【ショートストーリー】安っぽくて、甘ったるい後悔の味。
仕事終わり、
疲れた身体を引きずるようにして
コンビニのデザートコーナーを一周する。
モンブランが置いてあれば、
今日はなんとか乗り切れる日だ。
どんなに嫌なことがあっても、
コーヒーとモンブランさえあればいい。
食べている数分間だけ、心がちゃんと自分へと戻ってくる。
最近のモンブランは、どの店も個性が強い。コンビニのスイーツも、レベルが上がり「ちゃんと美味しい」時代になった。
欲しいものを、欲しいときに食べられる。
それだけで、人は少し救われる。
そう、私は、救われている。
そして今日は、当たりの日。
棚には、まだモンブランが残っている。
手を伸ばした、その横に巨大なプリンが並んでいた。ゼラチンで固めた、やけに大きなプリン。子どもの頃は好きだったけれど、今はもう、あの味が安っぽく思えて好きじゃない。
同棲していた元彼は、バカな男だった。
「何か甘いものを買ってきて」
そう頼むと、なぜか決まって
この、どでかいプリンを買ってくる。
私は一度も、好きだなんて言った覚えはない。
買ってきた日は、必ず文句を言って、口をつけなかった。でも、二回目は、笑ってしまった。
三年も一緒に暮らしていれば、
好きなものくらい
分かっていてもよさそうなのにね。
そんなことを思いながら
モンブランをレジに置き、支払いを済ませる。コンビニを出て、一人の家に帰りながら、少し欠けた月を眺める。お前も一人ぼっちか。
モンブランは、食べている間、
確実に私を癒してくれる存在だ。
ちゃんと、美味しい。
けれど、冷蔵庫に追いやられた
可哀想なプリンも、確かに、私を幸せにしていた。
食べられず、冷えたまま、私を愛していた。
別れるとき、
これ以上一緒にいる意味はないと
心から思っていた。
未練もなかった。
今でも、その判断は正しいと思う。
前向きな別れ。
間違っていない選択。
それなのに。
失恋のイタミは、
こういうどうでもいい日常の隙間から
突然、顔を出す。
部屋に入ると、コーヒーを淹れ、
静かな部屋で
一人、モンブランを食べながら思う。
あのとき、食べておけば良かった。
きっと、どこにでもある安っぽくて甘ったるい幸せの味がしたんだろう。
もし、今食べても
それは失恋のイタミの味しかしないだろうから。

