小説『大丈夫の王様』| 朗読可[フリー朗読台本]
利用規約
本作品は朗読可能です。なお、利用規約は予告なく変更される場合があります。ご利用の際は、事前に下記リンク先の利用規約をご確認ください。利用は自己責任でお願いいたします。
※この作品『大丈夫の王様』では、登場人物の一人称→「僕」を、「私」「俺」「あたし」への変更。「彼」を、「あの人」「あいつ」への変更はしてもOKです。それ以外の文章の変更は全て禁止とします。
📕『大丈夫の王様』
「大丈夫って言っておけば、大体のことは片付くんだよ」
彼は、そう言って笑った。笑っているように見えただけかもしれない。口角だけが動いていて、目はずっと死んでいた。
僕たちは彼のことを「大丈夫の王様」と呼んでいた。皮肉であり、称賛であり、そのどちらでもない。ただ彼にしか似合わない、孤独な肩書きだった。彼はいつだって「大丈夫」と言って、まるで全てを統べるように、痛みを飲み込んでしまう人間だった。
王様は、何もかも、上から見ていた。誰かの悩みも、社会の問題も、時代の波も、全てを俯瞰で切り捨てて「それも人生」「まぁ、大丈夫」と言って済ませる。
彼の「大丈夫」には、何の根拠もない。だが、確かな力があった。それを聞いた者は黙り、泣くのをやめる。怒りを飲み込む。まるで、それが「最適解」のように思えてくるから不思議だ。だけど僕は知っていた。
彼自身がいちばん「大丈夫じゃなかった」ことを。
◆
王様は自尊心を傷つけるのが得意だった。しかも、それを“生きる糧”にしていた。誰かに傷つけられる前に、自分で殴る。誰かに軽んじられる前に、自分をバカにする。
「俺なんか、どうせ俗物だし」
「高尚ぶってる連中より、ずっとマシだと思わないか」
「下にいれば、落ちなくて済む」
そんな言葉を、彼は慣れた調子で吐いた。自嘲に酔っているわけでもない。ただ、身を守るための道具として、皮肉と冷笑を使っていた。彼の言葉はいつもよく研がれていた。鋭くて、冷たくて、どこか魅力的だった。だけど、その刃の先には必ず“彼自身”がいた。
自分を殺してでも、笑える道を選ぶ。
それが、彼の“王道”だった。
◆
彼がはじめて「大丈夫」と言わなかった夜を、僕は忘れない。雨が降っていた。コンビニの前で缶チューハイを開けそこねて、手元が狂って、缶がアスファルトを転がった。
それだけの夜だった。
「……俺、なんのためにこんなに “うまくやってきた”んだろうな」
その時の声には、皮肉も飾りもなかった。空洞だけがあった。何年も磨き上げた鎧が、ただの薄っぺらいアルミホイルだったと気づいたような目をしていた。
「踏みにじられる前に踏みにじる、下から見れば、
高いところの連中が全部滑稽に見える……
でもそれって、負け惜しみだよな。たぶん」
それを聞いて、僕は何も言えなかった。“王様”の王冠が、音もなく転がっていく音が聞こえた気がした。
◆
三日後、彼のSNSはすべて消えていた。
投稿もアカウントも、跡形もなく。
「燃え尽きたんだろ」
「病んだか?失恋か?」
「最初から虚勢張ってただけじゃん」
誰もが無責任な言葉を投げ合った。だけど誰も“彼”を本気で心配はしなかった。それが一番の孤独だと、僕は知っている。最後に交わした言葉は、こうだった。
「……“大丈夫”ってさ、一番孤独な言葉だな」
◆
季節が変わって、春になった。彼は今、小さな町で一人で暮らしているらしい。スマホは持っていない。仕事はコンビニの夜勤。誰かに話しかけられると、ちょっとだけ笑うらしい。「大丈夫か?」と聞かれたら、「まぁまぁかな」と返すようになった、と、人づてに聞いた。
“王様”は王冠を捨てた。
でもその手には、まだ少しだけ棘が残っている。きっと自分を掻きむしるための、最後の武器なんだろう。
僕は思う。
彼が「まぁまぁかな」と言えたこと。それは、世界に対する初めての敗北であり、初めての“赦し”だったんじゃないかって。そして、そんな人生も――
いや、そんな人生こそ、
案外、わるくないのかもしれない。
🌱台本を読んでくださった方のご紹介
台本を読んでくださった方の音声作品のご紹介ページです(掲載は把握できている範囲に限られます)朗読していただきありがとうございます
花時りっか様
5作品
『空飛ぶバナナステーション』
『大丈夫の王様』『砂糖菓子の森』
『声の国』『声の国〜孤独の怪獣〜』
戸塚彪悟(とづかひゅうご)様
とろふぃ〜ゆ様
ミン様
@min267156 朗読 台本『大丈夫の王様』 をお届けします。 #フリー台本 #朗読動画 #朗読 #朗読劇 #capcut aiイラストを使用してます。 朗読挑戦中です。 【台本】 作者名︰tmt様 作品名︰『大丈夫の王様』 https://note.com/tmt_note/n/n39bd0f8ee99d?sub_rt=share_pw
♬ オリジナル楽曲 - MIN - MIN
