見出し画像

第1回取引前に見るデータの読み方:日経VI・先物との差・金利 ─ 毎朝5分で見る数字を決める【株・投信・先物・為替】

「何を買えばいいのか、儲かる銘柄教えて」と尋ねる人が多いと思いますが、「どのデータを見て、いつ買えばいいのかをどう判断するの?」とたずねる人は少ない印象があります。荒削りに言えば、上場銘柄でしっかり売り上げが出ているなら何を買っても、買う時期と数量を間違えければ、大損するようなことはほぼありません。

それなら何をどう見ればいいのでしょうか?

金曜日の日経平均は273円上がって引けました。ところがナイトセッションで、日経平均先物は615円下げて終了。現物より570円も低いところにいます。

同じ「日経平均」という名前がついているのに、方向すら逆です。この一つの食い違いを解けるようになることが、市場データを読むということの入口の1つの例です。

このシリーズでは、株式・ETF/投資信託・株価指数先物・外国為替の4つに分けて、それぞれの取引の前に何を見ればいいのかを扱います。第1回は、どの商品を扱うにしても共通して見ておきたい数字の話です。



この日の数字

まず、材料を並べます。

これは市場の健康診断表です。どれだけ早く走れるか、どれだけ持久力があるのか、長生きできるのか、健康診断で数字が悪ければ、それほどパフォーマンスを出せないのと一緒です。

数字を見るとき、最初にやってほしいことがあります。終値の欄ではなく、前日比%の欄を先に見ることです。

理由は単純で、終値だけでは「それが高いのか安いのか」が分からないからです。日経VIが23.25と言われても、これが落ち着いた水準なのか緊張しているのかは、23.25という数字自体からは出てきません。ところが前日比が−17.05%だと分かれば、少なくとも「昨日より大きく落ち着いた」ことは確実に言えます。

ついでに、前日比があれば前日の値は引き算で復元できます。日経VIなら23.25+4.73で、前日は27.98です。20を超えると警戒圏と言われる指標ですから、前日はかなり神経質だったところから、一日で警戒圏の入口まで戻ってきたことになります。

① 日経VI ─ 水準と方向は、別の情報です

日経VI(ボラティリティインデックス)は、市場参加者がこの先の値動きの荒さをどう見積もっているかを数値化したものです。おおまかに、20を超えると警戒、30を超えると相当に緊張している、という目安で見られています。

本来は17〜20前後くらいがちょうどいいと言われていますが、この日の23.25という値は、警戒圏に片足を残した水準です。ここだけ見れば「まだ落ち着いてはいない」と読めます。

しかし、前日比は−17.05%です。一日で17%も下がるのは、指数としてはかなり大きな動きです。恐怖が急速に抜けた、と言っていい変化です。

水準は「まだ警戒圏」、方向は「急速に落ち着いた」。
この二つは矛盾しません。両方が同時に真実です。

多くの人がここでつまずきます。「VIが高いから危ない」と言う人と、「VIが下がっているから安心」と言う人が、同じ日について正反対のことを言えてしまう。どちらも部分的には正しく、どちらも半分しか見ていません。

実務的には、方向の方が判断に効きます。恐怖が抜けていく途中の相場は、水準がまだ高くても買い手が戻りやすい傾向があります。逆に、低い水準から上を向き始めたVIの方が、注意する価値があることが多いのです。

この「水準と方向を分ける」という読み方は、VIに限りません。金利でも、為替でも、出来高でも同じです。このシリーズを通じて、何度も出てきます。

② 先物と現物の差 ─ 570円の正体

冒頭の食い違いに戻ります。

日経平均が66,405.56、日経平均先物が65,835。差は570.56円です。しかも現物は上がって、先物は下げています。

ここで先に確認すべきなのは、「なぜ差がついたか」ではありません。「その二つの数字は、いつの時点のものか」です。

日経平均の終値は、東京市場が閉まる午後3時半(大引け)の値です。一方、日経平均先物は夜間も取引されています。つまり、東京が閉まったあとに世界で起きたことが、先物の値には入っていて、現物の終値には入っていません。

同じ日の数字として並んでいても、測っている時刻が違うのです。

では、東京が閉まったあとに何があったのか。この日のデータには答えらしきものがあります。SOXが−3.47%です。半導体関連銘柄を集めた米国の指数で、この下げ幅はかなり大きい部類です。日経平均には半導体関連の値がさ株が多く含まれていますから、この下げが東京の翌日に効いてくると考える参加者がいても不思議はありません。

