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【寝かしつけ・睡眠導入】寓話|声の国〜孤独の怪獣〜 (朗読可)

概要

▷約3,300文字|朗読目安 12〜20分
寝かしつけ用の睡眠導入、朗読台本です。寝る前の耳に優しい童話のようなお話にしました。「声の国」の続編ですが、このお話だけでも読めます。聴く人を睡眠に導いていただけたら幸いです。

あらすじ
深い森の奥で、誰にも届かない孤独を抱えた怪獣が、夜ごと眠れずに叫ぶ。その声はやがて「声の国」に響き、人々を静寂へと誘った。孤独の響きに気づいた王様は「夜の子守唄」を捧げ、怪獣の震えをやさしく溶かしていく。長い時ののち、少女と声を持たない少年が出会い、言葉を超えた想いが再び森に小さな音を芽吹かせる。声にならない心が、やがて誰かへ届く物語。


声の国  〜孤独の怪獣〜



王様の声が失われたのは、長い長い夜のことでした。

それは、森の奥深くで眠れない怪獣が叫んだ夜。はるか昔、「声の国」が生まれる前。怪獣は名を持たず、誰ともつながらず、ただ静かに森をさまようだけの存在でした。

やがて「声の国」が生まれ、人々が思いを交わすようになると、怪獣はそっと姿を消しました。怪獣は自身の姿がとてもおそろしいと知っていました。そして、こんな姿では、こんな声では、誰にも受け入れてはもらえないだろうと思っていたのです。

その孤独は、大きな木の根へと静かに伝わっていました。この木もまた同じように、孤独を抱え、そこに存在していましたが、いつか誰かが怪獣の孤独を受け止めてくれるよう願うことしかできませんでした。

やがて国は栄え、声があふれ、森もにぎやかになっていきました。その音は森のずっと奥深くまで届くようになりました。けれどそのにぎやかさに怪獣の孤独は大きくなり、何度も眠れない夜を過ごしました。

そして、とうとう、耐えきれずに叫んだのです。

その叫びは、大きく、深く、しかし、誰かに届く形をしていませんでした。人々には、それがこの世界の怒りのように感じられました。風は止まり、鳥たちは羽ばたきを忘れ、木々は怯えながらざわめき、人々は声をひそめて、家に閉じこもりました。

けれど、王様だけは、大きな声の中に小さな震えがあるのを感じていました。木は怪獣の孤独の叫びを受け止め、王様に伝えました。すると王様は大きな木のもとに立ち、深い静けさの中で「夜の子守唄」を歌いはじめました。

葉が揺れ、根が森じゅうに歌を届けていくにつれ、怪獣の震えは少しずつおさまっていきました。やがて怪獣は王様の前に姿を現しました。その体はとても大きく、おそろしいように思われましたが、それとは逆に、目は涙に濡れ、微かに体が揺れているのでした。王様は歌い続けました。

──怪獣は、震える手で王様の声をそっと握りしめました。まるで、その声が自分の中で消えないよう願うように。

怪獣は王様のそばに静かに身を横たえ、王様もまた、そのそばにそっと座り込みました。二人は目を閉じ、深く、静かで、優しい眠りへと落ちていったのです。

そして国には、静けさが訪れました。そうなって、ようやく人々は気づきはじめました。これまで王様の子守唄に幾度となく守られていたことに。時折、森に響いていた子守唄は、孤独な怪獣さえも抱きしめる王様の「想いの声」だったのだと。



王様の声が国から失われてから数年後。

かつて王様と木に救われた、小さな小さな声しか出せなかった少女は大人になっていました。今や彼女は人々を導く存在となり、沈黙の中の《響き》を聞き取る力を持っていました。声にならない想いほど、深く、強く、美しいということを、彼女は知っていたのです。彼女はあの日からずっと、王様の声を取り戻すための何かを探していました。

ある日、彼女は森の奥で、一人の少年と出会いました。少年は言葉を持ちませんでした。喉の奥にあるはずの音が、生まれつき彼にはなかったのです。けれど彼は、目で語り、手で伝え、心で対話していました。その静かな姿に、彼女はどこか懐かしさを感じました。まるで、昔の自分のようだ、と。

