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短歌「窓から見えるもの」

すれ違う交換日記の車間距離
見たUFOを誰も書かない

すれちがう
こうかんにっきの
しゃかんきょり
みたゆーふぉーを
だれもかかない

交換日記を息子としている。
読み返してみると二人とも書いていない出来事があったりする。
同じ日常の窓の外を見ているのにね。
何を書いて何を書かないか。
「書かなかった」という記録は残りにくい。


春の陽にぼんやりひかるスリガラス
少女の声をマネにまねする

はるのひに
ぼんやりひかる
すりがらす
しょうじょのこえを
まねにまねする

すりガラスの向こうの風景はマネの印象派の絵画のようだ。
窓の外ではなく、背中から少女の声を聞く。、少女の声を聞きながらだと、すりガラスのごしの風景が少女の絵画に見えてくる。


月よりも丸い窓から覗くのは
海底二万里のみぞれ

つきよりも
まるいまどから
のぞくのは
かいていにまん
まいるのみぞれ

夜、丸い窓から見る風景は潜水艦からの景色のようだ。
マリンスノーが降り積もる。
こちらはノーチラス号、海底二万マイル。


本という窓を開ければ居ながらに
宇宙の果てに旅も出来れば

ほんという
まどをあければ
いながらに
うちゅうのはてに
たびもできれば

本は窓だ。
遠い異国や過去や未来や異世界を覗く窓だ。


窓枠に入りきらないくすのき
近寄るほどにがくに収まり

まどわくに
はいりきらない
くすのきが
ちかよるほどに
がくにおさまり

中学生の時の記憶。
放課後、普段は入らない先輩の教室に入る。
中庭の楠の正面の教室。
廊下から入った時、楠は教室の窓枠8枚におさまらない大きさだった。
あまりの楠の大きさに一歩一歩窓に近づくと不思議なことに一枚の窓枠におさまって行ったのだ。
その発見に窓と入り口のドアを何度か行き来した。


透明な境に真っ直ぐ鳥は来て
命を赤い汚れにかえた

とうめいな
さかいにまっすぐ
とりはきて
いのちをあかい
よごれにかえた

一瞬何が起こったかわからなかった。
窓の外をながめていたら、突然大きな音がしてガラスが赤く汚れていた。
窓の下で死んでいる鳥を鷹が掴んで持って行った。
どうも鷹が意図的に窓に向かって小鳥を誘導しているようなのだ。
透明な窓ガラス、その境を知っているもの、知らないもの、利用するもの。


窓枠が額に変わって1枚の
絵画の中に入りに行こう

まどわくが
がくにかわって
いちまいの
かいがのなかに
はいりにゆこう

いつも見てるだけの窓の風景に入りたい。
入ってしまうと窓から観察している私はいなくなる。
風景を絵に描いて自分も描いてしまえば入れるんじゃなかろうか?

NHK短歌七月号に千葉聡選佳作で掲載していただきました。


日常を千六本に鉄格子
煮込みうどんで今晩食べよ

にちじょうを
せんろっぽんに
てつごうし
にこみうどんで
こんばんたべよ

アパートのキッチンの窓にだけ、縦の格子がついていた。
いつもの日常が千六本に刻まれたなぁと、野菜を刻みながら思った。
野菜も細長く、うどんも細長く、日常も細長く、煮込んで食べてしまえ。


母だけがカーテンずらし確認し
大丈夫よと僕を寝かせた

ははだけが
かーてんずらし
かくにんし
だいじょうぶよと
ぼくをねかせた

眠るか眠らないかのころ、大きな音がした。
母が布団を出てカーテンの隙間から覗き、「大丈夫」と言い、それを聞いて納得して寝た。
ふりをしながら思う、その時窓のそとでは変身した父が大怪獣と戦っていたのではないかと。
母はその姿を見て、励ますような、子供を起こさないように静かに、遠くでやれ、と思ってたんじゃないかとそう思った。


詠題「窓から見えるもの」
最初に聞いた時にはどうしてくれようかと途方に暮れたが、案外詠めた。
思ったよりも窓の外を見ている自分に気がついて面白かった。

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