先物の615円安は、そういう「東京が寝ている間の世界」を映した数字だと読めます。

ここから何が言えるか

翌朝、寄り付き前にあなたが見るべき数字は、前日の日経平均の終値ではありません。その時点の先物の値です。現物の終値は、もう古い情報になっています。

もう一つ。先物が現物より安いことは「明日下がる」という予告ではありません。市場参加者の一部がそう見積もっている、というだけです。翌日、現物が先物の水準まで下げて追いつくこともあれば、先物が買い戻されて差が埋まることもあります。どちらになるかは、この数字からは分かりません。

分かるのは、現物と先物の間に570円の意見の相違があるという事実だけです。それでも十分に価値があります。相違が大きい日は、翌日の寄り付きが荒れやすいからです。

先物そのものの詳しい読み方は、第4回で扱います。

③ 金利 ─ すべての値段の裏側にある数字

日本国債10年物の利回りは2.93%付近、前日比+0.039(+1.35%)です。米国債10年物の利回りが4.72%、前日比+0.048(1.03%)です。

一見すると小さな動きですが、金利は株式市場のあらゆる価格の裏側で働いています。乱暴に言えば、金利が上がると、将来の利益の価値が今の時点では割り引かれます。遠い将来の利益に期待して買われている企業ほど、この割引の影響を強く受けます。

だから金利が上がった日は、成長株や高い期待を織り込んだ銘柄が売られやすくなります。

この日のデータは、その通りに動いています。金利が上がり、ナスダック100が−0.70%、半導体のSOXは−3.47%。一方でダウ30は−0.02%とほぼ変わっていません。同じ日の米国市場でも、指数によって受けたダメージがまったく違うわけです。

「米国株が下げた」で片付けてしまうと、この差は見えません。どの指数がどれだけ下げたかを並べて初めて、金利が効いたのだという読みが立ちます。

参考として見ておきたい数字

三つに絞ると言いましたが、慣れてきたら足したい数字がいくつかあります。この日のデータには、その好例が二つ入っています。

TOPIXとの比較

日経平均が+0.41%に対して、TOPIXは+0.72%です。TOPIXの方が強い。

日経平均は225銘柄の株価を平均する仕組みで、株価の高い銘柄(値がさ株)の影響を強く受けます。TOPIXはプライム市場のほぼ全銘柄を時価総額で加重します。つまり、TOPIXの方が「広く浅く」市場全体を映しています。

TOPIXの方が強かったということは、日経平均に強く効く一部の銘柄が相対的に重かった可能性を示します。SOXの下落を考え合わせれば、半導体関連が足を引っ張ったという筋書きが立ちます。

指数を二つ並べるだけで、市場の中身が見えてくる。これが第2回の入口になります。

VIXとSKEW

VIXは14.43で、前日比−0.55%。米国市場の恐怖指数と呼ばれるもので、この水準はかなり落ち着いた部類です。

ところがSKEWは149.77、前日比+3.97%と上がっています。

SKEWは、大きな下落に備えたヘッジのオプションの売買需要を示す指標です。VIXが「普段どれくらい揺れそうか」なら、SKEWは「まれにしか起きない急落への備えがどれだけ買われているか」を映します。これを「テールリスク」と言います。

VIXは低く、SKEWは高い。
穏やかな水面の下で、一部の参加者が保険を買い増している状態です。これがすぐに何かを意味するわけではありませんが、「落ち着いている」の一言では済まない日だということは分かります。

こういう組み合わせの違和感に気づけるようになると、市場の見え方が変わります。

ドル指数とドル円

ドル円は160.085で、前日比+0.01。ほとんど動いていません。

ところがドル指数(DXY)は+0.57%と、はっきり上がっています。ドル指数は主要通貨に対するドルの総合的な強さを示すものです。ドルが全体的に強くなったのに、ドル円がほぼ動かなかった。

これは、円もドルと同じくらい強かったことを意味します。ユーロ円がわずかに下げているのも、この読みと整合します。

つまりこの日は、「160円台の円安が進んだ日」ではありません。むしろ円は主要通貨の中では強い部類でした。ドル円という一本の数字だけを見ていると、この構図は見えません。ですから、経済新聞などでドル円で「円安だ!円安だ!」と言っても、グローバルに全体でその日だけで見ると、それでも円の評価も相対的には強い評価で円だけが安いとも言えなかったりします。

外国為替は相対評価の世界です。ドルが安くなれば、円が高くなる。その逆の然り。日本の要因だけで物事が決まるわけではありません。ユーロも重ね合わせるとどれが安いのかなど、複雑に見えますが客観的に見えてきます。

為替は第5回で正面から扱います。

4つの層で市場を見る

ここまでの数字は、すべて「今の価格がどうなっているか」の話でした。市場を見るとき、これは一番手前の層にすぎません。

市場は、おおよそ4つの層でできています。

第1層 価格構造
今、価格はどう動いているか。日経平均とTOPIX、先物と現物の差、日経VI。この記事で扱ってきた大半がここです。最も手近で、毎日更新される情報です。