言葉がない代わりに、二人の間には、息づかいや、まなざしの間合い、枝を踏む音、手の動きに乗った気持ちが、確かに流れていました。二人は、森の中で何度も会うようになりました。少年は、彼女が何も言わなくても、疲れている日には草の上にそっとやわらかな綿の花を敷き、嬉しい日には、小石を並べて小さな冠を作って見せました。少年の温かさは、どんな言葉よりも確かで、彼が出す音は、どんな声よりも優しい音でした。



二人がそうして過ごしている間に、森の奥にひとつの変化が訪れました。王様の声が消えたその夜、木の根元に小さな芽が生まれていたのです。それはまだ声にもならない命の兆し──けれど、それだけでは、目覚めないものがありました。

大きな木は、沈黙の中で知っていました。怪獣を目覚めさせ、握りしめている王様の声を放つには「言葉」ではなく「言葉にならないもの」が必要だということを。怪獣はかつて孤独に飲み込まれてしまった存在。だからこそ、音を持たない者の“沈黙の声”だけが、その眠りを優しく揺り動かせるのだと。

彼女は、ある日、その力を持っているのが少年だと確信しました。そして、二人で芽のもとへ向かいました。静かに震える小さな芽。彼女がそっと手を伸ばしかけると、少年が一歩前に出ました。芽に手を差し伸べます。その上から彼女はそっと手を添えました。

──そのとき、芽から柔らかな光があふれ出しました。それは、言葉ではないけれど確かに伝わる響きでした。

少年は心で「ここにいるよ」と伝えました。

彼女は囁くように儚く強く、声で伝えました。

「あなたの声は、ちゃんと届いています。大丈夫」

その響きは森を満たし、国じゅうへと広がっていきました。眠っていた怪獣の目から、一筋の涙がこぼれ、震える手で、そっと王様の声を手放しました。怪獣の最後の叫びと王様の子守唄は、新たな光となって森へと降り注ぎました。



その後、王様は再び「声」で人々を優しく包み込みました。彼女は少年と共に、新たな芽を見つめていました。芽は小さな葉を開き、森には、また新しい音が生まれはじめました。大きな木はその光景をやさしく見つめていました。自らの根が支えてきた命たちが、新しいつながりを生み出していく。その喜びを胸に、木は静かにその役目を終えようとしていました。それはまだ、王様も、誰も知らない、木だけの秘密でした。

けれど根は、まだどこかへと伸び続けています。まるで次の「声の芽」を探しているかのように。

そして、人々は「あの夜」に森で起きたことを災いと話すのをやめました。王様が語ったのです。「それは、届かなかった想いが、ようやく声になろうとした瞬間だったのだ」と。それを知った人々は、怪獣の声を恐れるのではなく、受けとめる方法を探しはじめました。

年に一度、「怪獣の場所」と呼ばれる森の奥深くへ、声をひそめて足を運ぶのです。誰も言葉を交わさず、小さな石をひとつずつ置いていきます。それは、かつて怪獣が誰にも届かずに叫んだ声に、今なら「わかるよ」と伝えるため。やがて子どもたちは、小さな歌を口ずさみます。その旋律は、とても静かで、温かくて、少しだけ切ないものでした。

怪獣はもうどこにもいませんでした。けれど人々は、誰の心にもその「孤独」を感じる夜があることを知っています。だからこそ、あの夜の静けさを、怪獣のことを、寄り添い伝え合うことの大切さを忘れずにいたいのです。



ここは、王様と大きな木が守っている「声の国」。

でも、本当の物語はまだ終わりではありません。森のさらに奥深くには、まだ誰にも届いていない、小さな「声の気配」があります。それは、かつて木が触れたことのある、失われたはずだった記憶。確かにそこにある、何かのはじまりの「声」。

次にその声を聞くのは、あなたかもしれません。

だから、この続きはあなたの夢の中で。


おやすみなさい。(囁き声)




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