見出し画像

「再び『Doesn’t Really Matter』を1位にしてくれてありがとう」。ジャネット・ジャクソンとBE:FIRSTコラボの意義

先週末に日本でも映画「マイケル」が公開され、今週はマイケル・ジャクソンに関する話題が盛り上がっているタイミングですが、その妹であるジャネット・ジャクソンさんが時を同じくして来日し、日本各地でライブをおこなっていたのをご存じでしょうか。

特に大きな話題と言えるのが、ジャネット・ジャクソンさんと日本のボーイズグループであるBE:FIRSTが「Doesn’t Really Matter」のリミックス曲をリリースしたことでしょう。

なにしろ、この「Doesn’t Really Matter」は、ジャネット・ジャクソンさんが26年前の2000年にリリースし、全米チャートで1位になっただけでなく、日本でも洋楽シングルチャートで1位になるなど世界中で大ヒットした楽曲です。

26年の時を超えたリミックス曲のリリースは日本でも話題になり、iTunes Top SongsチャートやLINEミュージックの「洋楽 Top 100」などで1位を獲得することになります。

その上、BE:FIRSTがオープニングアクトを務めた6月14日のジャネット・ジャクソンさんの横浜公演では、ライブの最後にBE:FIRSTとともに、この「Doesn’t Really Matter」のリミックスの生パフォーマンスを披露。

しかも、曲の間奏でBE:FIRSTの楽曲の振り付けもメンバーと一緒に披露してくれた上に、ライブ終了後に観客の前で「この曲を再び1位にしてくれてありがとう」とBE:FIRSTのメンバーに感謝を表明する展開になったのです。
 

BE:FIRSTはThe Jackson 5の「I Want You Back」もカバー

奇しくも、先週末は並行して日本では日本の音楽を世界に発信するというコンセプトではじまった「MUSIC AWARDS JAPAN 2026」の授賞式が開催されていたタイミングでした。

このジャネット・ジャクソンさんとBE:FIRSTのコラボには、日本のアーティストが世界に挑戦する上で重要なヒントがあると言えます。

まず重要なのは、今回のジャネット・ジャクソンさんとBE:FIRSTのコラボは、単純に来日したタイミングでたまたま発生したものではなく、その前のBE:FIRSTのジャクソンファミリーへのリスペクトある活動の延長線上に存在している点です。

実はBE:FIRSTは昨年10月の段階で、The Jackson 5の名曲である「I Want You Back」をリメイクカバーしています。

このリメイクにあたり、BE:FIRSTのプロデューサーでもあるSKY-HIさんがリリースに寄せたメッセージが印象的です。

BE:FIRSTは、もちろんそれぞれ音楽的な嗜好に違いこそあれど、全員がその歴史や重み、カルチャーそのものに対してリスペクトを強く持っている音楽家集団であります。
今回のベストアルバムのタイミングで、ルーツミュージックでもあり、近代ボーイバンドとしてのプロトタイプでもあるThe Jackson 5に対してリスペクトを込めたリメイク型のカバーをさせていただいて、2025年にもう一度この楽曲の素晴らしさが伝わっていけば…
そしてBE:FIRSTとしても、「消費されていくこの時代に、それでもボーイバンドというアートフォームで音楽を鳴らし続ける理由」に更に踏み込んでいけたらと思い、リスペクトを込めて制作しました。使用楽器やレコーディング環境にまで拘った至極のカバーです!

