自分にとってのValueやMeaningを見つけます。

この関係が時間の中で積み重なったところにBrandが育っていく。

「何を売っているか」から、少しだけ先を見る

事業を運営する以上、自分たちが何を売っているのかを明確にすることは必要です。

ただ、それだけで顧客価値を理解したことにはなりません。

自分たちが提供しているProductやServiceを通じて、顧客の生活や仕事に何が起きているのか。

そこには、企業が想定していた便益があるかもしれません。

思いもしなかったValueが生まれていることもある。

そして、ときには自分たちが商いの中で大切にしてきたValuesと、顧客が受け取ったValueがきれいに重なっていることもあります。

次に「私たちは何を売っているのか」を議論するときは、Productの説明だけで終わらず、その少し先まで観察してみてください。

顧客は、私たちから何を買い、実際にはどんなValueを手に入れているのでしょうか。


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森浩昭|成長の現場に戦略を|Three Plus Six LLC| よろしければサポートをよろしくお願いいたします! みなさまのお役に立てるようにこれからも活動を続けます! 今後ともどうぞご贔屓に!