新たな世界見出す眼鏡
高知県安芸市の山奥にある畑山集落で地鶏「土佐ジロー」を肉用として育て、加工販売、宿「ジローのおうち」を営む有限会社はたやま夢楽(むら)の社長・小松圭子が2025年6月からスタートした連載です。
知ることで見えてくる世界がある。
上から眺めて何もいないと思う川。水中眼鏡で覗けば、鮎やハヤ、ゴリが右に左に泳ぎ回っている。樹種の少ない植林地だと思っていても、希少種があったりする。動植物の名前や生態を知ることで、奥山で暮らす楽しみは日ごとに増している。
ジローのおうちと市街地を往来していると、並走するリーゼント姿のヤマセミ。キセキレイは、上下に振れながら道案内をするように先導してくれる。梅雨入りするころ、アカショウビンが美声を里に響かせ始める。またの名を雨乞い鳥。靄に覆われ、水墨画のようになった里に、華やかな音色を添える。だが、紅色の艶やかな姿を見せることは滅多にない。だから、出会うと小躍りしたくなる。
梅雨明けには、ムカデランが小さな花を咲かせる。高知県出身で、先の朝ドラの主人公となった牧野富太郎博士。博士が名付けた花は、氏神様に鎮座する大木の上方に自生し、天然記念物に指定されている。針状の葉の姿から名付けられたという。とても小さな花なのに、きちんとランの花の形をしていて愛らしい。

初夏には、キヌガサダケも姿を現す。生えてきたばかりでは、一本の白いキノコ。時が満ちれば、茎と先端の傘の間に織り込んでいる膜が、レース状に、まるでスカートのように広がる。キノコの女王という名にふさわしい出で立ちとなる。それもほんの数時間だけ。朝、見つけても、午後には無残な姿となる。

つい先日、県道脇にニホンカモシカの親子を発見。川の対岸にいたからか、のんびりと過ごしている。時折、こちらを気にする素振りも見せるが、崖の草を食んだり、中洲をうろうろしたり。シカを名乗れども、ウシ科。動きはどこか緩慢でもあり、ガードレール下からふらっと現れたときには人かと見誤り、ぎょっとした。
畑山でもニホンカモシカに出会うのは稀だが、全国的にはさらに希少。農林水産省のYouTube「バズマフ」で昨夏、私がジローのおうちの近くで撮影した写真がチラッと紹介されている。
もともと動植物に詳しいわけではない。畑山で出会う機会が好奇心を育んでくれる。なにより、夫や家族、スタッフたちが、生き字引のように教えてくれる。最近では、スマホをかざせば教えてくれるアプリもある。
「 こんなところでよく暮らせますね 」。そんな風に言う人もいる。私の“眼鏡”を貸してあげたい。私よりも畑山を知る夫たちの“眼鏡”を私も貸してもらいたいと思う。まだまだ気づけていない畑山の楽しみが、きっとある。“眼鏡”の処方箋を作って、皆にかけてあげたい。
◇こまつ・けいこ◇ (有)はたやま夢楽社長。高知県安芸市畑山で養鶏業や旅館業を営む。愛媛県出身、元新聞記者。#田舎を楽しめる人と繋がりたい
