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効率よく片づけるほど、組織は同じ問題を繰り返す

社内規程には、例外を認める条項があります。やむを得ない場合は部門長の承認で足りるという類のものです。

例外が積み重なって原則に変わっていたと後から気づいても、なぜそうなったのかは、たいていはっきりしません。誰か一人の判断ミスが見つかるわけでもなく、記録が消えていたわけでもない。原因が特定されないまま、再発防止策だけが決まることのほうが多いと思います。

チャレンジャー号は、その過程が外部の調査で細かく残された、数少ない例です。

記録も審査も制約もあった

1986年1月28日、スペースシャトル・チャレンジャー号は打上げの73秒後に空中で分解し、乗組員7名が亡くなりました。直接の原因は、固体ロケットブースターの接合部を密封するO(オー)リングが、低温で弾力を失い、燃焼ガスが漏れたことでした。

組織社会学者のダイアン・ヴォーンは、この事故を分析して逸脱の常態化(normalization of deviance)という概念を示しました。

設計上、Oリングは焼けないはずのものでした。ところが1981年11月の2回目の飛行後の点検で、飛行中に浸食していたことが分かります。以後も浸食は繰り返し観察されました。それでも燃え尽きる前に止まっていたため、実験室での試験値と照らして、まだ余裕があると整理されます。

審査の文書には「望ましくないが許容できる」と書かれていました。1979年に書かれたこの記載は、1985年2月の審査でも同じ文言で繰り返されています。同年8月の本部向けの説明では、現行の設計のまま飛び続けて安全とされました。

望ましくないという認識はありましたが、それが5年以上、同じ言葉のまま更新されなかったといいうことになります。

さらに、大統領委員会(ロジャース委員会)の報告書によれば、1985年4月の飛行のあと、固体ロケットブースターの接合部には打上げ制約が課されていました。制約を課したのはマーシャル宇宙飛行センターのブースター担当プロジェクトマネージャーで、同じ人物が、その後の飛行ごとにこれを免除しています。チャレンジャーの飛行までに、6回連続で免除していました。

問題は追跡されていましたし、飛行前の審査もありましたし、そのうえで制約という形で、止める仕組みまで用意されていたのに、免除されていたということです。

それでも止まらなかった理由

報告書が記録しているのは以下の2点です。

1つは、打上げ制約の存在も、その理由も、6回の免除も、上位の階層には知られていなかった。制約を課し、それを自ら免除した人は知っていましたが、最終的な打上げ可否を判断する立場の人たちは知らなかった。

もう1つ、問題を管理していた記録に、この問題は解決済みだという誤った記載が2件あった

免除の回数も残っていましたが、伝わらなかったのは、その回数の意味です。

誰も規則を破らないまま、全体が設計から離れていく

同じ構造を、別の事故から理論にした研究があります。1994年、イラク北部で米空軍のF-15が味方のブラックホーク2機を撃墜し、26名が亡くなりました。この事故を組織行動論の博士号を持つ元陸軍中佐スコット・スヌークが分析し、実務的漂流(practical drift)という概念を出しています。

現場で効率のよいやり方は、繰り返されるうちに正当性を得ていく。

全体を見て設計された手順は、その場では使いにくいことがあり、誰も苦情を言わなければ、実際の行動のほうが少しずつ勝っていく。
局所的に合理的な適応が積み重なって、組織全体としては設計から漂流していく、という説明です。

スヌークが指摘するのは、手順を厳しくするほど漂流の幅が大きくなりうることでした。現場の事情との落差が広がるからです。

設計された手順から離れていくのですから、形式的には逸脱です。ただ、その逸脱は現場で咎められません。むしろ効率がよく、うまく回っているように見える。誰も申し立てないので、いつのまにか正当なやり方として定着していきます。

そして、この記事が扱う例外承認の場合は、逸脱ですらありません。
例外条項は規程が自分で用意した手続きです。
一件ずつ見れば、規則のとおりに運用されています。
だから、どこを探しても違反は出てきません。
おかしくなるのは、それを並べたときの全体のほうです。

なぜ現場は、その場で片づけるのか

では、なぜ現場は毎回その場の処理を選ぶのか。
ここでは医療から出てきた研究を紹介したいと思います。

エイミー・エドモンドソンとアニタ・タッカーは、9つの病院で26人の看護師を239時間観察しました。

看護師は平均して1時間に1件、運用上の不具合に遭遇していました
薬が届かない、必要な物品がない、情報が伝わっていない。

そしてその93パーセントを、その場しのぎの処理で片づけていました
その場しのぎの処理を、二人は一次的問題解決と呼んでいます。

目の前の症状だけを消して、原因には手を触れない。
他の階から物品を借りてくる、自分で走って取りに行く、別のやり方で代替する。

仕事は進み、患者も待たされません。
問題は、その処理が組織に何も残さないことです。

誰も知らないまま解決したので、原因は明日もそこにあります。
翌日また同じ不具合が起き、また誰かが走ります。
研究では、この対応に1回7.5時間の勤務あたり平均33分が費やされていました。

現場が怠けているわけではなく、むしろ逆で、有能な人ほど、その場で片づけてしまいます。

効率よく片づける力があることが、組織が学習しない原因になっているという構図です。

コンプライアンスの現場で、同じ形が出る場所

コンプライアンスの現場で近い形が出るのは、承認の例外です。

一回目は丁寧に扱われます。理由が書かれ、期限が付き、条件が添えられる。二回目は一回目を参照して短くなる。三回目は「前回と同様」で通る。五回目には、そもそも例外として扱われない。

