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美味しい秋やってくる

高知県安芸市の山奥にある畑山集落で地鶏「土佐ジロー」を肉用として育て、加工販売、宿「ジローのおうち」を営む有限会社はたやま夢楽(むら)の社長・小松圭子が2025年6月からスタートした連載です。

2025年9月発行

 

はたやま夢楽の水田。8月に収穫を迎える。


 8月7日に、立秋を迎えた。猛暑が続くと思われたが、折よく百ミリを超える雨が降り、朝晩は暦通りに涼しさが増していった。かつて台風銀座と呼ばれた南国土佐も、近年は盛夏の台風が少ない。恵みの雨に違いないが、頭を垂れ始めていた稲は倒れてしまった。

 心配しつつ、お盆に稲刈りをした。奥山ならではの1日の気温差と水の清らかさが、美味しいお米を育んでくれる。ジローのおうちで提供するご飯は、すべて畑山で育てる自家米。土佐ジローの卵かけご飯や、親子丼になる。朝食の「おかわり」の声が嬉しい。食材は、育った土地のものを組み合わせると美味しい、と言われる。畑山の土や水、空気、日光で育った土佐ジローとご飯を、畑山で味わう。豊かだと思う。

はたやま夢楽が育てたコシヒカリで、土佐ジローの卵かけご飯にする。

 嫁に来る2010年のこと。離島で生まれ育ち、飲み水にも苦労した祖母は、「お米が育つ土地で暮らせることは幸せなこと」と、私の結婚を喜んでくれた。漁村に生まれた私は稲作とは無縁で育ち、今もすべてが新鮮で、興味深い。 

 3月、枯れ草が一面に広がっていた田んぼに、耕運機の音が鳴り響く。人口二十人の限界集落に、出身者が稲を作りに戻って来る。苗を育てる農家は既になく農協の育苗センターで購入する。

 桜が咲くが早いか、市街地では苗を棚にしたトラックが往来するようになる。田植えが近いことを告げる安芸の風物詩だ。程なく、畑山の田んぼにも苗が並び始める。ことしは、我が子2人も田靴を履いて、それなりの手伝い役となった。小学5年生でトラクターを操縦していた父には程遠いけれど、年々頼もしさが増している。

 桜が散ったころ、農家仲間に機械を持って来てもらって田植え。40アールほどの田んぼは、半日ほどで苗が植わる。水鏡を渡る風が、まだ幼い緑を揺らす。

届いた稲の苗を田んぼに移す。子どもたちも年々、頼もしくなってきた。

 水をたたえた田んぼに、ホウネンエビが姿を現す。冬の間、乾田だったところから、いきなり元気なエビが登場する。初めて見たときは、生命力のたくましさに驚いた。豊作のサインとも呼ばれ、縁起が良いという。

 中干しなどを経て、稲が実り、頭を垂れてゆく。畑山では、台風の襲来や豪雨の時期にも重なり、やきもきする。今でこそ天気予報もあり、不作でも購入という道が残されているが、昔の暮らしでは、気が気でなかっただろう。

 稲刈りが終わると、無数のトンボが空に舞う。ヒグラシやツクツクボウシが鳴き、落ちて来るイガグリが大きくなってゆく。畑山を覆いつくすほどの柚子の実も、テニスボールほどになる。空は高く青く、雲は白さが際立つ。栗の実が太り新米で炊く栗ご飯。ムカゴもそろそろだ。美味しい秋がやってくる。                         (小松圭子)

◇こまつ・けいこ◇ (有)はたやま夢楽社長。高知県安芸市畑山で養鶏業や旅館業を営む。愛媛県出身、元新聞記者。#田舎を楽しめる人と繋がりたい

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