コンサルやコーチングをR&Dにできた時の事業開発に与えるインパクト
コンサルティングやコーチングには、「自分の時間を売る仕事」というイメージがあります。
一人の顧客に1時間を使い、相談に乗り、対価をいただく。売上を増やすには、単価を上げるか、対応人数を増やすしかない。だから事業としては拡張性が低い——。
たしかに、目の前の相談に答えるだけなら、その見方は間違っていません。
しかし、コンサルやコーチングを「顧客に助言する仕事」ではなく、「市場の断絶を発見するR&D」と捉え直すと、見える景色は大きく変わります。
顧客との対話は、単なるサービス提供ではありません。
まだ世の中に言語化されていない課題を発見し、新しい事業をつくるための研究開発になるのです。
価値は、必ずしもゼロから創る必要はない
「価値を創る」と聞くと、多くの人は、これまで世の中になかった商品やサービスを発明することを思い浮かべます。
しかし、価値は必ずしもゼロから創る必要はありません。
すでに需要がある。
すでに供給もある。
それなのに、両者がうまく結びついていない。
この断絶を見つけ、間に橋を架けるだけでも、新しい価値は生まれます。
例えば、優秀な人材を求めている企業と、能力を生かせる職場を探している求職者がいる。それでも採用が成立しないのであれば、どこかで情報や期待、評価基準が分断されています。
良い商品を持つ企業と、その商品を必要としている顧客がいる。それでも売れないのであれば、認知、説明、営業、導線、価格、信頼のどこかで流れが止まっています。
商売とは、まったく新しい水を生み出すことだけではありません。
すでに存在している水が、どこで滞っているのかを見つけ、再び流れるようにする営みでもあります。
橋を架ける前に、断絶を発見しなければならない
事業開発では「顧客と商品をつなぐ」「企業と人をつなぐ」といった表現がよく使われます。
しかし、本当に難しいのは橋を架けることではありません。
そもそも、どこに断絶があるのかを見抜くことです。
経営者が「営業力が弱い」と考えていても、実際には商品説明が複雑すぎるのかもしれません。
「採用できない」と悩んでいても、応募者が少ないのではなく、選考途中の離脱率が高い可能性があります。
「社員が動かない」と感じていても、本人たちの意欲ではなく、目標と日々の業務が結びついていないのかもしれません。
顧客が口にする悩みと、本当のボトルネックは、必ずしも一致しません。
机上で業界分析をしているだけでは、このズレにはなかなか気づけません。だからこそ、個別コンサルやコーチングが効いてきます。
顧客と話し、現場を知り、数字を確認し、本人の認識と実態の違いを見つける。
一見すると泥臭い肉体労働ですが、そのなかには大量の一次情報が眠っています。
個別支援は「現場に寄りそう研究所」である
個別コンサルを1件行えば、一つの会社の課題が分かります。
10件行えば、会社ごとの違いと共通点が見えてきます。
50件行えば、「この業界では、同じ場所で価値が滞りやすい」という構造が見えてくるかもしれません。
ここまで来ると、個別支援は単なる時間の切り売りではありません。
市場調査であり、顧客インタビューであり、仮説検証であり、商品開発です。
つまり、コンサルやコーチングの現場そのものがR&Dになります。
一般的な市場調査では、アンケートや統計から「多くの企業が採用に困っている」といった大きな傾向は分かります。
一方、個別支援では、
「応募は来ているのに、最初の返信が遅くて逃している」
「社長の頭の中には魅力があるが、求人票に反映されていない」
「営業担当者は動いているが、追うべき指標が商談数ではなく訪問件数になっている」
といった、具体的な断絶まで発見できます。
事業の種は、「困っています」という言葉の中だけにあるのではありません。
顧客の業務が止まる瞬間、同じ説明を何度も繰り返す場面、担当者によって成果が大きく変わる場所、Excelと口頭連絡の間で情報が消える場所にあります。
コンサルやコーチングは、その瞬間を最前列で観察できる仕事なのです。
KPIは目標ではなく、橋の開通を確認する計器
断絶を発見した後は、そこに橋を架けます。
ただし、橋を架けただけで満足してはいけません。本当に人や情報、お金が流れ始めたのかを確かめる必要があります。
そこで重要になるのがKPIです。
例えば採用であれば、単純な応募者数だけではなく、
求人を見た人が応募する割合
応募から最初の連絡までの時間
面接設定率
面接参加率
内定承諾率
入社後の定着率
などを見れば、どこで流れが止まっているのかが分かります。
営業であれば、売上だけを見るのではなく、
