『兄とその妹』(1939年4月1日・松竹・島津保次郎)
U-NEXTで、1939年島津保次郎『兄とその妹』を「桑野通子見たさ」にスクリーン投影。戦前といっても、まだおっとりとしたリベラルな空気と、日中戦争激化による軍歌の響きが渾然としていた時代。ホワイトカラーの佐分利信と、女学校を出て英語が堪能なタイピストの桑野通子の「兄いもうと」と、佐分利信の妻・三宅邦子の日常を描いたモダニズムと生活感溢れる大船調の微苦笑のドラマ。
やー、やはり桑野通子は素晴らしい。同時代、東宝の原節子と色んな意味で好対照をなす。つまり松田聖子と中森明菜のようなタイプの違い。

佐分利信はこれまでのスクリーンイメージ同様、不器用だけど不正や嘘は嫌いな正義漢。かつて、他の会社に勤めていたが、耐えられないことがあり辞職。同僚だった笠智衆もしばらくして退職。いまは会社経営者となっている。
さて、佐分利信は商科出身で計算は得意、今の会社では中途採用なのに、その才能を高く評価され、しかも趣味の囲碁で監査役・坂本武のお相手をつとめて覚えがいい。しかし、好事魔多し。同僚の河村黎吉に嫉妬され、あることないこと吹聴されて、社内での立場が危うくなる。
といった展開に、桑野通子のオフィスにしょっちゅう訪ねてくるオックスフォード出身のブローカー・上原謙が、彼女に一目惚れして、叔父・坂本武を通して「妹さんを欲しい」と佐分利信に結婚話が持ちかけられる。
普段の大船メロドラマなら、これは願ってもない話となるのだけど、この映画の新しさ、リベラルさは違う。桑野通子は縁談そのものには前向きだけど、重役のしがらみで、会社における佐分利信の立場に迷惑をかけたくない。日本の会社組織では、必ず、兄さんへの嫉妬が渦巻くからと、断る。
この話を告げる、箱根のピクニックシーンがいい。随所にインサートされるモダン東京風景もピカピカしていて眩しい。

結局、佐分利信は河村黎吉たちの嫉妬で、会社での立場がなくなる。そこからは、佐分利信のヒーロー映画として、胸のすく展開となる。
戦後の源氏鶏太のサラリーマン小説、その映画化の東宝サラリーマン喜劇のプロトタイプというか、藤本真澄がいかに戦前の松竹映画を意識して、戦後に娯楽映画を撮っていたことがわかる。
モダン、ということでは、三宅邦子が風邪を引いたときに、桑野通子が銀座でアイスクリームもお土産で買ってくる。大きな箱を開けると、ドライアイスの塊が三つ。それを箸で退けると、ガラスのコップに入ったアイスクリームが! ああ、こうしてテイクアウトしていたんだなと感心。
佐分利信一家があるのは、国電蒲田駅近く。出勤シーンは本当のラッシュに、桑野通子がお洒落なコートに帽子を被って駅の混雑、満員の東京行きの電車に乗る。それだけで、ワクワクする。

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