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掌編小説|推しの背中−推す側・推されるの葛藤の話− (朗読可)


推しの背中


🎧 推す側

彼の配信を開くたび、なんだか胸の奥がざわついた。

最初に彼を知ったとき、再生数は一桁。コメントも数件だけだった。通知が鳴るたびに、誰よりも早く彼に気づける自分をちょっと誇らしく思った。少しずつ変わっていく声や表情。その変化をひとり占めできるような気がして、嬉しかった。「最古参」として彼を支える立場でいたいと思っていた。

でも、今はもう、違う。

椅子取りゲームの端に座ったみたいな気分だ。最初に座ったはずなのに、最後まで立てない。あの小さな変化は、もう自分だけのものじゃなくなっていた。気づけば、画面越しに求めているのは、過去の彼と、どこかで笑っていたあのイメージだけだった。


  私はここにいる。


  変わらないでほしい。


心の中で感情がうねる。嫌われたのか。呆れられたのか。もう応援しない方がいいんじゃないか。気持ちが溢れそうになると、ついコメントを増やしてしまう。周りの眩しい人たちに嫉妬して、つい言葉を投げてしまう。その後で、自己嫌悪に沈む。

ある日、思い切ってメッセージを送った。

「私は消えるけど、これからも応援していい?」

返事はなかった。

そして、彼にブロックされた。

名前は表示されないし、検索しても何も出てこない。夜になると、何度も画面を開いては閉じてしまう。やめられない自分がいる。でも、先に距離を置いたのは私自身だった。現実を直視することを避けて、過去の彼に、想像の中の幸せにすがっていた。それでも、応援だけは続けたくて、画面越しに痕跡を探していた。

マイクの角度。

画面の明るさ。

音量の調整。

彼が配信をはじめた頃、一緒に作ってきたもの。私もその一部だった。変わらないものを見つけては、なんとか安堵する。

孤独と不安の中で応援を続けた。

そして気づく。

彼が見せようとしていたのは、「変わり続ける彼」そのものだと。それがわかっても、もう、どうにもできなかった。彼の背中を遠くから見守りながら、ありがとうと呟く。私は今も、過去の彼と、自分の中にいる本当の彼を、応援し続けている。


🎙️ 推される側

配信をはじめたとき、誰も僕を知らなかった。

でも、少しずつフォロワーは増えていった。その中でも、彼女は特別だった。最初からずっと支えてくれた。彼女のコメントは、僕にとっての力の源だった。

マイクの角度。

画面の明るさ。

音量の調整。

全部手探りで、リスナーの反応を見ながら少しずつ形を作っていった。彼女もその一部だった。最初は不安しかなかった。コメントが来ない日もあれば、励まされる言葉に力をもらう日もあった。そんな中、彼女は変わらず、背中を押してくれた。毎日配信を続ける理由は、彼女の言葉や笑顔だった。

でも、配信に慣れてきて、僕が変わりはじめると、彼女はその変化を受け入れられなくなっていった。声も、内容も、他のファンとの距離感も。彼女の不安は、次第に僕にぶつかってくるようになった。それにどう応えていいのか、わからなかった。

ある日、彼女からメッセージが届いた。

「私は消えるけど、これからも応援していい?」

はっきりと答えられなかった自分を、情けなく思う。

彼女が望んでいたのは「過去の僕」だ。
それを受け入れることができなかった。
変わり続ける自分を、見てほしかった。
彼女が望む「変わらない僕」は、もうここにはいない。

だから、僕は彼女をブロックした。

最初は、それが彼女への「優しさ」だと思った。応えられない自分を、せめて見せたくなかった。でも時間が経つと、その判断が本当に優しさだったのか、疑問が残る。

それでも、前を向こうと決めた。変わり続ける自分を見せたいという気持ちが、揺らぐことはなかったからだ。彼女が求めていた「変わらない僕」ではなく、「今の僕」を応援してくれる人たちのために、この場所に立ち続けたい。

そして、いつかどこかで、彼女が僕のことを忘れて、
笑顔でいてくれることを、ただ願っている。

痕跡を見つけるたびに思い出す。

彼女と作った日々の温もり。


それは今でも、感謝と共に、
僕の中に生き続けている。




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※この作品『推しの背中』では、登場人物の一人称「僕」を、「私」「俺」への変更。「私」を、「僕」「俺」への変更はしてもOKです。一人称変更に伴い、「彼→彼女」へ、「彼女→彼」への変更もOKです。それ以外の文章の変更は全て禁止とします。

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