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畑山の魅力 東京で知る

高知県安芸市の山奥にある畑山集落で地鶏「土佐ジロー」を肉用として育て、加工販売、宿「ジローのおうち」を営む有限会社はたやま夢楽(むら)の社長・小松圭子が2025年6月からスタートした連載です。

2026年6月発行

 五月半ば、桃源郷のような畑山から、真夏日を記録した東京へ出かけた。明け方聞いた「ちょっと来い」と呼ぶコジュケイの声はどこにも無く、人工的な音に包まれる。満員電車に身を滑りこませると、見知らぬ人の背中が眼前にある。

 あぁ、東京だ。

 十年ほど前から、年に一度、母校で講師を務めている。学生を前に農山漁村を語る。私自身、学生時代に国のモニターツアーで畑山を訪れたことが全ての始まりだった。田舎で生きる道を見つけよう と各地を巡った縁が、今の暮らしに繋がっている。

 今回初めて、二人の息子を同伴させた。高校受験を控え、「跡を継ぎたい」、と言い始めた長男に、外の世界を体感してもらいたかった。

 人の多さに辟易としていた二人を大隈庭園に案内した。ここには、学生時代に友だちが中心となり、開墾した水田がある。早稲"田"なのに田んぼが無いのはおかしい と、総長まで巻き込んでの大仕事だった。

早稲“田” 大隈庭園の一角にある

 後輩たちが今年も代掻きをしたようだ。感慨深く思う私をよそに、子どもたちはハート形の小さな田んぼを、さっさと通り抜けてしまった。

 大学生協に連れて行くと珍しく英語や理科の学習本を手にした。良きかな。おとなしく聴けるか心配だった講義も、一番後ろの席から私を見続けていた。

 受講生の大半は都市圏の出身者だ。高知県へ、四国へ、来たことのある人は少ない。約三十人を前に、限界集落での生業創りというリアルを伝えた。 インターンに行くには? 将来、宿をやりたい 。授業後、学生たちが寄って来てくれた。かつて「母ちゃんの授業は難し過ぎる」と不平を漏らした次男からも、今回は合格点をもらえた。

 肩の荷を下ろして、向かったのは取引先の「中野焼鳥金長」さん。開業前に宿でジロー講座を受講してくれた店主たちが迎えてくれた。備長炭を練りこんだエクレアにジローのリエットを挟む。跳躍をして筋肉の発達したジローの手羽を骨から抜いて串に刺す。えり好みの激しい息子たちが職人技のフルコースをペロリと平らげた。

 「美味しかったー」。

備長炭の粉で作った土佐ジローのリエット

 翌日は上野の博物館へ。土佐ジローの父・土佐地鶏のはく製があった。普段見慣れたシカやイノシシ、モグラも。畑山には生息しないクマがいた。この巨体が時速六十キロで走って来たら… 。想像するだに恐ろしくなる。

 畑山の山道に戻ったのは夜九時。ウサギが跳ね、イノシシの子どもが車の前を先導する。最後には、タヌキも顔を出した。家に着けば満天の星。昼間博物館の中で大勢の人が眺めていた動かぬモノが、畑山では生きている。

 息子たちは帰るなり、 畑山が良い と言った。街の人たちが求めるものも、 まだまだ畑山にある 。私の役目は、それらを生かし、 伝えることだと思う。     

(小松 圭子)

◇こまつ・けいこ◇ (有)はたやま夢楽社長。高知県安芸市畑山で養鶏業や旅館業を営む。愛媛県出身、元新聞記者。#田舎を楽しめる人と繋がりたい

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