川辺でサウナ 夏満喫
高知県安芸市の山奥にある畑山集落で地鶏「土佐ジロー」を肉用として育て、加工販売、宿「ジローのおうち」を営む有限会社はたやま夢楽(むら)の社長・小松圭子が2025年6月からスタートした連載です。
私は漁村生まれ。夏休みは朝から晩まで海にいた。空想好きの少女は人魚に憧れ、海中をくるくると回った。船から飛び込み、潜って貝を採る。
夕暮れになると桟橋から釣り糸を垂れ、アジや太刀魚、イカを狙った。祖父が船を出してくれる夜は、一晩で百杯ものイカが釣れたこともある。
田舎暮らしは、楽しい。
それなのに、大人たちは「都会へ出るのが幸せだ」と言う。どうしても理解できなかった。反発するように、私は田舎で一次産業に就きたいと思い続けた。田舎暮らしの楽しさを手放したくなかった。新聞記者を経て、畑山に嫁いだのも、私には自然な流れだった。
ところが、嫁いだばかりの頃は仕事に追われ、畑山を楽しむ余裕がなかった。一日中、宿にこもり、川を見ることすらできない。
そんな暮らしの中で、「私たちが楽しめていないのにお客さんに畑山の魅力が伝わるはずがない」と思うようになった。
子どもが生まれると、その思いは一層強くなった。我が子と一緒に川へ行き、山を歩き、その時間をお客さんとも分け合うようになった。今では夏になると、土佐ジローだけでなく、川遊びを目当てに宿は連日満室になる。

けれど、「川へどうぞ」と案内するだけでは魅力は伝わらない。川面を見て「なにもいませんね」と言われる。
そんな時は水中眼鏡を渡す。子どもたちには網も持たせる。川の中ではアユが颯爽と泳ぎ、ゴリが川底をふわりふわりと移動している。子どもたちは唇が青くなるまで魚を追いかける。
先日、サウナ宿のオーナーが土佐ジローを食べに来てくれた。以前からの私の絵空事を伝える。
「この冷たい畑山川でサウナができたら最高だと思うんです」
梅雨明けの日、静かな河原がテントサウナの会場になった。県内外から二十人ほどが集まり、私にとって「ハレの日」になった。前夜は遠足を待つ子どものように、何度も目が覚めた。
薪で熱した石に水をかけ熱々になった体で畑山川へ入る。
冷たーい!!
それでも、気持ちいい。
夫は用水路の板を動かして即席の滝をつくり、「滝行だ!」とみんなを呼ぶ。
サウナに入る人、川に椅子を入れて、涼をとる人、水中眼鏡で見続ける人。
河原のあちらこちらで、大人たちが子どものように思い思いの時間を過ごしている。
「最高の場所ですね」
そう、この光景を創りたかったんだ、ワタシ。

私が育った海も、畑山も特別な場所だから好きなのではない。楽しみ方を知る人がいて、一緒に遊んでくれる人がいるから好きなのだ。
これからも畑山で、誰かが夢中になれる時間を、ひとつずつ創っていきたい。
(小松 圭子)
◇こまつ・けいこ◇ (有)はたやま夢楽社長。高知県安芸市畑山で養鶏業や旅館業を営む。愛媛県出身、元新聞記者。#田舎を楽しめる人と繋がりたい