こうしたBE:FIRSTのThe Jackson 5へのリスペクトを込めたカバーが、ジャネット・ジャクソンさんにも伝わった結果、今回のコラボが成立したと考えられるわけです。
 

ジャネット・ジャクソンの日本の音楽文化へのリスペクト

さらに興味深いのは、このリスペクトは決して片思いではなかったということです。

実は、ジャネット・ジャクソンさんも何度も来日してライブをおこなう過程で、日本の観客の音楽やライブに対する姿勢を目の当たりにし、日本の文化や観客に対するリスペクトを培ってきた歴史があるそうです。

今回のライブ前にプロデューサーのランディ・ジャクソンさんが、なぜ今回日本限定公演が実現したかを話すインタビューにも、下記のような印象的な発言があります。

日本はマーケットとしても素晴らしくて、観客の皆さんが本当にアメリカの音楽、R&Bをわかってくれる。それにスタイル、ファッション、ダンス...。そういうカルチャーに対する理解が深いんだよね。だからJanetに「日本に戻ろう」って言ったんだ。

実際に6月18日に公開された「Doesn’t Really Matter」のリミックスのミュージックビデオを観て頂くと、ジャネット・ジャクソンとBE:FIRSTがお互いにリスペクトしあい、楽しそうにコミュニケーションしながらリハーサルをしている様子を垣間見ることができます。

実際に、ジャネット・ジャクソンさんは韓国メディアのインタビューに対して下記のように答えていたようです。

日本は、常に私の旅の一部でした。
幼い頃から日本文化を体験したことは、私自身と世界への理解を形作る一助となりました。
BE:FIRSTとのこの瞬間は、文化こそが私たち人間の経験を貫く共通の糸であることを改めて気づかせてくれます。

ある意味では、まさにこれまでの日本の音楽ファンとジャネット・ジャクソンさんとの関係の上に、今回のジャネット・ジャクソンさんとBE:FIRSTのコラボが成立する背景があったと考えることができるわけです。
 

リスペクトのあるつながりこそが日本のアーティストを世界につなぐ

BE:FIRSTの最近の活動で興味深いのは、彼らが今回のジャネット・ジャクソンさんとのコラボだけでなく、本気で世界の音楽や世界のアーティストと向き合い、新しいつながりを生み出す活動に注力しているように見える点です。

象徴的なのは、フィリピンの人気グループであるSB19とも「Toyfriend」という楽曲をリリースし、SB19がフィリピンで開催したライブで一緒にパフォーマンスを披露していることでしょう。

現在、世界で活躍するBABYMETALも、初期の頃はメタルのレジェンドに会うための修行の旅と定義して、世界中のフェスを飛び回り、世界のメタル業界での地位を確立してきた歴史があります。

最近では、XGがイギリス最大の音楽フェスに出演した際に、イギリスで2000年代に大ヒットしたSweet Female Attitudeの「Flowers」という楽曲をカバーすることを選択したことも象徴的な選択と言えるかもしれません。

これから世界を本気で目指す日本のアーティストや日本の音楽業界に必要なのは、こうした本気で世界の音楽やアーティストと向き合い、つながり、学ぼうとする姿勢かもしれないのです。

世界的には、ブルーノ・マーズとロゼの「APT.」のように、トップアーティスト同士のコラボから大ヒット曲が生まれることは珍しくなくなっています。

逆に言えば、世界ではアーティスト同士が国境や文化を超えてつながり、新しいカバーやコラボに挑戦することで、新しい世界が広がったり、ファン同士がお互いのアーティストのことをより良く知るきっかけが生まれることが普通となっています。

今回のジャネット・ジャクソンとBE:FIRSTのコラボのように、本気で海外の楽曲やアーティストと向き合うアーティストが日本でも増えていくことが、世界で日本の音楽を知ってもらうために重要なアプローチの一つとなることは間違いありません。

今後、BE:FIRSTがどのように世界のアーティストとのつながりを広げてくれるのか、引き続き楽しみにウォッチしたいと思います。

この記事は2026年6月20日Yahoo!ニュース寄稿記事の全文転載です。

なお、月曜日の雑談部屋では、皆さんとこのあたりの雑談もできればと考えています。
タイミングが合う方は是非ご参加下さい。


いいなと思ったら応援しよう!

徳力基彦|エンタメビジネスウォッチャー ここまで記事を読んでいただき、ありがとうございます。 このnoteでは、日本のエンタメのミライを密かに応援すべく公開メモを綴っています。 XのスペースとYouTubeライブで雑談部屋も開いてますので、よければ是非ご参加下さい。