あの弱かったチームが、市大会へ行けた理由を今になって考えている
今日は、昔お世話になった少年野球の監督のお通夜へ行ってきた。私が少年野球のコーチをしていた頃、一緒に4年生のチームを見ていた監督だ。帰り道で当時のことを思い出していたら、最後に市大会へ出場した、あのチームのことが頭に浮かんだ。
あの頃のチームは、お世辞にも強いとは言えなかった。最初から市大会を狙えるような選手が揃っていたわけでもない。試合をすれば負けることのほうが多く、守備も打撃もまだまだだった。それでも最後には、みんなで市大会へ行った。
その理由を、今日は少し考えていた。
最初から強いチームだったわけではない
少年野球では、同じ学年でも身体の大きさも、運動能力も、経験もかなり違う。すぐに上手くなる子もいれば、ボールを怖がる子もいる。練習ではできていたことが、試合になると突然できなくなる子もいた。
私たちが見ていた4年生チームにも、突出した選手が何人もいたわけではない。一人ひとりにできることがあり、同じくらいできないこともあった。それを監督とコーチたちで少しずつ埋めていった。
弱いチームを強くする人は、最初から強い選手を探しているわけではなかった。
当時の私は、監督も私たちと同じように、子どもたちの野球を上手くすることを考えているのだと思っていた。捕り方を教え、投げ方を教え、打ち方を教える。その積み重ねでチームを強くしているのだと。
でも、今は少し違って見える。
マウンドで泣いていたピッチャー
市大会へ進む前の区大会で、大活躍したピッチャーがいた。その子の力もあって、弱かったチームは勝ち進み、市大会への出場を決めた。
ところが市大会では、思うようにいかなかった。
それまで投げられていたボールがストライクに入らない。制球が定まらず、自分でもどうしていいのか分からなくなっていたのだと思う。区大会ではチームを引っ張ったピッチャーが、自分の不甲斐なさにマウンドで涙を流していた。
監督はマウンドへ行き、その子に言った。
「マウンドで涙を流すな」
そして、ピッチャーの交代を告げた。
当時の私は、その言葉をそれほど深く考えていなかった。試合中なのだから仕方がない。交代するしかない。そんな程度に受け止めていたと思う。
けれど、その後の彼を見ていると、あの言葉の意味が違って見えてくる。
泣くな、ではなかったのだと思う
そのピッチャーは、その後も野球を続けた。
中学野球まで、私は彼がマウンドで涙を流す姿を見なかった。打たれることもあれば、制球を乱すこともある。それでも、ピンチになるほど強気で打者に向かっていた。
あの日の一言だけで彼が変わったのかは分からない。
ただ、今になって思えば、監督は泣くことそのものを否定していたのではない気がする。
マウンドに立っている間は、自分の感情に飲み込まれず、次の一球に向かえ。監督が言いたかったのは、そういうことだったのではないだろうか。
泣かない強さではなく、苦しいときにもう一度前を向く強さ。
市大会へ行けた理由
あのチームが市大会へ行けたのは、突然上手くなったからではない。
昨日まで捕れなかったボールが捕れるようになる。バットに当たらなかった子が打てるようになる。声を出せなかった子が仲間に声をかけるようになる。失敗すると下を向いていた子が、次のプレーを考えるようになる。
そんな小さな変化が積み重なって、気がつけばチームになっていた。
強くなってからチームになったのではなく、チームになったから少しずつ強くなったのだと思う。
監督は、勝ち方だけを教えていたのではなかった。
思いどおりにならないときに、どう立っているか。失敗したあとに、どう次へ向かうか。野球を通して、そんなことまで子どもたちに教えていたのだと思う。
技術では負けていても、苦しい場面から逃げない子どもたちになっていった。それが、あのチームが市大会まで行けた一番の理由だったのかもしれない。
人から教わったものは、あとになって残る
私もその後、仕事で何度も思いどおりにならない場面を経験してきた。準備をしてもうまくいかないこともあれば、自分ではどうにもできないこともある。
そんな経験を重ねたからこそ、あの監督が子どもたちに何を伝えようとしていたのか、少しだけ分かるようになったのかもしれない。
今日のお通夜で監督を見送りながら、あのマウンドのことを思い出した。
試合のスコアは、もうほとんど覚えていない。誰が何本ヒットを打ったのかも忘れてしまった。それでも、市大会のマウンドで涙を流していた少年と、監督がかけた言葉は覚えている。
そして、その少年が中学生になっても、どんなピンチにも強気で投げていたことも覚えている。
人から教わった大切なことは、教わった瞬間には分からないことがある。
あの弱かったチームが、市大会へ行けた理由。
監督は、野球を教えていただけではなかったのだと思う。
今日になって、やっと少し分かった気がする。
監督、本当にありがとうございました。
