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『蜘蛛の街』(1950年6月3日・大映・鈴木英夫)

昨夜は、鈴木英夫監督の第二作にして、その才気溢れるサスペンス映画の傑作「蜘蛛の街」(1950年・大映)をスクリーン投影。やー、これは素晴らしい。この時期の黒澤明作品にも引けをとらないニッポン・ノワールの醍醐味を堪能。

倉谷勇の原作を高岩肇が脚色。音楽は伊福部昭、美術は木村威夫! ノワールとしても素晴らしく、映画時層探検家としては、宇野重吉の主人公がサンドイッチマンとして、歩く、歩く、歩くのが、有楽町界隈。そのロケーションが実に丹念になされている。朝日新聞東京本社、日劇、マツダビル、泰明小学校、外濠川、山下橋… 宇野重吉とともに、昭和25年の銀座を歩く楽しさに溢れている。

しかも物語もよく出来ている。疑惑の局長・宇野重吉が拉致され、行方不明となり、しばらくして死体で発見される。発見される前夜、局長・宇野重吉が多摩川沿いを歩き、河畔の料理屋に入った姿が目撃されている。自殺説が流布されるが、その真相は…

宇野重吉、中北千枝子

つまり、戦後まもなくの日本を揺るがした「国鉄下山総裁謀殺事件」にインスパイアされて、その謀殺の裏側を描いていく。

主人公・榊原(宇野重吉)は、団地で妻・中北千枝子とまだ幼児の一人息子と三人暮らし。まだ他の棟が建設中であることから、1948(昭和23)年に工事が開始された新宿の戸山アパート(現在の戸山ハイツ)でロケーション。この頃はまだ、ぼくたちがイメージする日本住宅公団の鉄筋団地はまだ存在していない。しかし、東京都は戦後の住宅難解消のために、国に先駆けて大規模集合住宅を手掛けていた。

日本映画専門チャンネルの解説で「公団 赤羽台団地」とされているのは誤りで、この映画が作られた頃の団地スタイルの集合住宅は、戦前からの同潤会アパート、戸山団地、高輪アパートぐらい。

戸山アパート



というわけで、榊原は会社が潰れたことを妻に言えずに、連日、職安に通っているが、なかなか仕事がない。ある日、銀座を歩いていると「街頭宣伝係」の募集があり、恥を忍んでサンドイッチマンとなる。ロイド眼鏡をかけて「日本楽器=ヤマハ」の看板を持って、有楽町から銀座四丁目の服部時計店を歩いている。そのロケーションが素晴らしい。

さて、そんな榊原を見初めたのが、暗黒街のボス・三島雅夫。その手下に花布辰男、伊沢一郎、高品格。この布陣だけでワクワクする。特に伊沢一郎が、常に飲んだくれて、殺人マシンのように血に飢えた狂気をむき出しにしている。それまでの日本映画にはない1950年代のハリウッド・ノワールのようなサイコ・キャラクター。

さて、榊原は高額のギャラで三島雅夫に雇われ、ある日、外濠川の山下橋で待つようにと指示される。ここは「ゴジラ-1.0」で、浜辺美波が落下した川である。クルマに押し込められ、花布辰男の有無も言わせぬ命令で「多摩川付近を変装して歩き回れ」と強要される。

彼らが拉致している疑惑の局長・宇野重吉(二役)に仕立て上げられてしまう。

公開の前年に日本中を揺るがした、国鉄総裁の未解決失踪・死亡事件である「下山事件」では「総裁に似た替え玉の男が、事件当日に別の場所をうろうろして目撃証言を作っていたのではないか」という謀殺説が噂された。鈴木英夫監督は、この「替え玉に仕立て上げられ、アリバイ作りに利用される恐怖」を、当時街に溢れていた「サンドイッチマン」を通してリアルに描いていく。

自分と瓜二つの局長が謀殺され、自分が犯罪に利用されていたことを知った榊原。花布辰男たちは「警察にバラしたら、妻子の命はない」と脅迫する。ここから映画は、鈴木英夫作品らしいニューロティック・サスペンスへと雪崩れ込んでいく。

事情を知らない妻・中北千枝子は、「気晴らしに」と家族で多摩川園へ出かけようと誘う。幼い息子は無邪気にはしゃぐ。しかし、その背後では、花布辰男と伊沢一郎たちが執拗に監視を続けている。

この後半の緊迫感が凄まじい。足がつくから榊原を殺すな、と三島雅夫は命じるが、伊沢一郎の狂気は制御不能となっていく。その殺人マシンのような不気味さ。これはかなり怖い。

悪漢たちが執拗に侵入してくる団地の階段のセットは、木村威夫ならではのパースで見事!伊福部昭の不穏な音楽も絶品。まさに未見の大傑作!

団地のセットは見事!

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佐藤利明(娯楽映画研究家・オトナの歌謡曲プロデューサー)の娯楽映画研究所 よろしければ、娯楽映画研究への支援、是非ともよろしくお願いします。これからも娯楽映画の素晴らしさを、皆さんにお伝えしていきたいと思います。