第2層 経済の実態
企業の利益、雇用、物価。景気が本当のところどうなっているか。決算発表や経済指標の公表日に更新されます。

第3層 政策
日銀やFRBの金利政策、税制や規制の変更。この日の米10年金利4.72%も、突き詰めればここに行き着きます。

第4層 地政学とサプライチェーン
戦争、紛争、貿易摩擦、原油の供給不安。予測は難しく、いつ効いてくるかも分かりません。

私がまとめている4レイヤー分析は毎日コンピュータで自動でデータを収集して分析していますが、この4つを毎日全部追う必要はありません。むしろ、それをやろうとすると普通は情報に押し潰されます。

現実的な頻度としては、第1層は毎日、第2層は週に一度、第3層と第4層は月に一度見直す、くらいで十分に足ります。下の層ほどゆっくり動くからです。

数字を判断に変える

データを読めるようになっただけでは、投資は良くなりません。読んだものを判断に落とす手順が要ります。この手順は第2回以降の各商品でも繰り返し使うので、ここで型として渡しておきます。

三つの物語(シナリオ)を同時に持つ

「上がる」か「下がる」かの二択で考えると、外れたときに身動きが取れなくなります。そうではなく、上・横ばい・下の三つを同時に想定します。

この日のデータで言えば、こういう形です。

先物の570円安が翌日の現物に効いて、日経平均が下げて始まる。これが一つ。日経VIが急低下したことに表れている落ち着きが優って、先物が買い戻され差が埋まる。これが二つ目。SOXの下げは半導体だけの話として消化され、指数全体は方向感なく揉み合う。これが三つ目です。

大事なのは、どれが当たるかを言い当てることではありません。
三つそれぞれで、自分の資産がどうなるかを先に想像しておくことです。この作業を済ませておけば、実際にどれが来ても慌てずに済みます。

このシリーズでは、予測を当てにいく読み方は扱いません。
当たる予測を作ることより、どれが来ても対応できる状態を作ることの方が、長い目で見て資産を守るからです。

買う前に、売る場所を決める

含み損を抱えたまま動けなくなる。投資でよくある失敗ですが、原因のほとんどは事前に決済する場所を決めていないことです。

買ってから「どこで損切りしようか」と考え始めると、決められません。
人は損を確定させることを避けたがるようにできているからです。

だから、買う前に決めます。この価格を割ったら降りる、と数字で決めて、実際に割ったら考え直さない。この単純な手順が、判断を感情から切り離します。

商品ごとに、どこに線を引くべきかは違います。個別株なら銘柄固有の水準、積立なら価格ではなく配分の見直し条件、先物なら価格ではなく損失額。それぞれ第2回以降で扱います。

毎朝5分でやること

まとめます。

朝、市場が開く前に見るのは、日経VI・先物と現物の差・金利の三つです。慣れてきたら、TOPIXとの比較、VIXとSKEW、ドル指数を足していきます。

見るときは、終値ではなく前日比から入ります。水準と方向を分けて読みます。

そして、数字の中に食い違いを探します。完璧に理解する必要はありません。「あれ?」と思う場所を見つけられれば十分です。

この日で言えば、日経平均は上がったのに先物は下げている。
米国株式の場合なら、VIXは低いのにSKEWは上がっている。ドルは全面高なのにドル円は動いていない。三つとも、そこに何かがあります。

その「あれ?」を放置せずに追いかけていくと、市場の構造が少しずつ見えてきます。なんとなく見ていた数字やニュースから自分ごととして読めるようになってきます。ここでのno+e記事ではそういうことがわかるようになることを意識して毎日記事を公開しています。

ですから、[5分のチェック]+[Market Decision OSの記事]で自分で判断できるようになれば、煽り記事やニュースに惑わされずに判断ができるようになると思って書いているのです。


次回は、個別の株式を買う前に見る数字を扱います。業種別の騰落率と売買代金、そして信用残。指数が下げた日に自分の持ち株が上がっていた、あるいはその逆が起きたとき、何が起きているのかを読み解けるようになる回です。

#日経平均 #投資初心者 #日経VI #日経平均先物 #米国金利 #資産運用 #株式投資 #相場観 #市場データの読み方 #取引前に見る数字の読み方

ここから先は

0字

メンバーシップ ¥ 500 /月

◾️投資をテクノロジーで読み解き、AIで展開する◾️ このメンバーシップではAI活用型の投資、資産形…

Market Shot (エントリー)

¥500 / 月
人数制限あり

この記事は noteマネー にピックアップされました

noteマネーのバナー

気持ちを形にしていただき、ありがとうございます! これからも新たな気づきにつながる記事を書いていくモチベーションにしていきます。