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潮風の戯れ言#青ブラ文学部

海に来た。最低最悪のほぼヒモ彼氏が、急に行きたいって言い出すから。行く前はダルいな〜って思ってたけど、実際来てみたら結構いい気分。波の音と、潮風が気持ちいい。ここでなら、普段切り出しにくいようなぶっちゃけ話もできる、かもしれない。

あたしは、妊娠している。といっても、誰の子かはわからない。今あたしの右斜め前をのそのそ歩いてるクソ男の子かもしれないし、そうじゃないかもしれない。つまり、ちょっと心当たりが多すぎてわからない。
「…座ろうか。」
クソがそう言うから、あたしたちは砂浜に並んで腰掛けた。細やかな砂の感触が気持ちいい。
「やっぱ海は広いな大きいな、いいよなぁ。」
なんて、呑気に呟く横顔をチラリと見ると、とっくに見慣れたはずなのにやっぱりしみじみと感心してしまう。スッと通った鼻筋がすっごくきれい。ほんとこいつ、顔だけはいいんだよね。
「…ねぇ。」
「ん?」
こっち向いたクソと目が合った。あたしは反射的に、目を逸らしてしまう。
「…仕事!見つかったの?」
「あぁ…今度面接決まった。」
「ほんとに?今度っていつ?」
「今月の15日。」
「ふーん、次はちゃんと長く続けてよ。」
「うーん、どうかなぁ。」
どうかなぁって、と無言で睨みつけると、クソが誤魔化すように目を逸らす。
「何も僕は、絶対に働きたくないってわけじゃないんだよ。実際、今までだっていろんな場所で働いてきたのも知ってるだろ?営業アパレル、介護飲食…」
「その全部一年以内に辞めてるけどね!一番長く続いて九ヶ月。」
「ごめん、でも…僕はある場所に少しの間いて、そこを急に離れるのが趣味みたいなものなんだ。よし、この日に飛ぼう。って決めて、それまでの間誰にも勘付かれないように過ごす。そして予定通り、計画を実行に移す。みんなにとっては突然のことなんだけど、僕にしてみたら前々から準備していた計画なんだ。そういう前段階から本番まで、その過程の全部がものすごく楽しいんだよ。だからずっと無職ってことにはならない。ちゃんと就職するよ。一旦はね。」
あたしはため息をついた。
「…何でそんな風になっちゃったわけ?」
「…そうだな。一番初めは、中学三年生の時。僕は高校受験のために、塾に缶詰状態の夏休みを過ごしていた。でもある日突然嫌になっちゃって、塾に行かず電車に乗って一人で海に行ったんだ。いやぁあれは…僕の人生の中で、一番青春だったな。以来僕はその追体験をしたくて、こうしたことを繰り返してる。どんなにやっても、あの一五歳の夏休みは越えられないんだけどね。」
こんなやつの子供なんて、どうせろくでもない人間が生まれてくるに決まってる。まあこいつの子って決まったわけじゃないんだけど、した回数を考えればこいつが父親の可能性が一番高い。母親がまともならちょっとは望みあるけど、あたしだって超頭悪いから全然期待できない。でも、まあ、こいつとあたしの子供なら、顔はかわいいこと間違いなしだけど。だってマイナス要素ゼロだもん。隔世遺伝しない限りは。
なんでだろ、あたし、まだ堕ろせるんだからチャチャっとぱぱっと堕ろしちゃえばいいのに、なんだかどうしても気が進まない。子供なんて別に好きでもないしスーパーとかで泣き喚いてるガキ見るとイラッとするけど、でも、あたしもし子供生んだら、絶対すっっごくかわいがるよ。なんか、それはわかる。超溺愛して、レースたっぷりのお姫様みたいな服着せて。あ、女の子だったらね。
潮風があたしに、お前の子供ができた、生むから責任取れって言っちゃえよ、言っちゃいなよとそそのかしてくる。
…こいつも、隣でデカい口開けて欠伸してるこいつも、子供生まれたらちゃんとしてくれる、なんてことないかなぁ。いや、ないか。
「…ねぇ。」
「ん?」
「なんでもない。」

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山根あきらさんの企画に参加させていただきました。読んでいただきありがとうございました🏝️

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