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北斎の描いた小さい富士山を見にいく


葛飾北斎といえば、富士山である。

大波の向こうに小さく見える富士。
赤く染まった富士。
江戸の町の向こうに見える富士。
湖面に逆さに映る富士。

『冨嶽三十六景』は、名前だけを見れば「富士山の絵を36枚描いたシリーズ」のように思える。

ところが、実際には46図ある。

最初に36図が出版され、その人気を受けて10図が追加されたからだという。しかも北斎がこのシリーズを手がけたのは72歳ごろ。

若い絵師の代表作ではない。

70歳を超えた絵師が、富士山を描きまくったのである。

そして、ここからが面白い。

北斎は、46か所の風景を写真のように現地で写生して、そのまま絵にしたわけではない。

50代のころ、北斎は名古屋の弟子のもとに二度滞在し、その途中で東海道を旅している。

そのとき各地から見た富士山をスケッチした。

しかし、それをすぐに作品にしたわけではない。

その後、何年もかけて構図を練り、趣向を考えたという。

つまり北斎にとって、

「富士山がそこに見えた」

ということと、

「富士山をどう描くか」

は、まったく別の問題だった。

たとえば『尾州不二見原』。

富士山は、画面のずっと奥に小さく描かれている。

ところが、手前には巨大な桶がある。

しかも、その中に富士山が入る。

まるで額縁のように。

富士山を大きく描くのではなく、小さくすることで、かえって富士山を見せる。

北斎は遠近法そのものを、ひとつの演出装置にしてしまう。

『甲州三坂水面』もすごい。

河口湖と富士山を描いているのだが、実景では夏の富士のはずなのに、湖面に映る「逆さ富士」には雪が積もっている。

現実にはありえない。

でも、絵としてはありえる。

北斎は、現実を記録しているのではなく、

「富士山を見る」という体験そのものを編集している。

だから北斎の富士山は、毎回違う。

場所が違うからではない。

富士山の見せ方そのものが違うからだ。

そして、北斎を考えるうえでもうひとつ面白いことがある。

『冨嶽三十六景』より前から、北斎は富士山を描いていた。

60代半ばには、櫛や煙管の職人のための図案集『今様櫛きん雛形』の中にも、後の『冨嶽三十六景』につながるような、細くすっと伸びた富士山が登場する。

つまり北斎は、いきなり「富嶽三十六景」を思いついたわけではない。

富士山を何年も、何十年も描き続けていた。

そして70歳を過ぎてから、それまで蓄積してきたものを一気に46枚の風景として展開した。


北斎の富士山を見るとき、

北斎が描いていたのは、富士山そのものではなく、

人間が風景を見る瞬間

だったのではないかと思えてくる。



チャッピーが見た小さい富士山 at 仙石原 2026年


チャッピーが見た小さい富士山 at 仙石原 2026年


仙石原のススキと富士山

「△」が見えます。
「▽」が見えます。

  • 富士山そのもの → 大きな△

  • 左のススキの群れ → 斜めの線が連続して△をつくる

  • 手前右のススキ原の斜面 → もう一つの大きな▽

  • 富士山の裾野・湖岸 → 水平線(□の基準)

  • 雲 → ○のような曲線の反復

  • ススキの穂 → 30°前後の斜線が大量に反復

特に面白いのは、富士山の△と、手前のススキの斜面△が呼応していること、画面の中に斜めの方向が何層も入っている



北斎 幾何学 まるさんかくしかく の話

北斎の構図の面白さは、単に「丸・三角・四角」で絵を描くことだけではありません。『略画早指南』では、定規やコンパスを使い、複雑なものを円や線などの基本的な形に分解してから組み立てる方法を示しています。つまり、「見る→写す」ではなく、「見る→構造に分解する→再構成する」という発想です。

さらに『北斎漫画』などでは「三ツ割の法」のように、画面そのものを分割して、空・地・人物・山などの配置を決める考え方も見られます。北斎の絵は、一見すると自由で大胆ですが、その奥には丸・三角・四角と、画面をどう割るかという緻密な設計があったのです。


名作に生きる幾何学構図

名作に生きる幾何学構図 『略画早指南』の手法は教材にとどまらず、北斎自身の代表作の強力な構図づくりにも直結しています。

  • 『富嶽三十六景 尾州不二原』:職人が作る巨大な丸桶(大きな○)の開口部から、遠くの富士山(△)を覗かせる幾何学的デザイン。

  • 『富嶽三十六景 神奈川沖浪裏』:大きく弧を描く巨大な波(○の要素)と、その渦の奥に静かに佇む富士山(小△)の対比。

  • 『富嶽三十六景 凱風快晴(赤富士)』:画面を大胆に斜めに切る巨大な富士山(△)と、上空に浮かぶ雲の層(曲線の連なり)。


参考
和楽
和樂web「葛飾北斎の富士山全部見せ!」
和樂web「ここがスゴイ!葛飾北斎の代表作『富嶽三十六景』5つの見どころ」





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