第5話|働き方の空気、仕事の温度
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生活は、ある日を境に大きく姿を変えることがある。
自分の意思だけでは選べない事情に押されながら、
それでも日々は続いていく。
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夫の転勤と、自身の治療や手術を経て、
私は大手保険会社を退職した。
慣れ親しんだ職場を離れ、
住む場所も、生活のリズムも変わっていく中で、
ひとつだけ、心の底に残っていた感覚があった。
「この仕事、思っていたより自分に合っているのかもしれない」
確信と呼ぶには弱く、
でも消えてしまうほど曖昧でもない、
そんな手触りだった。
転勤先でも同じ業界で働きたいと思い、
次に辿り着いたのが、個人代理店での仕事だった。
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空気の濃い職場で
大手とは違い、規模も人の数もぐっと小さい。
整ったマニュアルも、手厚い研修もない。
電話の声のトーン、
書類の置き方、
誰かの一言。
ほんの些細なことで、
その場の空気が変わる職場だった。
そこには、大手では感じることのなかった
“濃さ”があった。
社長は少し高圧的で、
営業担当が叱られている声が聞こえてくることもある。
場がピリつくと、
私の身体も自然と緊張を拾ってしまう。
直接向けられた言葉ではなくても、
空気そのものが、疲れを連れてくる日があった。
そんな中で、
場をやわらかく保ってくれていたのが、
事務長——社長の奥さんだった。
明るくて、優しくて、
「大丈夫よ、ゆっくり覚えればいいから」
そう言って、いつも笑顔で迎えてくれた。
その存在があったから、
私は安心して、自分の役割に向き合うことができた。
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実務の中で積み重なったもの
仕事は、主に事務作業が中心だった。
日々の業務をこなしながら、
知識を覚え、流れを理解し、
少しずつ任されることが増えていく。
「今、これが必要」
「ここを理解していないと困る」
目の前の仕事に引き寄せられるように、
自然と学ぶ姿勢が身についていった。
あとから振り返ると、
この頃に身についた
“働きながら覚える感覚”
“必要に迫られて理解していく姿勢”は、
確かに私の中に残っている。
小さな代理店で、
空気の濃さに戸惑いながらも働いた日々は、
「働く場所が変わると、
人はこんなにも影響を受けるのだ」
ということを、身体で教えてくれた。
プレッシャーはあった。
それでも、
事務長に可愛がってもらえたこと、
社長にも意外なほど信頼してもらえていたことは、
当時の私にとって、確かな支えだった。
そしてこのあと、
人生は一気に「家族の時間」へと舵を切る。
妊娠、出産、子育て——
仕事から少し距離を置き、
私は、別の役割の中へ深く入っていく。
このとき積み重ねていたものが、
また別のかたちで顔を出すのは、
もう少し先の話になる。
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