「長屋紳士録」より
「あたしゃ悲しんで泣いてんじゃないんだよ。あの子がどんなに嬉しかろうと思ってさ。やっぱりあの子ははぐれたんだよ。さぞ不人情なお父っつあんだと思ってたら、どうしてとってもいいお父っつあんで、ずいぶんあの子を探してたんだよ。それが会えてさ。これから親子が一緒に仲良く暮らせると思ったら、どんなに嬉しかろうと思って泣けちゃったんだよ。
親子っていいもんだねぇ。
こんなことなら私ももっとうんと可愛がってればよかったと思ってね。かわいそうに何も知らない子供を邪険にこっつき回してさ。考えてみれば私たちの気持ちだって随分昔とは違ってるよ。自分一人さえいいじゃ済まないよ。早い話が電車に乗るんだって人を押しのけたりさ。人様はどうでも自分だけは腹いっぱい食おうという了見だろ。イジイジしてのんびりしてないのは私たちだったよ。
いいもんだねぇ、子供って。あの子と一緒に暮らしたのはほんの一週間だったけど考えさせられちゃったよ」
小津安二郎監督「長屋紳士録」(1947年)から、飯田蝶子の最後の台詞より。








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脳出血により右片麻痺の二級身体障害者となりました。なんでも書きます。よろしくお願いします。