見出し画像

ラノベ|口上決戦 〜 言霊の陣 〜 (朗読可)

概要

▷ 約31,120字|朗読目安3〜5分
少年漫画のような熱いバトルを書きたくて作りました。難しい理屈は抜きに、頭を空っぽにして楽しんでいただければ嬉しいです。朗読や声劇での使用も大歓迎です。

あらすじ
言葉が質量を持ち、魂を焼き切る武器となる「国立言霊競技場」。圧倒的な火力で全てを焼き尽くそうとする破壊の獣・獅堂咆哮に対し、主人公・天音紡は、伝統の「粋」を宿したしなやかな風で立ち向かう。伝統芸能×異能バトル。一気読みできる熱い短編小説。



口上決戦  〜 言霊の陣 〜





「さぁさぁ、お立ち会い!
 寄ってらっしゃい見てらっしゃい!」

実況の声が、爆音となって静寂を切り裂く。

国立言霊競技場。ここは、言葉が物理的な質量を持ち、人の魂を直接焼き切る修羅の庭。舞台中央、黄金のマイクスタンドが傲然とそびえ立つ。


「第七回・全国口上決戦、決勝!

 天音 紡(あまね つむぐ)
 vs
 獅堂 咆哮(しどう ほうこう)」


紡は、
紺の半纏(はんまとい)をなびかせ、静かにそこに立つ。指先は微かに震えていた。だが、その瞳には確固たる業火が宿っている。

対する咆哮。
上半身、真っ赤な着物をひと脱ぎしたその姿は、歩く噴火口。

「貴様の口先ばかりの能書きは聞き飽きた。
 俺様の言葉は、江戸の夜空を焼き尽くす、
 一番纏(いちばんまとい)の
 火事装束(かじしょうぞく)よ!」

咆哮が荒々しくマイクを掴んだ。否、それは獲物を捕らえる猛獣の爪だ。彼が息を吸い込むと、会場の酸素は一瞬で枯渇した。

「控え、控えい! この声が聞こえぬか!」

放たれたのは、地鳴り。あるいは、魂の咆哮。

「我が名は咆哮!
 言霊を鍛えし鉄火人(てっかびと)!
 ひとたび吠えれば、火の粉が舞い、
 鋼も溶ける熱量よ!
 言葉は弾丸、心は火薬!
 焼き尽くせ、この大音上(だいおんじょう)!
 ひれ伏せ、跪け、これぞ覇道の真骨頂ッ!!」

叫びに反応して言葉が実体化する。漆黒の文字が巨大な仁王像を結び、拳を振り下ろす。咆哮の口上は、暴力的なまでの圧倒的熱量だ。客席は、その重圧と火の勢いに悲鳴を上げる。

「……やれやれ、お騒がせなこった
 火事が江戸の華なら、火消しの風もまた……
 江戸の華ってものですよ……っと」

紡が不敵に笑い、扇子をパッと広げた。瞬間、灼熱のステージに、一風(いっぷう)の涼やかな風が走る。

「そんな荒削りな言葉じゃ、
 僕の糸は切れやしない
 言葉は風、心は錦
 たった一言で凍土を溶かし、
 たった一言で絆を結ぶ
 流れる調べは日の川だ
 お聴かせしましょう、
 これが、結びの口上……!!」

紡の声は、三味線の弦のように鋭く、天に昇る龍のようにしなやかだった。

「昨日を編み込み、
 今日を繋いで、
 明日(あす)を彩る
 言の葉一枚、おろそかにしないのが、
 粋ってもんだ
 まいります!仲間の思い、師匠の教え、
 すべてをこの一節に織り込んで、解き放つ!」

光の糸が桜吹雪となって咆哮の重圧を絡め取り、咆哮の破壊を、紡の粋が穏やかに包み込んでいく。


火花と風。

龍と虎。


「火事だ、火事だ! 燃え落とせ!」
叫ぶ咆哮の破壊衝動。

「火消しだ、火消しだ! 粋に鎮めろ!」
祈る紡の鎮魂歌。

二人の言霊と盛大な歓声がが限界を超えて混ざり合い、舞台に巨大な光の柱が立つ。その中心。天空より眩く舞い降り、能面の如き顔を覗かせしは……


語ノ神(ごのかみ)



『……見事なり。言葉とは、刺す牙にあらず
 魂を震わせる“真(まこと)”にこそ、真髄あり』


鳴り止まない拍手。
それは、二人の言霊(ことだま)に対する最大級の賛辞だった。判定は、僅差。天音 紡の勝利。

「……完敗だ。俺様の火力を、
 お前の粋が飲み込みやがった」

咆哮が、清々しい顔で膝をつく。
紡は扇子を畳み、その手を咆哮へと伸ばした。

「あんたの熱い言霊があったから、
 僕の風も勢いづいたんだ。
 口上は、戦いじゃない。
 互いの心意気をぶつけ合う【祭り】だろう?」

「……はッ。違ぇねぇ」

二人はガシッと固く握手を交わし、拳を突き合わせた。言葉は刃であり、同時に、絶望の夜を照らす絆でもある。

今年、語ノ神が与えし吉兆は、
さながら逆バベルの塔。


言葉は己を語り、
誰かへと繋がるための橋。


二人の戦いは、次世代へと紡がれていく。







利用規約

本作品は朗読可能です。なお、利用規約は予告なく変更される場合があります。ご利用の際は、事前に下記リンク先の利用規約をご確認ください。利用は自己責任でお願いいたします。