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世界のどこにいても日常が存在する

その日その時間、私はバンクーバーにいた。
現地時間は2026年6月29日午前10時。
日本時間では翌30日の午前2時。
ワールドカップ、
日本対ブラジル戦のキックオフの時間だ。

私はその日の13時50分発のJAL便で
成田へ向かう予定だった。
空港に到着したのは9時50分。
本当は9時半頃には着いて、
空港内を確認しながらゆっくりと
試合開始を迎えようと思っていた。

ところが途中の思わぬ渋滞で計画は狂った。
しかも、この空港から出発するのは初めて。
JALのチェックインカウンターはどこか。
どこで腰を落ち着けて試合を見られるか。
カウンターが開くまでどう過ごすか。
すべてがぶっつけ本番だった。

時計を見る。
キックオフまで残り10分。
本当なら入場シーンも見たい。
国歌斉唱もしっかり聞きたい。
だが、そんな余裕はない。
まずは椅子探しだ。
国際線のチェックインフロアには
意外なほど座る場所がない。
私はキャリーバッグを引きながら、
早足で空港内を歩き回った。

ようやく椅子を見つけた時には、
時刻は10時02分。
試合はすでに始まっていた。
急いでパソコンを開く。
空港の無料Wi-Fiへ接続。
FOXへアクセス。
イヤホンを耳に差し込む。
準備完了。

試合開始から5分ほど遅れてしまったが、
それでも無事に観戦に間に合った。
JALカウンターが開くのは出発3時間前の
10時50分・・・。
ちょうどハーフタイムの頃だ。
私は画面から目を離し、
チェックインカウンターへ向かった。

ありがたいことにJALのステイタス会員で
あるおかげで長い列に並ぶ必要はない。
手続きを終えると再び椅子へ戻る。
そしてまたパソコンを開く。
後半戦開始だ。
周囲を見渡すと、レストランの前に
人だかりが出来ている。
恐らくテレビ画面で観戦しているのだろう。

だが、パソコンを開いて試合を見ているのは
私だけだった。
少しだけ誇らしい気分になる。
考えてみれば凄い時代になったものだ。
ワールドカップの全試合を
放映するFOXに加入し、
VPNによってアメリカ国内から
アクセスしている状態を作り出し、
カナダの空港で、日本代表の試合を、
ほぼリアルタイムで観戦している。
しかも利用しているのは
空港の無料Wi-Fiだ。

ほんの二十年前なら考えられなかった。
海外に出れば日本の情報から切り離される。
試合結果は後日新聞で知る。
そんな時代だった。
それが今では世界のどこにいても、
日本と同じ時間を共有することができる。

私は旅が好きだ。
移動も好きだ。
好きなものを諦めたくない性格でもある。
だから旅先でも日常を
持ち歩いているのかもしれない。
世界のどこにいても、
好きな試合を見て、日本と繋がり、
同じ瞬間に歓喜したり悔しがったりする。
そんなことが当たり前に出来る時代を
生きていることは、
本当に幸せなことなのだと思う。

バンクーバー空港の片隅で
日本代表を応援しながら、
私はあらためて、
技術の進歩と時代の豊かさに感謝していた。

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