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【考察】美しく閉じられた世界〜毒を喰らわば皿まで〜

※本記事は物語全体の構造に触れます。

そして、私たちは確かに蓋を閉じた

第1巻を読み終えた瞬間、物語はひとつの円を閉じる。
多くの読者はそこで一度、息をはく
終わった―――、と。

勇者パルセミスと賢者アスバルによって興った国、パスセミス王国。
古代竜カリスの呪い。
呪われた血を受け継ぐ賢者アスバルの家系。
転生によって覚醒した主人公アンドリムの復讐。
そして、1000年後に示されるパルセミス王国の滅亡。

始まりと終わりが、同じ1冊の中に収められている。

それは拙速なまとめではない。結末が提示されたうえで、物語は完結するのだ。

二千年の栄華を謳った王国はついに滅び、大陸の大地から姿を消す。
 少年と仔犬をつれた古代竜カリスが空の彼方に飛び去った、二千日後のことだ。

『―――賢者アスバルの末裔が、勇者パルセミスの築いた王国を瓦解させる。
 その終焉が他でもない王城の地下から始まるなんて、なんとも皮肉なことじゃないか?』

「毒を喰らわば皿まで」1巻より

勇者が築いた国を、賢者の血が終わらせる。
建国神話は、血によって反転する。

円環構造は描き切られた。

第1巻は王国滅亡までを提示し、物語を閉じる。
完全な終わり。だが、そこには一つの条件がある。

アンドリムは未来を持たない。
古代竜カリスの呪いにより、22歳で肉体の時間が止まり、55歳で必ず死を迎える。
彼の時間は、直線ではない。
ただひたすらに終点へ向かう弧として、静かに曲がり続けている。

彼の終焉は、王国の終焉と交差した。

物語はしかし続いていく。

前世を覚醒した瞬間から、自らを世界の異分子と認識した彼。
だが、不老と早世という呪いを持つ“アスバル”の血統そのものが、既に異分子であった。

八岐大蛇、魔眼、人魚の真珠、砂竜、不死の魔王、異界の悪魔。
それらは「呪いのような」存在として描かれる。

しかし、古代竜カリスによる“呪い”と明記されるのは、アスバル家の血のみである。

世界に散在する“呪いのような存在”は拡散し、物語世界の外縁を揺らす。
だが、アスバル家の呪いは拡散しない。
それは世界の外側ではなく、世界の中心に固定された異物だからだ。
旅の過程で、解呪する可能性は提示される。しかし、彼は一貫して終焉を選択する。

「物事には終焉が必要だ。終わったという、明確な証左が必要だ。それがなくては、どこかに綻びが生じる」

「毒を喰らわば皿まで」2巻より

第2巻以降に描かれるのは、解呪の試みではない。
終焉を前提とした選択の反復である。

だがそれは同時に、世界との摩擦を減じる過程でもあった。

(略)俺という異分子が残されてしまった世界に働く、浄化作用のひとつであったのかもしれない。
 それを超えていくたびに【俺】の存在は少しずつ世界に馴染み、明朗であった前世の記憶も、今となっては知識以外の全てが朧げになった。

「毒を喰らわば皿まで」5巻より

“異分子”であるという自覚は、次第に輪郭を薄めるが、呪いの解呪ではない。

世界に受容されているのではないかと感じつつも、
彼は55歳の寿命を迎える。
そこで、呪いの血統は断たれる。

そして、第1巻のエピローグへ戻る。

かつてアンドリムであった少年は旅立つ。
ヨルガであった仔犬と、古代竜カリスとともに。

「愛しいヨルガ、教えてやろう。木曜日生まれの子供達は―――」

いつの日か、共に旅に出る。

「毒を喰らわば皿まで」5巻より

呪いは解除されない。
だが継承もされない。

アスバルという血は終わる。

物語は終焉を迎える。

それでも───また、廻る。
それは同じ場所へ戻る円ではない。
終焉を抱えたまま、別の軌道へと移る“弧の連続”だ。


考察作品─「毒を喰らわば皿まで」(十河 作  全5巻)アルファポリス

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