問い合わせ数
初回接触率
商談化率
提案率
受注率
継続率
紹介発生率
まで分解することで、橋を架けるべき場所が見えてきます。
KPIとは、人を数字で管理するためだけのものではありません。
「どこで価値が滞っているのか」
「今回架けた橋は機能しているのか」
を確認するための計器です。
個別コンサルを通じて顧客のビジネスモデルを理解し、断絶を特定し、KPIを設定する。この一連の作業ができれば、感覚的だった支援を再現可能な仕組みに変えられます。
一社の問題が、市場全体の商品になる
コンサルやコーチングをR&Dに変える最大のインパクトは、一社の課題から市場全体に売れる商品をつくれることです。
最初は、一社ごとに手作業で対応します。
しかし、複数の顧客に同じ問題が見つかれば、それは個別事情ではなく、市場に共通する構造的な課題かもしれません。
そこで解決方法を型にします。
例えば、
診断シート
業務マニュアル
研修プログラム
営業支援サービス
採用支援サービス
マッチング事業
メディア
データベース
SaaS
などへ展開できます。
コンサルで発見する。
コーチングで仮説を深める。
小さく解決策を試す。
KPIで効果を確かめる。
共通部分を抽出する。
商品として切り出す。
この循環が回り始めると、個別支援の売上とは別に、将来の事業資産が積み上がっていきます。
1時間の相談が、その場限りの1時間ではなくなるのです。
顧客が研究対象になってはいけない
ただし、注意点もあります。
「コンサルをR&Dにする」といっても、顧客を自社の研究材料として扱ってよいわけではありません。
まずは、目の前の顧客に成果を返すことが大前提です。
顧客の課題を解決し、その過程で得られた知見を、守秘義務やプライバシーに配慮しながら抽象化する。個別企業の情報を横流しするのではなく、複数の支援から共通構造を取り出す必要があります。
また、顧客の要望をすべて受け入れているだけでは、知見は蓄積されても商品にはなりません。
記録し、比較し、仮説を立てなければ、永遠にオーダーメイドの肉体労働が続きます。
相談を受けたら、少なくとも次の点を残しておくべきです。
顧客が最初に語った悩み
実際に発見されたボトルネック
実施した打ち手
設定したKPI
数値や行動に起きた変化
他社にも共通しそうな部分
個別事情にすぎない部分
この記録が、将来の商品企画書になります。
大企業には見えない市場が見えてくる
大企業は、規模の大きな市場を調査し、十分な採算が見込める領域に投資します。
一方、小さな事業者や個人には、大企業とは違う戦い方があります。
顧客のすぐ近くに立ち、まだ市場として認識されていない小さな困りごとを拾うことです。
一件だけなら、単なる特殊事情に見えるかもしれません。
しかし、同じ相談が3件、5件、10件と続けば、そこには名前のついていない市場が存在します。
最初から大きな市場を探すのではなく、小さな断絶を繰り返し観察し、その奥にある共通構造を発見する。
個別コンサルやコーチングをR&Dにできる事業者は、市場調査会社のレポートに掲載される前の需要を捉えられます。
これは、小さな会社が持てる強力な競争優位性です。
助言業ではなく、価値の開通業へ
コンサルとは、正解を教える仕事ではないのかもしれません。
コーチングも、相手から答えを引き出すだけの仕事ではありません。
顧客のビジネスやキャリアのなかで、価値がどこに眠り、どこで流れが止まっているのかを一緒に発見する仕事です。
そして、断絶に橋を架け、KPIを置き、本当に価値が流れ始めたかを確認する。
さらに、その過程で見つけた共通課題を、新しい商品や事業へ変えていく。
そう考えると、コンサルやコーチングは事業開発の前段階ではありません。
事業開発の最前線です。
個別支援をすればするほど、時間が失われるのではない。
正しく記録し、比較し、抽象化できれば、顧客との一時間から、次の事業が生まれます。
個別コンサルとは、橋を架ける仕事であると同時に、どこに橋が必要なのかを発見する仕事です。
そして優れた事業とは、何もない場所に無理やり価値をつくるものではありません。
すでに存在しているのに届いていない価値を見つけ、それが正しく届く状態をつくるものです。
コンサルやコーチングをR&Dに変えられたとき、時間の切り売りは、未来への仕込みに変わります。
目の前の一人を支援することが、次の一社を救う仕組みになる。
その仕組みが、やがて人や企業の時価総額を上げる事業へ育っていくのです。
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