各回に承認者がいて、各回に理由があります。どの一件を取っても問題は見つかりません。

おかしいのは各回でなく、並べたときの傾向です。

各回の承認者がやっているのは、一次的問題解決です。
目の前の案件は通り、事業は止まりません。

ただ、なぜその規程では回らないのかは、どこにも残りません。だから翌月も同じ申請が来ます。

そして多くの会社で、承認の記録は残っています。
稟議システムの中に、メールの承認の中に、議事録の中に。

残っているのに、通算して見ている人がいません

直すのは記録ではなく、二次的な解決を誰の仕事にするか

ここまでを踏まえると、処方は「例外の台帳を作る」で終わりません。
台帳は要りますが、それは記録の話であって、繰り返しが止まる話とは別です。

止めるために要るのは、原因のほうに手を触れる仕事を、誰かの持ち場にすることです。
エドモンドソンとタッカーは、これを二次的問題解決と呼びました。

目の前の症状でなく、なぜそれが起きるのかを直す側です。
現場に「ついでにやっておいて」と頼んでも動きません。
理由は以下のとおりです。

時間がない。
例外承認の処理そのものが相当な仕事量になっていて、その規程がなぜ回らないのかを調べる時間がどこにも計上されていません。
二次的解決は、余った時間でやる仕事にすると必ず後回しになります。

権限も責任もない。
承認する人には、承認するかしないかの権限しかありません。規程を変える権限も責任も別の部署にあります。そして規程改定は重い。
所管部署の調整、審議、教育資料の作り直し。
例外を1回認めるほうが、短期的にみると、どう考えてもお手軽です。

情報が届かない。
各承認者は自分の1件しか見ていません。
同じ事由が四半期に何回出ているかは、集計しないと誰にも見えません。
ここでようやく台帳が効いてきます。台帳は判断材料であって、判断そのものではありません。

だから決めることは三つです。

  1. 同じ事由が何回を超えたら、例外でなく規程の欠陥とみなすのか

  2. その判定が出たとき、誰が調べて誰が直すのか

  3. その人の勤務時間のどこに、その作業が入っているのか。

三つ目がいちばん抜けます。担当を決めても、時間を確保しなければ、その人もまた一次的解決に戻っていきます。

成果の測り方を、件数から外す

例外件数の減少を成果にすると、現場は例外を出さずに黙って処理する方向へ動きます。

表から消えるだけで、実務は漂流を続けます。
測るなら、例外の多い規程を年に何本直せたかにするべきです

同じ事由が四半期に何回出て、どの部署から出て、1件あたり承認に何日かかったか。

この三つが並んだ紙は、改定の必要性の説明としてそのまま使えます。
担当者の感覚でなく、自社の実績で書けるようになるからです。

間違った「自工程完結主義」が、学習しない組織を作る

ここまでの話でいちばん重いのは、記録があっても止まらなかった、という事実のほうです。

台帳を整備した時点で、多くの組織は仕事を終えたつもりになります。
チャレンジャーの記録は、その先で何が起きるかを示しています。
制約は課されていて、免除も記録されていて、それでも6回続きました。

例外が原則に入れ替わるのは、誰かが手を抜いたからではありません。
その場で片づける力のある人が、片づけ続けたからです。
組織にその処理を吸い上げる回路がなければ、有能さはそのまま漂流の速度になります。

だから私は、これを記録の問題としてではなく、仕事の設計の問題として扱うべきだと思っています。誰が原因を直す持ち場を持っていて、その人の一週間のどこにその時間があるのか。そこが空白なら、台帳を何冊作っても同じことが起きます。

そして日本の職場では、この一次的問題解決が現場力という言葉で肯定されます。自工程完結、つまり自分の工程の不具合を後工程に流さないという考え方も、もとは品質をつくり込むための規範でした。
それが「自分のところで吸収して外に出さない」と読み替えられると、不具合の情報は後工程どころか組織のどこにも出なくなります。

間違った自工程完結主義が強い職場ほど、この景色は繰り返されます。

強い現場が、学習しない組織をつくるという言い方が、いちばん近いと思っています。

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出典

  • Diane Vaughan, The Challenger Launch Decision: Risky Technology, Culture, and Deviance at NASA, University of Chicago Press, 1996.

  • Scott A. Snook, Friendly Fire: The Accidental Shootdown of U.S. Black Hawks over Northern Iraq, Princeton University Press, 2000。実務的漂流(practical drift)の概念。 https://press.princeton.edu/books/paperback/9780691095189/friendly-fire

  • Anita L. Tucker & Amy C. Edmondson, "Why Hospitals Don't Learn from Failures: Organizational and Psychological Dynamics That Inhibit System Change", California Management Review, Vol.45 No.2, 2003。9病院・看護師26人・239時間の観察。1時間に1件の運用上の不具合、その93%が一次的問題解決で処理されること、7.5時間勤務あたり平均33分がその対応に費やされること。

  • Report of the Presidential Commission on the Space Shuttle Challenger Accident(ロジャース委員会報告書, 1986)第6章。Oリング浸食の初確認と審査文書の記載、打上げ制約の設定と繰り返しの免除、上位階層への不伝達、問題評価記録の誤った記載について。 https://www.nasa.gov/history/rogersrep/v1ch6.htm

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水戸 貴之|Takayuki Mito よろしければ応援お願いします! いただいたチップはクリエイターとしての活動費に使わせていただきます!